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第2章 カイの大躍進とアグレットの没落

第9話 ふくふく亭に響くイリエナちゃんの歌魔法♪初めてのコラボ配信決定!

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 マホレットから、イリエナちゃんの歌が響く。
 ぼくは……いや、ぼくだけじゃなくて、プリラおねーさんもマリアさんも、他のお客さん達も、声もなくその歌を聴いていた。

 歌が終わると、イリエナちゃんは動画の再生をとめて恥ずかしそうに言った。

「どうでしょうか?」

 どうでしょうかって、それは決まっている。

「すごい! すごいよ、イリエナちゃん」

 ぼくはお歌なんてほとんど聞いたことがないけど。
 それでもわかる。
 イリエナちゃんのお歌はとってもきれいだ。
 やさしくて、聞いているだけで心がぽかぽかしちゃったよ。
 聞き惚れるっていうのはこういうことを言うんだろう。

「イリエナちゃんはお歌の天才だね!」
「そんな、恥ずかしいです」

 イリエナちゃんの今の動画は、一昨日UPしてすでに10万再生されているという。

「3日で10万再生!? すごいじゃん!」

 ちなみにぼくの昨日UPした動画を確かめてみると、まだ6万再生くらいだった。

「どうでしょう、コラボしていただけませんか?」

 イリエナちゃんのお歌はたしかにすごい。
 再生数もすごいし、ありがたい話だと思う。
 だけど……

「でも、僕、お歌なんてムリだよ」

 僕が歌えるのは、せいぜい小さい頃お母さんが歌ってくれた子守唄くらいだ。

「えーっと、そうじゃなくて、私をダンジョンに連れて行ってほしいんです」

 さすがにぼくも驚いてしまった。
 いくらお歌が上手くても、ダンジョンでの冒険は難しい。
 なにより、歌い手さんがなんでダンジョンに行きたいのか分からない。

 ぼくが何か言う前に、プリラおねーさんがイリエナちゃんに言った。

「イリエナちゃん、ダンジョンって本気なの?」
「はい。カイさんの動画を見て、是非に一緒にと」
「あのねえ、イリエナちゃん、カイくんの動画を見ていると勘違いしがちだけどね。ダンジョンっていうのはとっても危険なのよ? 遊び感覚で行く場所じゃないわ」

 ぼくも遊びでダンジョンに行っているつもりはないんだけどな。
 でも、たしかにプリラおねーさんの言うとおりだ。
 ダンジョンでの冒険は危険がつきもの。冒険者以外が立ち入るべきじゃない。

 だけど、イリエナちゃんはプリラおねーさんに反論した。

「私、遊び感覚なんかじゃありません」
「そうは言うけどね……」
「わたし、自分の歌の可能性を知りたいんです」
「いや、歌の可能性って……」

 イリエナちゃんの歌はたしかにすごいけど、それとダンジョンでの冒険がどうしても結びつかない。

「エルフの歌はただの歌じゃありません。わたしは歌魔法が使えるんです」

 歌魔法という聞き慣れない言葉に、ぼくは首を捻る。

「イリエナちゃんは魔法使いなの?」
「はい。今から証明します」

 そう言って、イリエナちゃんはこんどはその場で歌い始めた。
 さっき、マホレットから聞こえてきたのとおんなじ歌。
 でも、目の前で歌われると、全然違った。
 心も体もぽかぽかして、なんだか元気が出てくる。

 ううん。
 それだけじゃない。
 さっきの冒険で右足につけちゃった擦り傷が治ってく。
 それどころか、【フレアソードダンス】などで使ったMPが回復していくのも感じた。

 ぼくだけじゃない、みんな体力や傷が回復してびっくりしている。
 いりえなちゃんは歌い終えるとその場でお辞儀した。

「これがエルフの歌魔法、癒やしの歌です」

 ぼくは目を見開いたまま叫んだ。

「すごい! これ、本当にすごいよ!」

 怪我や体力を回復する魔法ならある。
 お母さんの得意魔法だし、ぼくだって使える。
 でもMPを回復する魔法なんて見たことも聞いたこともない。

「他にも、炎の歌や氷の歌、雷の歌もあります」
「それって、ひょっとして……」
「はい、炎や氷、雷で攻撃できます。あ、もちろん、たき火に火を付けたり飲料水に使うこともできます」
「つまり、イリエナちゃんは回復と攻撃の魔法が使えるんだね」
「はい。わたしはエルフの歌魔法を世界中に広めたいんです。でも、マホレットごしでは癒やしの力は効果がありません。だから、歌魔法使いの冒険者として、動画配信したいんです」

 なるほど。
 ようやく、イリエナちゃんがぼくとコラボしたい理由が分かった。
 歌魔法使いとしてダンジョンを冒険する動画を撮影したいんだ。

 イリエナちゃんは、あらためてぼくの顔をじっと見つめた。

「お願いします! カイさん。私とコラボしてください」
「……本当にぼくでいいの?」
「はい。年も近いですし、カイさんなら信頼できます」

 真っ正面からそういわれると照れちゃうな。
 ぼくがうなずきそうになったんだけど、その前にプリラおねーさんが言った。

「ちょっと待ちなさい。イリエナちゃん。あなたの夢と歌魔法の力は分かったわ。カイくんとコラボしたい理由もね。でも、このこと、あなたのご両親は知っているの?」

 プリラおねーさんにたずねられると、イリエナちゃんは「はい」とうなずいあ。

「両親は私がそうしたいなら応援すると」
「でも、あなたまだ10歳くらいでしょう? さすがに未成年の子がダンジョンに行くとなると、大人としては素直にはうなずけないわ。カイくんも小さいけど、一応成人しているしね」

 ぼくは0歳のころから両親とダンジョンに入っていたらしいけどなぁ。
 でも、プリラおねーさんがイリエナちゃんを心配しているのは分かる。
 が、イリエナちゃんは「クスっ」とわらって言った。

「いやですね、プリラさん。私、成人していますよ。今年15歳になりました」

 ……え?
 ぼくは思わず叫んだ。

「イリエナちゃんって、ぼくより年上なの!?」
「はい。エルフはカイさんたちに比べて長寿なんです。だからこれから背が伸びるんですよ」

 ひえぇぇぇ。
 どうりでしっかりしているはずだ。

「ごめん、てっきり年下だと思っていたから。イリエナ……さん」

 ぼくがそういうと、彼女は「ふふふっ」と笑った。

「イリエナちゃんでいいですよ、カイさん」
「う、うん。わかったよ、イリエナちゃん」

 一方、プリラおねーさんは小さく吐息してから言った。

「そうだったわね。エルフ族が長寿だっていうのを忘れていたわ。なるほど、成人済か。だったら止められないわね……」

 プリラおねーさんがそう言うのを聞いて、イリエナちゃんはぼくにもう一度たずねてきた。

「カイさん、コラボの件ですけど……」
「わかった。コラボ受けるよ。ぼくとしてもありがたい話だし!」

 イリエナちゃんはぼくの両手を握ってくれた。

「はい! ありがとうございます! よろしくお願いします!!」

 イリエナちゃんのお手々はとってもあったかくて。
 ぼくの心臓がドキンっと高鳴った。
 
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