僕らはロボットで宇宙《そら》を駆ける

ななくさ ゆう

文字の大きさ
上 下
12 / 32
第四章 初めての戦い

12.エスパーダをカスタマイズしてみよう

しおりを挟む
 ソラと舞子が地球を旅立ってから、地球時間で約2ヶ月が経過した。
 イスラ星人に土曜日、日曜日なんていう概念はないらしく、勉強や運動、エスパーダの訓練などは1日もかかさず行われていた。

 もっとも、ソラはそれほど不満には思っていなかった。
 勉強は毎日新しいことの発見があるし、運動はだんだんと自分の体力がついてくるのがわかるし、エスパーダの操縦は楽しいし。

 疲れもそれほど感じない。最初は違和感のあったベッドだが、気がついてみれば、もはや布団で寝ていたのが嘘のようだ。むしろ、地球にいたときよりも安眠していた。

 エスパーダの操縦は2人共かなり上達していた。
 Gにもなれ、最近では2人で一緒に船の周りを跳び回るれるようになった。

 まだまだ学ぶべきことはいくらでもあるようで、2週間前からは宇宙公用語なる言語の勉強も始まった。自動翻訳装置はあるが、装置がなくても話せた方が良いと言われたのだ。

 そんなある日の訓練の時間。

「うわぁ」

 ソラは舞子のエスパーダを見て声を上げた。
 ここ数週間、舞子は自分のエスパーダのカスタマイズを楽しんでいる様子だ。

 舞子の改造はゲームの時と同じく遠距離型だ。
 ただし、ゲームとは違ってビーム光線ではなく、実弾の銃やミサイルを装備させている。
 レランパゴを破壊するという目的に、ビーム兵器は役に立たないからだ。

「どう、この改造?」

 舞子は胸を張ってソラとトモ・エに言う。
 ソラとトモ・エは困惑しつつ答える。

「カッコイイと思うよ。思うけどさぁ……」
「これは……ちょっとやり過ぎじゃないですかね」

 昨日の段階では舞子のエスパーダは右手に銃を持ち、両肩にミサイルを付けていた。
 だが今は、なっていた。
 文字通り、手首があるべき場所がそのまま巨大な銃になっているのだ。

「昨日、銃を落としちゃったからさ。いっそのことこれならどうかなって」

 確かに銃しか使わないなら合理的だ。
 だが。

「これじゃあ、ソード持てないじゃん」
「接近するのはソラに任せるわ」
「そ、そう」

 1ヶ月後、ソラ達が行なうのはレランパゴの破壊である。
 超エネルギー体であるレランパゴはビーム光線系の攻撃は吸収してしまう。
 故に、実弾を当てるかソードで叩き切るかだそうだ。

 実弾武器の弱点は弾数に制限があることだ。
 物質複製装置で回復はできるが、即座ではない。
 もっとも、相手は敵機ではなく動かないエネルギー体だ。
 確かに理にかなってはいるのかもしれない。

 理にはかなっているのだが。

(でもやっぱり、ロボットの指を銃に変えちゃうのは違和感あるなぁ)

 いくらその方が合理的だと言われても、ロボットの手には人間と同じ5本の指があって欲しいと思ってしまうソラ。

(男と女の感性の違い……なのか?)

 ソラはそんなことを思ってしまう。

「まあ、ソラさんのカスタマイズも、それはそれでどうかと思いますけど」

 ちなみにソラの機体もカスタマイズされている。
 ミサイルなどはほとんど外した高速接近型だ。

「そう? 僕の戦い方に合っていると思うけど」

 ゲームでも、ソラは接近してソードで叩く方が得意だった。

「……2人とも、あくまでもレランパゴを壊すのが目的だって忘れていませんよね?」

 方向性は違えど兵器的な改造を施している2人に、トモ・エの顔が引きつっていた。

「いや、それは……」
「やっぱり、やり過ぎちゃったかしら?」

 トモ・エは深く頷いたのだった。

 結局、2人のほどこしたカスタマイズはほとんどが初期設定デフォルトに戻すことになったのだった。

 ---------------

 さらに1ヶ月の月日が流れた。

『ソラさん、舞子さん、起きてください』

 熟睡するソラの耳にトモ・エの声が響いた。
 部屋の監視はやめるといったが、こうして話しかけてくることはよくあった。
 眠たい目をこすりながら上半身を起こし、時計を確認すると3時13分であった。

(真夜中じゃん)

 文句の1つも言ってやろうかと思ったところに、トモ・エのさらなる声が聞こえる。

『まもなく、最初のレランパゴがあると思われる宙域に近づきます。夜分もうしわけありませんが、2人とも操舵室まで来てください』

 そういわれれば、行くしかない。
 慌てて着替える。
 ちなみに、ソラも舞子も、今では地球の服はほとんど着なくなっていた。眠るときもイスラ星の服だ。着替えるのは寝汗をかいたからである。
 扉を出ると、舞子がいた。

「ソラ、おっそい」
「ごめん、舞子。ちょっと着替えていて」

 言い合いながら、操舵室へと向かう。もう、勝手知ったる廊下である。迷うこともない。

「ソラさん、舞子さん、お待ちしていました」

 操舵室に入ると、トモ・エが待っていた。
 ソラは右側の、舞子は左側の座席に座る。なんとなく3ヶ月の間に座る場所が決まっていた。

「前方の映像をご覧ください」

 トモ・エがそういうと、目の前の壁に宇宙空間の映像が広がった。

「レランパゴはあそこにあります」

 トモ・エが言うと、画面に印が出る。

「うん? 星?」

 そこには、何か黄色い点が見えた。星のように見えるが、少し違和感がある。

「拡大しましょう」

 トモ・エの言葉とともに、画面上の点がズームアップされる。
 それは金色の塊であった。丸ではなくいびつな形をしており、まるで太陽のように神々しく光っている。
 もちろん、大きさは太陽よりもずっと小さい……のだろう。映像ではよくわからないが。
 まさにエネルギーの塊といったかんじだ。

「あれを破壊すればいいんだよね?」
「その通りです。1cm四方まで砕くとレランパゴはエネルギー体として役に立たなくなります。
 ただし、今回はそこまで砕くまえに、欠片を1つ持ち帰ってください」
「なんで?」
「この船の動力もレランパゴであることはお話しましたね?」

 それは授業の中で聞いていた。いくらレランパゴが危険なものだ、破壊しなくてはといってみたところで、この船やエスパーダのエネルギーもレランパゴに頼っているのだ。

「船の動力はまだありますが、そろそろ心もとなくなっています。あと5年分くらいしかありません」
「それって、すごく余裕があるって言わない?」
「広大な宇宙でレランパゴをみつけるのにかかる時間を計算すれば、そこまで余裕があるとも言えないのですよ」
「なるほど」

 トモ・エが言うならその通りなのだろう。

「この船の動力に使うなら、10センチ四方程度の大きさが1つあれば十分です。
 ちなみに今回のレランパゴの全体の大きさは……」
「大体、直径125cmってところかしら。球体じゃないし、アバウトだけど」

 舞子が言う。

「お見事です。舞子さん」

 舞子の空間認識能力については聞いているが、こうやって目のあたりにすると、ソラには魔法のようにしか思えない。何しろ画面には拡大率すら表示されていないのだ。一体どうやってこの映像から大きさがわかるのだろう。

「これまでの訓練でわかっていると思いますが、最後のおさらいです。レランパゴを破壊するとき、ビームやエネルギー砲のたぐいは無効です。ソラさん、その理由はわかりますか?」
「レランパゴ自体がエネルギーそのものだから、それにエネルギーを当てても破壊どころか大きくしちゃうってことだろ」

 3ヶ月の授業で習ったことを言う。

「その通りです。かといってミサイルで破壊しては粉々になってしまってこの船に必要なエネルギーすら回収できません。
 よって今回はレランパゴをソードで細かく叩き割ります。とはいえ……」
「強大なエネルギーのレランパゴにむやみに近づくのも危険」

 舞子がトモ・エの言葉の先を言う。

「その通りです。そこで、エスパーダ自体に防御機能があります。エネルギーコーティングと呼びますが、いわゆるバリアーですね。これを発生させている間はレランパゴに近づけます。ただし……」
「エネルギーコーティングは地球時間で30分しかもたない、だろ?」

 正直、もう何度も聞き飽きている。

「正確には30分と27秒です。それを過ぎてなお、レランパゴの塊の近くにいると、エスパーダ自体が溶けます。そうなれば、2人共生きていられません」

 つまりは時間オーバーすれば命がないということだ。

「でも、それじゃあかけらを持ち帰ったりできないじゃない?」

 舞子がたずねる。

「ですから、舞子さんに回収用ボックスを持って行っていただきます。その中に入れておけば、レランパゴのエネルギーを封印できます」
「なるほど」

 舞子が納得すると、トモ・エは続けた・

「レランパゴまで1キロメートル程度まで近づいたら、エネルギーコーティングをまとってください。その瞬間から画面上でカウントダウンが始まります。破壊に成功しようとしまいと、残り10分になったら全力で帰還してください。いいですね?」
『了解』

 ソラと舞子は声を揃えた。

「最後に」
「まだあるの?」
「ここから先はゲームでも訓練でもありません。それを忘れないでください。戦闘ではないとはいえ、命がけだと思ってください」

 トモ・エの真剣な顔に、ソラはと舞子は頷くのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

守護霊のお仕事なんて出来ません!

柚月しずく
児童書・童話
事故に遭ってしまった未蘭が目が覚めると……そこは死後の世界だった。 死後の世界には「死亡予定者リスト」が存在するらしい。未蘭はリストに名前がなく「不法侵入者」と責められてしまう。 そんな未蘭を救ってくれたのは、白いスーツを着た少年。柊だった。 助けてもらいホッとしていた未蘭だったが、ある選択を迫られる。 ・守護霊代行の仕事を手伝うか。 ・死亡手続きを進められるか。 究極の選択を迫られた未蘭。 守護霊代行の仕事を引き受けることに。 人には視えない存在「守護霊代行」の任務を、なんとかこなしていたが……。 「視えないはずなのに、どうして私のことがわかるの?」 話しかけてくる男の子が現れて――⁉︎ ちょっと不思議で、信じられないような。だけど心温まるお話。

悪魔さまの言うとおり~わたし、執事になります⁉︎~

橘花やよい
児童書・童話
女子中学生・リリイが、入学することになったのは、お嬢さま学校。でもそこは「悪魔」の学校で、「執事として入学してちょうだい」……って、どういうことなの⁉待ち構えるのは、きれいでいじわるな悪魔たち! 友情と魔法と、胸キュンもありの学園ファンタジー。 第2回きずな児童書大賞参加作です。

イディーラ学園の秘密部

碧猫 
児童書・童話
イディーラ学園には知られていない部活がある。 イディーラ学園はイディンの中で最も生徒数の多い学園。 その学園にはある噂があった。 「学園のどこかに誰も知らない場所があるんだよ。そこへ行った子は帰ってこないの」 学園にある秘密の場所。そこで行われている不思議な活動。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

見習い錬金術士ミミリの冒険の記録〜討伐も採集もお任せください!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?〜

うさみち
児童書・童話
【見習い錬金術士とうさぎのぬいぐるみたちが描く、スパイス混じりのゆるふわ冒険!情報収集のために、お仕事のご依頼も承ります!】 「……襲われてる! 助けなきゃ!」  錬成アイテムの採集作業中に訪れた、モンスターに襲われている少年との突然の出会い。  人里離れた山陵の中で、慎ましやかに暮らしていた見習い錬金術士ミミリと彼女の家族、機械人形(オートマタ)とうさぎのぬいぐるみ。彼女たちの運命は、少年との出会いで大きく動き出す。 「俺は、ある人たちから頼まれて預かり物を渡すためにここに来たんだ」  少年から渡された物は、いくつかの錬成アイテムと一枚の手紙。 「……この手紙、私宛てなの?」  少年との出会いをキッカケに、ミミリはある人、あるアイテムを探すために冒険を始めることに。  ――冒険の舞台は、まだ見ぬ世界へ。  新たな地で、右も左もわからないミミリたちの人探し。その方法は……。 「討伐、採集何でもします!ご依頼達成の報酬は、情報でお願いできますか?」  見習い錬金術士ミミリの冒険の記録は、今、ここから綴られ始める。 《この小説の見どころ》 ①可愛いらしい登場人物 見習い錬金術士のゆるふわ少女×しっかり者だけど寂しがり屋の凄腕美少女剣士の機械人形(オートマタ)×ツンデレ魔法使いのうさぎのぬいぐるみ×コシヌカシの少年⁉︎ ②ほのぼのほんわか世界観 可愛いらしいに囲まれ、ゆったり流れる物語。読了後、「ほわっとした気持ち」になってもらいたいをコンセプトに。 ③時々スパイスきいてます! ゆるふわの中に時折現れるスパイシーな展開。そして時々ミステリー。 ④魅力ある錬成アイテム 錬金術士の醍醐味!それは錬成アイテムにあり。魅力あるアイテムを活用して冒険していきます。 ◾️第3章完結!現在第4章執筆中です。 ◾️この小説は小説家になろう、カクヨムでも連載しています。 ◾️作者以外による小説の無断転載を禁止しています。 ◾️挿絵はなんでも書いちゃうヨギリ酔客様からご寄贈いただいたものです。

マサオの三輪車

よん
児童書・童話
Angel meets Boy. ゾゾとマサオと……もう一人の物語。

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

かつて聖女は悪女と呼ばれていた

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「別に計算していたわけではないのよ」 この聖女、悪女よりもタチが悪い!? 悪魔の力で聖女に成り代わった悪女は、思い知ることになる。聖女がいかに優秀であったのかを――!! 聖女が華麗にざまぁします♪ ※ エブリスタさんの妄コン『変身』にて、大賞をいただきました……!!✨ ※ 悪女視点と聖女視点があります。 ※ 表紙絵は親友の朝美智晴さまに描いていただきました♪

処理中です...