異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第九章 勇者と保護者

11.朱鳥翔斗の旅立ち

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 俺が目覚めたのは病院のベッドの上だった。

「翔斗!」

 聞こえてきたのは母の声。
 俺はそちらを向こうとし、しかし体が言うことを聞かない。
 この時俺は、全身包帯でぐるぐる巻きな上に、点滴やら人工呼吸器やらの管がついている状態だったらしい。
 複雑骨折も数カ所あり、数日ぶりに意識を回復させた段階。
 首を動かすことすら容易ではなかったのだ。

 母は意識が戻った俺に縋るようにしながら、ボロボロと泣いていた。
 それを見て、日本に戻ってきたのは間違っていなかったと思えた。

 ---------------

 その後、俺は徐々に回復していった。
 リハビリはキツイが、あの異世界での冒険に比べれば大したことではない。

 何度か、無駄だと分かっていても思念モニタを出して魔法――『怪我回復』を使おうと試みた。
 もちろん、この世界では魔法なんていう超常現象は起きず、地道に治療とリハビリを続けるしかなかった。

 ---------------

 俺が目を覚ましてから1週間後。
 病室に幼い男の子を連れた女性がやってきた。
 あの時、俺が命を賭けて助けた男の子だ。

 母親は俺に深々と頭を下げた。

「本当にありがとうございました」

 それに合わせるように、男の子も言う。

「ありがとうごじゃーまちた」

 それはまるで出会った頃のアレルのような舌足らずさで。
 だから、俺は涙を流しそうになり、直前でこらえた。

「いえ、お子さんに怪我がなくて良かったです」

 そう答えて、男の子の頭をなでなでしてやった。

 ---------------

 目覚めて二ヶ月後。
 俺は退院することになった。

「お世話になりました」

 松葉杖をつきながらではあったが、自分の足で立って医師や看護師達にそう頭を下げた。
 病院の外は快晴だった。

 ---------------

 退院してさらに5ヶ月。
 ようやく全快した俺は、ある会社の一室にいた。

「朱鳥翔斗さん。失礼ながらお伺いします」

 そう、1年近く遅れたが、俺は再び就職活動を始めたのだ。

「あなたのお父様は現在強盗殺人で刑務所にいますね?」

 その問いに、以前の俺は目をそらし、あたふたし、しろどもどろになってしまった。
 そして、面接失敗で父を恨んだ。

 だが。

 今の俺は背筋を伸ばし、相手の目を見て答える。

「はい。その通りです。父のしたことは決して許されることではありません」

 俺はハッキリと答えた。
 父のしたことは許されない。だが、それで俺が引け目を感じる必要なんてない。

「だからこそ、私は御社のような世界中の貧しい人々――とりわけ子どもや女性を救う活動を支援する仕事に就きたいと思いました。
 もちろん、それで父の罪が消えるわけではありません。ですが、私は人を殺すのではなく救える人間になりたいのです」

 アレルやフロルのように。
 俺は勇者様なんかにはなれないけれど。

 この会社は世界中の貧しかったり治安が悪かったりする地域の子どもや女性を救う活動をしている。
 給料は安いし、危険もあるし、キツイ仕事だ。
 それでも、俺は人々の命を救う仕事に就きたいとそう思った。

「なるほど。ご立派な覚悟です。そして、あなたはすでにそれを実践されている」
「なんのことでしょうか?」
「昨年、幼い子どもを助けるために自ら犠牲になって車にひかれたと」
「お恥ずかしい限りです。子どもは救えましたが、自分は大怪我をし、母を泣かせてしまいました」
「自己犠牲が必ずしも良いこととは言いません。ですが、我が社はあなたのような志を持った方を歓迎します」

 そして、社長が俺の右手を握ってくれた。
 俺の就職試験は、51社目にして実を結んだのだ。

 ---------------

「じゃあ、母さん。行ってくるよ」

 俺は今、研修を終え初仕事のために家から旅立とうとしている。

「翔斗、気をつけて。頑張ってね」

 そこまで危険な地域に行くわけではないが、それでも日本よりは治安がずっと悪い海外赴任だ。
 母は心配そうにしつつも、俺を笑顔で送り出してくれた。

 ――事故に遭って異世界に行った。
 ――双子の勇者様と共に、モンスターを退治したりダンジョンを攻略したりした。
 ――幼女な神様やライト達大切な仲間との思い出も確かにある。

 もちろん、証拠は何もない。
 他人に話せば事故で気絶している間に見たただの夢だと言われて終わりかもしれない。

 だが。
 おれにとってあの冒険の日々は現実で。

 だからこそ、これから俺は旅路に向かえる。
 俺は勇者様にはなれないけど、この世界を少しでもよりよくするために活動していこうとそう思っている。
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