上 下
21 / 43
第3章 ドキドキの初コラボ!エルフの歌い手イリエナちゃん

第3話 スライムにびっくり!?

しおりを挟む
 前方からノソノソとやってきたのはグリーンスライムだった。
 大きさはぼくの頭よりもちょっと小さいくらい。
 第1階層に出現するモンスターの中でも最弱のモンスター。つまり全モンスターの中で最弱ってことだ。
 それでも、イリエナちゃんはガクガク震えていた。

「カイくん、あれがモンスターですか?」
「うん、グリーンスライムだよ。1番弱いモンスターだから心配しなくても平気だよ」

 安心させようとしたんだけど、イリエナちゃんは涙目でガクガク震えたままだ。
 こうなったら実際に倒してみた方がいいかな?

「大丈夫、見ていて」

 ぼくはイリエナちゃんの手をそっと離してて、スライムに向けて飛びかかった。
 スライム系のモンスターはショートソードで斬るより、拳圧けんあつでコアを叩き潰した方が確実だ。
 ぼくのパンチ一発で、グリーンスライムは黒い霧になって消える。
 イリエナちゃんを振り返り、ぼくは意識してニッコリ笑った。

「ほら、大丈夫だったでしょ?」

 すると、イリエナちゃんは「カイくんっ!」と叫んで、ぼくに飛びついてきた。

「ちょ、イリエナちゃん!?」
「こわかったです」

 抱きつかれて、ぼくの心臓はパニックを起こしたかのようにドックンドックン暴れ回った。
 さっきからぼくの心臓はどうしちゃったんだろう。
 イリエナちゃんのことを考えたり、手をつないだり、抱きつかれたりすると、どきどきが止まらなくなる!

「イリエナちゃんはぼくがまもるから大丈夫だよ。ほら、もう泣かないで」

 ぼくがそう言うと、イリエナちゃんは初めて自分が泣いていたと気がついたらしい。

「やだっ、わたしってば恥ずかしい」

 イリエナちゃんは慌てた表情になって、袖口で涙を拭った。

「どうする? 恐かったらもうダンジョンから出ても……」

【脱出】の魔法を使えば今すぐでもダンジョンから出られる。
 だからこそ、冒険者としては素人のイリエナちゃんをダンジョンに連れてこれたんだけど。

「い、いいえ! もっとがんばります!」
「そっか、じゃあ先に進もう。それとあんまり抱きつかないで」
「あ、ごめんなさい。迷惑ですよね」
「迷惑っていうか、モンスターが出てきたとき、とっさに動けないと危ないし」
「はい、ごめんなさい。わたしってばつい……」

 イリエナちゃんはそう言って、ぼくから少しだけ離れてくれた。
……なぜだか、ちょっと残念と思ってしまった。



 その後、ぼくはイリエナちゃんとダンジョンを巡りながらモンスターを倒していった。
 最初のグリーンスライムのあと、オオトカゲにイエローバタフライ、そのあともう一回ブルースライム、ホーンドッグなどなど。
 レッドスネークを倒したところで、イリエナちゃんが目を輝かせた。

「カイくんって本当に強いんですね!」
「ぼくなんてまだまだだよ。でも少しは恐くなくなった?」
「はい! カイくんが一緒なら安心です!」
「へへへっ」

 ちょっと照れちゃうな。
 ぼくはあたまをカキカキ。
 この時ぼくはイリエナちゃんの息が上がっていることに気がついた。

「イリエナちゃん、ひょっとして疲れちゃった?」
「……ちょっとだけ」

 考えてみれば当たり前だ。
 アンバの町からダンジョンの入り口の洞窟までだけでも、それなりに距離がある。
 ダンジョンに入ってからも歩きづめだった。
 ぼくにとってはいつものことだけど、イリエナちゃんにはキツかったかも。

 なんで気がつかなかったんだ。
 ぼくのバカバカバカっ!

「ごめんね。気がつかなかったよ。ちょっと休もうか」
「でも、モンスターが出てきたら……」
「だいじょうぶ。さっきの道を右に曲がったところに、結界のがあったみたいだから」
「結界の間?」
「モンスターが入ってこれない広間だよ」
「そんなのがあるんですか」

 休憩するにはとっても便利なところだ。
 ぼくらは結界の間へと向かった。
 そこにはぼくら以外にも何組かの冒険者がいて、装備の点検をしたり、ちょっと早めのお昼ご飯を食べたり、雑談したりしていた。

「ここが結界の間ですか」
「うん、そうだよ。ほら、広間の真ん中に女神様の像があるでしょ? この広間にはモンスターは入って来れないんだ」
「へー、そうなんですねー」

 ここは冒険者同士が交流したり、冗談を言い合ったりする場でもある。
 もちろんケンカは御法度だ。
 ぼくらをみて、冒険者達が軽口を叩いた。

「お子様カップルがこんなところで何をしているんだ? ここはピクニックに来るところじゃねーぜ? 怪我をしないうちにおうちに帰りな」
「そうは言っても、ダンジョンから強制排出されるのは夜中だろ。坊や達、この広間ならモンスターが出てこないから夜までここにいた方がいい」

 そんな風にぼくらを心配してくれる人がいる一方で、別の人は大声で笑った。

「ガーハッハハ。そんな心配はいらないさ。なあ、カイ?」
「ボクのことを知っているの?」
「もちろんだとも。お前の動画、いつも見ているぜ」

 どうやら視聴者さんみたいだ。
 他にもぼくの動画を見たことがある人が10人くらいいるみたい。
 うれしいなぁ。

「みんな、ありがとうっ!」

 ぼくがそう言うと、さらに誰かが聞いてきた。

「そのかわいい女の子はガールフレンドか? カイもやるな」
「ち、ちがうよ。今度の動画のコラボ相手で……」

 慌てふためくぼくをよそに、イリエナちゃんが半歩進み出た。

「エルフの歌い手のイリエナです」
「ほう……歌手か」
「はい!」
「それなら一曲歌ってくれよ!」

 そんな声に、ぼくは言った。

「でも、イリエナちゃんは疲れているみたいだし……」

 でも、イリエナちゃんは「大丈夫です」とニッコリ。

「歌い手として、リクエストされたら歌う以外の選択肢なんてないですよ」

 そう言って、イリエナちゃんはスッと広間の中央――女神様の像の前にへ立った。
 その場でみんなに一礼。

「それではエルフ族に伝わる【癒やしの歌】を一曲」

 そしてイリエナちゃんは歌い出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界帰りの勇者は現代社会に戦いを挑む

大沢 雅紀
ファンタジー
ブラック企業に勤めている山田太郎は、自らの境遇に腐ることなく働いて金をためていた。しかし、やっと挙げた結婚式で裏切られてしまう。失意の太郎だったが、異世界に勇者として召喚されてしまった。 一年後、魔王を倒した太郎は、異世界で身に着けた力とアイテムをもって帰還する。そして自らを嵌めたクラスメイトと、彼らを育んた日本に対して戦いを挑むのだった。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

処理中です...