まゆてん ~魔王と勇者、双子の小学生に転生す~

ななくさ ゆう

文字の大きさ
上 下
12 / 41
第2部 魔王と勇者、いじめっ子と対決する

第2話 魔王、日記をみつける

しおりを挟む
 昨日、退院祝いをかねた昼食のあと、俺と勇美は2階の子ども部屋に行くことになった。
 子ども部屋は一部屋だけで、影陽と勇美共用のようだ。
 ひかりはまだ幼いので、子ども部屋ではなくあかりのいる1階ですごすことがおおいらしい。

 部屋には2つの机と椅子、二段ベッド、本棚などがあった。
 本棚の中身はほとんどが漫画。学習漫画ではなさそうだ。
 他に生物図鑑や乗り物図鑑もあるようだ。
 手に取ってみると、この世界の写真技術にはあらためて驚かされるな。
 図鑑に興味津々の俺に、勇美が話しかけてきた。

「いい家族だな」
「うん?」
「この一家だ。両親も妹も、影陽と勇美を慈しんでいるのが感じられる。私には両親や兄弟はいないが、そのくらいはわかる」

 なるほどな。

「両親も兄妹もいるだろう? 俺たちの両親は日隠とあかりだし、妹はひかりだ。もちろん、俺とお前も兄妹だ」
「そういう意味ではない」
「そうだろうな」

 勇者シレーヌの家族構成は知らないが、確かに勇者の親や兄弟の情報は魔王にも伝わってこなかった。彼女が言っていた通り、両親は赤ん坊の時に魔族なり魔物なりに殺されたのだろう。

「魔王、お前は何を考えている? これからどうするつもりだ?」
「さてな。小学生なのだから小学校に通うだけだろう。将来の職業はまだわからんな。いつかは結婚して……」
「ふざけているのか、貴様!」

 どうやら、俺はまた勇者殿を怒らせてしまったらしい。

「いや、大真面目だが」
「貴様のような残忍な男が、このまま仲良し家族を続けるわけもあるまい! あの幸せな家族にどんな災いをもたらすつもりだ!? 今度はこの世界を滅ぼすつもりか!?」
「そんなに騒ぐな。1階の両親やひかりに聞こえる。また心配をかけるぞ」
「黙れ! もしも両親やひかりに手を出してみろ、その時は……」

 俺は思わず「はぁ」とため息をついてしまう。

「そんなことはせんよ」
「ならば何が目的だ?」
「目的か。そうだな……」

 改めて尋ねられると困るのだが。

「あえていうなら、お前に平和な世界で幸せにいきてもらうことかな。ひかりやこの世界の両親にも幸せになって欲しいと思っている」

 あらためて口に出すとこっぱずかしいな。
 勇美は戸惑いの表情を浮かべる。

「本当にそれだけなのか?」
「もちろん、俺自身もそれなりの人生を送りたいと思っているぞ。あのいくさの指導者の一人だった俺にその権利があるならばだが」
「貴様は魔王ではないのか?」
「もちろん魔王だ。だが、今はただの小学生だ。元の世界に戻るすべなどないだろうし、戻ったところで何もできん。ならば家族の幸せを願う以外に何ができる?」
「意味が分らん! あれだけの悪逆非道な行いをした魔族の王のくせに!」

 さてさて。どう返事をしたものか。
 どう答えたとしてもいいわけになってしまうだろうな。
 実際、俺の命令で人族にもエルフにもドワーフにも、そして魔族にも犠牲者は出たのだ。できる限り民間人の犠牲者は出さないように努めたが、死んだ者達からすれば知ったことではなかろう。
 だが、戦死した部下の名誉のためにも言っておくか。

「お前も多くの魔族を殺しただろう?」
「魔族は悪だ!」
「そうか。別に否定はせんよ。だが、そうだな……たとえばお前たちが殺した覇王将軍セカレスの息子は当時3歳で、父親の武運を願って手作りの御守りを渡していた。その翌日、戦死したわけだが」

 勇美は真っ青になる。

「まさか……ではあのアミュレットは……」
「アミュレット?」
「セカレスを倒したあとに気がついた。ヤツは右手に小さなアミュレットを握りしめていた。よほどのマジックアイテムかと思ったが、ほとんど魔力も込められていない不出来な御守りにすぎなかった。なぜ覇王将軍ともあろうものが、最後にそんなものを握りしめたのかと不思議だったのだが……」
「おそらく、それが息子の作った御守りだったのだろうな」
「セカレスの息子はどうなった?」
「お前達が魔王城に攻め込む前日までは城で保護していたよ。攻め込まれる前に護衛をつけて城から逃亡させた。無事でいてくれればいいが、もはや俺にはあの子にしてやれることはなにもないな」

 勇美は両肩を握って震える。

「そんな、私は……私はそんなつもりは……」
「気にするなとはいわん。だが、バカなまねはするなよ?」
「バカなまねだと?」
「たとえば、罪悪感に押しつぶされて再び死を選ぶとかだ」
「し、しかし……」
「いま、神谷勇美が自殺しても、娘の回復を喜ぶ両親と、姉を案じるひかりを悲しませるだけだ」
「それは……そうだが」
「勇者シレーヌは人族にとって希望の光だった。魔王ベネスは魔族にとって拠り所だった。たがいに互いの種族の存亡を賭けて戦った。それだけのことだろう」

 勇美は押し黙った。
 彼女が何を考えているのか、俺には推し量ることすらできない。
 何にせよ、今は……

 俺はさらに本棚を調べた。
 この世界のことも知りたいが、まず神谷影陽と勇美という双子のことを調べなくてはならない。両親もひかりも、俺たちのことをいぶかしんでいた。このままではまずいだろう。

 ほどなくして、神谷影陽のことを知るための一番の資料になりそうなノートを見つけ出した。

「なんだ、そのノートは?」
「神谷影陽の日記のようだな」
「おい、他人の日記を勝手に読むのはよい趣味とは思わんぞ」

 それは俺も同意見だが、このさい遠慮はしていられない。
 影陽に心の中で謝罪しながら、最終日のページを開いてみた。

 すると、そこに書かれていた文字は……

『もう、死にたい』

 俺は自分の手が震えるのを意識した。
『死』という漢字は覚えていた。
 歴史の学習漫画でもでてきた文字だったからだ。

 影陽、お前に一体何があったんだ?

 俺はあらためて、日記の最初のページから読み始める。
 そこに書かれていたのは、勇気と優しさをもった11歳の少年が、自死をも意識するほどに追い詰められていく生々しい記録だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ…

小桃
ファンタジー
 商業高校へ通う女子高校生一条 遥は通学時に仔犬が車に轢かれそうになった所を助けようとして車に轢かれ死亡する。この行動に獣の神は心を打たれ、彼女を転生させようとする。遥は獣の神より転生を打診され5つの希望を叶えると言われたので、希望を伝える。 1.最強になれる種族 2.無限収納 3.変幻自在 4.並列思考 5.スキルコピー  5つの希望を叶えられ遥は新たな世界へ転生する、その姿はスライムだった…最強になる種族で転生したはずなのにスライムに…遥はスライムとしてどう生きていくのか?スライムに転生した少女の物語が始まるのであった。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...