僕らはロボットで宇宙《そら》を駆ける

ななくさ ゆう

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第一章 初めての宇宙《そら》

5.在りし日のイスラ

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 かつての惑星イスラは平和な星だった。
 科学が発展し、人々はみな裕福であった。

 宇宙に漂う謎のエネルギー体『レランパゴ』を有効活用することで、人々は無限に近いエネルギーを享受していた。
 エネルギーさえあれば、物質複製技術のあるイスラでは、物はいくらでも手に入った。
 貧乏をしたり、まして餓死したりする者もなく、ゆえに戦争もなかった。争いなどというものは、たいがいが物資不足から起きるものなのである。

 だが、突如として惑星イスラをバケモノが襲った。
 それはまさに宇宙を漂流する巨大なバケモノとしか呼びようがなかった。
 化け物は真空空間を泳ぎ、惑星イスラの衛星達を飲み込んでいった。

 平和に慣れていた惑星イスラの人々に出来たのは、せいぜいがそのバケモノにヒガンテと名付け、宇宙船を使って惑星イスラから逃げ出すことくらいであった。
 だが、宇宙船で逃げ出せた者は100人ほど。全人口の1億分の1程度でしかなかった。

 生き残った人々は、レランパゴのエネルギーを体内に取り込むために、ヒガンテの群れが惑星イスラを襲って飲み込んだのだと知った。レランパゴはヤツラの餌でもあったのだ。

 レランパゴのエネルギーを得たヒガンテ達は、そのエネルギーを逃げ出した宇宙船への攻撃手段として使った。

 結果、イスラから脱出した宇宙船は次々に撃墜され、ついにはたった1隻となりイスラ星人の生き残りは10数人しかいなくなった。

 イスラ星人の生き残り達は宇宙各地にあるレランパゴを破壊して回った。
 ヒガンテの餌となるものを取り除くために。
 同時に、巨大ロボット、エスパーダと、アンドロイド、トモ・エを制作した。
 イスラ星人達の、長い長い旅はこうして始まった。

 ---------------

 それから、何年も、何十年もの月日が経った。

 生き残ったイスラ星人も、寿命が来れば静かに死んでいく。
 子供も産まれたが、その子どももまた、地球時間で一昨年おととしに息を引き取った。
 イスラ星がヒガンテに飲み込まれてから140年もの月日が流れていた。

 エスパーダはトモ・エには操縦できない。だが、レランパゴを破壊するためにはエスパーダを操縦する必要がある。
 トモ・エは最も近くの有人星地球へと降り立ち、エスパーダ操縦の才能がある人間を探した。

 ---------------

「そして、あなた達と出会いました。お願いです。私とともにレランパゴを破壊する旅に出てはいただけませんか?」

 トモ・エは話の最後をそう結んだ。

 そうは言われても、にわかに『はい』とは答えられない。

(いくらなんでも、宇宙を旅するなんて。つまりは今の家や学校を……いや、地球を捨てろってことじゃないか)

 普通に考えて無茶苦茶な話である

(でも、家族や学校なんて、僕にとって本当に価値があるんだろうか)

 ソラが考え込んでいると、舞子がトモ・エに尋ねる。

「もし、私達が『いいえ』と答えたらどうするの?」
「その時は別の人間を探します」

 あっさり、トモ・エはそう言った。
 舞子はさらに疑問を連ねる。

「確かに、私達はあのゲームでは強かったかもしれない。でも現実にエスパーダを操縦したらそこまで上手いかはわからない」
「それはそうでしょう。ですが、才能はあると思いますよ。
 失礼とは思いましたが、2人がゲームをプレーしているときの脳波を調べさせて頂いてあります。それによると、2人共、地球人としては類まれなる才能をお持ちです」
「才能?」
「舞子さんの『空間認識』、ソラさんの『時間制止』。どちらも素晴らしい能力です」

 舞子の『空間認識』とはどんな能力なのかソラは知らない。それも気になるが、それ以上に考えるべきことがあった。

「じゃあ、もしも『イエス』と答えたら、もう地球には戻れないの?」
「戻れないことはありません。ですが、戻らない覚悟を持って欲しいと私は希望します」

 それで、トモ・エの説明は終わったらしい。

 しばらく沈黙が流れた。
 やがて舞子が、ヤレヤレとため息をつく。

「まあ、無茶苦茶な話よね。いきなり地球を捨てろって言われているようなもんだものね」
「やっぱり、ダメですよね……」

 トモ・エの声は不安げだ。無茶な願いであることは承知していたらしい。

「誰がダメだなんて言った? いいわよ。宇宙を旅してあげるわ」

 この舞子の言葉にソラは驚いた。トモ・エもそれは同じだったらしい。

「ほ、本当ですか!?」

 ソラも慌てて舞子に言う。

「ま、舞子さん、本気なの!?」
「なによ、おかしい?」

 逆に尋ねられ、言葉に困るソラ。

「いや、おかしいっていうか……」
「ソラはどうするの?」
「ど、どうするって……」

 正直に言えば迷っていた。
 こんな無茶苦茶な話聞けるかと拒絶するのは簡単だ。

(だけど、地球にいたって僕はっ)

 ソラはしばらく考えて、トモ・エに言った。

「しばらく……ううん、明日まで考えさせてください」
「わかりました。ソラさんは一度地球に戻します。舞子さんも戻られますか?」
「私はいいわ。戻っても意味が無いもの」

 ---------------

 ソラ達は最初の白い部屋に戻った。

「では、ワープさせます。ワープ先は先程のビルの地下です。もしも、私達と旅立つ決心ができたら、明日の17時にもう一度ビルの地下においでください」

 トモ・エがそういうと、ソラの体を光が包み、またあのぐにゃにゃにゃ~んとした感覚がおとずれる。
 やがて目を開けるとソラは1人ビルの地下室にいた。
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