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第七章 僕らは宇宙で母星を護る

26.母星《ほし》を護る戦い

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 ソラは目前に迫ったヒガンテの一体を斬り倒した。

(これで、何体目だろう?)

 途中から数えるのはやめていた。
 そもそも、正確に何体残っているかもわからないのだ。
 ひたすら斬り、ひたすら倒す。
 それだけを考える。

 舞子からの援護射撃にも助けられつつ、ソラは次々にヒガンテを倒していく。

(なんで、僕、怖くないんだろう?)

 ふと、冷静になってそんなことを考えたりする。
 一瞬でも気を抜けば、宇宙の藻屑となって死ぬかも知れないのに、なぜかソラは恐怖を感じていなかった。
 それどころか、少し楽しいという気持ちすら持っていた。

(やっぱり、僕も、男の子ってことなのかな?)

 そんな言い方をしたら、舞子にぶん殴られるだろうけど。
 でもやっぱり、ロボットを動かして地球を狙う化け物と戦うというのは、ある意味男の子の夢だろう。

 もちろん、これはバトル・エスパーダのゲームじゃない。
 ちょっと間違えれば自分も舞子もケン・トも死ぬし、それはつまり地球が滅びることを意味している。

 それでも。
 今、ソラはとても高揚していた。

 あるいはそれは――

(怖すぎて、頭がおかしくなっちゃったのかな?)

 ――戦闘における戦士の興奮というものだったのかもしれない。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ケン・トは目前に迫った3体のヒガンテにソードを向けた。

(3対1か。なかなかにハードだな)

 思いつつ、あらためて周囲を確認する。
 舞子はひたすらソラへ援護射撃をしている。
 トモ・エやクーギャの操る宇宙船は、ここから少し離れた場所で待機中。

 そしてソラは、今も数十体のヒガンテを相手に大立ち回り中だ。

(ま、俺もヒガンテの2、3体くらい倒してみせなきゃカッコつかないだろ)

 正直なところ、ケン・トにとってこの戦いは命を賭けるほどのものではないはずだった。
 もちろん、彼は別に非道の人間ではないから、殺されそうな子どもがいれば助けるし、の民が虐殺されようとしていれば心を痛めはする。
 だが、その為に自分の命をはったりはしない。
 そういう人間だったはずだ。

 別にそれを恥とは思わない。
 ソラや舞子の故郷の日本に住む者達だって、遠く離れた異国の子どもが戦乱で犠牲になるニュースを見た時、心を痛めることはあっても『今すぐ俺が助けに行く』と動く者は少数だろう。
 ケン・トにとって、地球にしろ、ソラや舞子にしろ、『異星の民』でしかない。
 多少のリスクですむなら助けもするが、ここまでヤバイ状況で命を張る意味など無いはず。

 そのはずだ。

(それなのに、なんで俺はこんなことをしているのかね)

 ヒガンテの1体が伸ばしてきた腕を切り裂きながら、そんなことを考えてしまうケン・ト。
 自分で自分の行動の意味が分からなかった。

「ったくよぉ!!」

 思わず叫びながら、それでも1体目のヒガンテを倒す。

「こんな、大損の戦いに巻き込みやがって!!」

 叫びながら、2体目のヒガンテに向かう。
 ケン・トはソラの『時間停止』や舞子の『空間認識』のような特殊能力は持ち合わせていない。
 ついでにいえば、歴戦の戦士というわけでもない。
 あくまでも、彼は商人だ。
 命がけの戦いなんて柄じゃない。

 それなのに。
 だというのに。

 ケン・トは剣を振るう。
 心のどこかで、今すぐ逃げ出すべきだと考えながら。

 それでも。

(結局は大人の男の意地なのかね)

 あんな子ども達が母星のために命を張っているのだ。
 大人として、一人逃げ出すのは恥ずかしいじゃないか。
 ケン・トが戦う意味は、けっきょくそれだったのかもしれない。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 舞子はひたすらソラへの援護射撃をしながら祈っていた。

(ソラ、頑張って)

 ソラのエスパーダは今のところヒガンテを次々に倒している。
 何度か危うい場面もあったが、このままなら勝てそうと思えるくらいには善戦していた。

 戦いの前、ソラは言った。

『それでも倒しきれなかったら、ヤツらの群れのど真ん中で、僕が自爆する』

 それは確かに作戦通りだ。
 作戦通りだが。

(そんなこと……)

 ソラにそんなことはさせたくない。
 だから、舞子はひたすら祈りをこめてミサイルを撃ち続ける。

 ソラが自爆などしなくてすむように。
 ソラが死なないように。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 その存在に、最初に気づいたのは、ソラでも舞子でもケン・トでも、トモ・エでもなかった。
 彼ら、彼女らはあまりにも目前の戦いに集中しすぎていた。

 だから、その存在に気がついて警告の声を上げたのは、戦いをもう少しだけ冷静に見守っていた鳥形アンドロイドだった。

「ケン・ト! 気をつけるギャー、どでかいのがやってくるギャー」

 クーギャは確かに観測していた。
 これまでのヒガンテの30倍は大きなヒガンテが1体、この場所に高速接近していることを。

 クーギャの声に、トモ・エも気づいたようだ。

『そんな、これは……ソラさん、舞子さん、高速接近中のヒガンテを観測。大きさは……これまでの32.6倍!』

 トモ・エの声にもかなりの焦りが見て取れた。
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