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第九章 勇者と保護者
9.最後の試練
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双子が勇者になるための最後の試練――『祝福の試練』
そのダンジョンの前に、俺、双子、ライト、ダルネス、レルスがやってきていた。
もう何度も見た転移のオーブが光っている。このオーブで転移した先が『祝福の試練』なのだ。
アレルとフロルは緊張した様子。
いや、決意を固めつつも、躊躇している面持ちだ。
俺は2人に声をかけた。
「アレル、フロル、がんばれよ」
その言葉に、2人は俺の方を見て、そして泣きそうな顔で頷いた。
「ほら、勇者様がそんな顔をしていたらおかしいだろ?」
そう言う俺も、実は涙を流すのをグッと我慢している。
双子が耐えているんだ。俺が泣いてどうする。
――そう、双子と俺は、これで永遠の別れになるのだ。
---------------
昨日、シルシルは教えてくれた。
最後の試練――『祝福の試練』のダンジョンに入れるのは勇者であるアレルとフロルの2人だけだと。
俺やライトが一緒に来られるのはここまでだと。
そして、双子が試練を乗り越えたとき、俺は輪廻の間へと向かい、日本に戻る。
だから、双子がここに戻ってきたとき、俺はもういない。
これが、本当に最後だ。
2人もそのことはすでに理解していて。
だから、こうして試練へ向かうのを躊躇しているのだ。
---------------
「う、ううぅ……」
アレルはポロポロと涙を流し始めた。
そして、俺の足にすがりつくように抱きつく。
「ご主人さまぁ……アレル、やっぱり……ううん、がんばるがんばるよ。だけど、だけどぉ……」
あとは言葉にならない様子だ。
涙を流し、鼻水を垂らし、俺にすがりつく。
俺はアレルをしっかりと抱きしめる。
「アレル、お前は強い子だ。俺なんかよりずっと」
「ううん、アレルは強くないもん、でも、でも……」
「がんばれよ。お前達なら大丈夫だ」
言いながら、俺も自分の目から涙がこぼれ落ちるのを意識していた。
――と。
ライトがフロルに言う。
「フロル、今くらいは我慢しなくてもいいんじゃないか?」
その言葉に、フロルもまた俺に飛びついてくる。
「ショート様、これまで本当に、ありがとうございました」
そう言うと、フロルも涙を流し出す。
アレルよりもずっとしっかり者の彼女が、ここまでボロボロ泣くのを見るのは2度目だ。
あれはそう、2人の乳母のマーリャとの別れの時。
その時と同じように――あるいはそれ以上に、アレルとフロルは俺を抱きしめて涙してくれた。
そのことがとても嬉しくて。
でもとても悲しくて。
だから、俺も2人を抱きしめて泣き続けた。
---------------
やがて。
双子は俺から離れた。
そして、『祝福の試練』のオーブへと歩み寄る。
『それじゃあ、行ってきます』
2人は声を揃えた。
涙を拭き、前を向いて、そう言った。
「ああ、がんばれよ!」
俺はそう言って送り出す。
双子は転移のオーブに手をかざし――そしてその場から消えた。
---------------
「さて、と」
双子が転移した後、ライトがあらためて言う。
勤めて明るく。気分を紛らわすように。
「最後の試練ってどのくらいかかるんだろうな?」
「さてな。なにしろ前の勇者が現れたのは300年も前のこと。そもそも勇者以外試練に付き合えないということすらワシらには伝わっていなかったからな」
「そうか」
そこでちょっと沈黙。
双子が試練を乗り越えるまで、俺はまだこの世界にいるらしい。
「ちょっと思ったんだけどさぁ、もし、もしもだぞ、双子が試練に失敗したりしたら、ショートはどうなるんだ?」
それは確かに分からない。
シルシルのことだから、それでも俺を日本に戻してくれるとは思うが……
……いや、それは考えても仕方が無いことだ。
なぜなら。
「そんなことにはならないさ」
俺はそう言った。
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、アレルとフロルだぞ。俺達の勇者様が試練に失敗するなんてありえない。そのくらい、ライトだって分かっているだろ?」
俺の言葉に、ライトが笑った。
「違いないや」
祝福の試練がどんなものだか、俺もダルネスも知らない。
シルシルも教えてくれなかったし、ギルドにも伝わっていなかった。
だが、俺は確信している。
アレルとフロルなら、どんな試練だって乗り越えられる。
だって、あいつらは、俺の……俺達の仲間の勇者様なんだから。
---------------
そして。
双子が『祝福の試練』に向かってから半日ほど。
ついにその時が来た。
「ショート」
ライトが言う。
俺も気がついた。
自分の体が光り輝いている。
おそらくは、転移の前触れ。
俺が輪廻の間へ……日本へと戻るときが来たのだ。
「ライト、今までありがとうな。アレルとフロルのことを頼むわ」
もちろん、ダルネスやレルス、ソフィネやギルドの皆も双子を支えてくれるだろう。
だが、それでも2人のことを一番分かっていてくれるのはライトだ。
「ああ、後は俺に任せておけよ! 心配するな。俺もあいつらも、お前のおかげで強くなれた」
俺のおかげ……本当にそうだろうか。
俺の体の光がさらに強くなる。
おそらく、もう時間切れだ。
「ダルネスさん、レルスさん、これまでありがとうございました。双子やライト達のことよろしくお願いします」
俺がそう言うと、2人とも頷いてくれた。
そして、3人の姿が、俺の視界から消え俺は――
そのダンジョンの前に、俺、双子、ライト、ダルネス、レルスがやってきていた。
もう何度も見た転移のオーブが光っている。このオーブで転移した先が『祝福の試練』なのだ。
アレルとフロルは緊張した様子。
いや、決意を固めつつも、躊躇している面持ちだ。
俺は2人に声をかけた。
「アレル、フロル、がんばれよ」
その言葉に、2人は俺の方を見て、そして泣きそうな顔で頷いた。
「ほら、勇者様がそんな顔をしていたらおかしいだろ?」
そう言う俺も、実は涙を流すのをグッと我慢している。
双子が耐えているんだ。俺が泣いてどうする。
――そう、双子と俺は、これで永遠の別れになるのだ。
---------------
昨日、シルシルは教えてくれた。
最後の試練――『祝福の試練』のダンジョンに入れるのは勇者であるアレルとフロルの2人だけだと。
俺やライトが一緒に来られるのはここまでだと。
そして、双子が試練を乗り越えたとき、俺は輪廻の間へと向かい、日本に戻る。
だから、双子がここに戻ってきたとき、俺はもういない。
これが、本当に最後だ。
2人もそのことはすでに理解していて。
だから、こうして試練へ向かうのを躊躇しているのだ。
---------------
「う、ううぅ……」
アレルはポロポロと涙を流し始めた。
そして、俺の足にすがりつくように抱きつく。
「ご主人さまぁ……アレル、やっぱり……ううん、がんばるがんばるよ。だけど、だけどぉ……」
あとは言葉にならない様子だ。
涙を流し、鼻水を垂らし、俺にすがりつく。
俺はアレルをしっかりと抱きしめる。
「アレル、お前は強い子だ。俺なんかよりずっと」
「ううん、アレルは強くないもん、でも、でも……」
「がんばれよ。お前達なら大丈夫だ」
言いながら、俺も自分の目から涙がこぼれ落ちるのを意識していた。
――と。
ライトがフロルに言う。
「フロル、今くらいは我慢しなくてもいいんじゃないか?」
その言葉に、フロルもまた俺に飛びついてくる。
「ショート様、これまで本当に、ありがとうございました」
そう言うと、フロルも涙を流し出す。
アレルよりもずっとしっかり者の彼女が、ここまでボロボロ泣くのを見るのは2度目だ。
あれはそう、2人の乳母のマーリャとの別れの時。
その時と同じように――あるいはそれ以上に、アレルとフロルは俺を抱きしめて涙してくれた。
そのことがとても嬉しくて。
でもとても悲しくて。
だから、俺も2人を抱きしめて泣き続けた。
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やがて。
双子は俺から離れた。
そして、『祝福の試練』のオーブへと歩み寄る。
『それじゃあ、行ってきます』
2人は声を揃えた。
涙を拭き、前を向いて、そう言った。
「ああ、がんばれよ!」
俺はそう言って送り出す。
双子は転移のオーブに手をかざし――そしてその場から消えた。
---------------
「さて、と」
双子が転移した後、ライトがあらためて言う。
勤めて明るく。気分を紛らわすように。
「最後の試練ってどのくらいかかるんだろうな?」
「さてな。なにしろ前の勇者が現れたのは300年も前のこと。そもそも勇者以外試練に付き合えないということすらワシらには伝わっていなかったからな」
「そうか」
そこでちょっと沈黙。
双子が試練を乗り越えるまで、俺はまだこの世界にいるらしい。
「ちょっと思ったんだけどさぁ、もし、もしもだぞ、双子が試練に失敗したりしたら、ショートはどうなるんだ?」
それは確かに分からない。
シルシルのことだから、それでも俺を日本に戻してくれるとは思うが……
……いや、それは考えても仕方が無いことだ。
なぜなら。
「そんなことにはならないさ」
俺はそう言った。
「どうしてそう思うんだ?」
「だって、アレルとフロルだぞ。俺達の勇者様が試練に失敗するなんてありえない。そのくらい、ライトだって分かっているだろ?」
俺の言葉に、ライトが笑った。
「違いないや」
祝福の試練がどんなものだか、俺もダルネスも知らない。
シルシルも教えてくれなかったし、ギルドにも伝わっていなかった。
だが、俺は確信している。
アレルとフロルなら、どんな試練だって乗り越えられる。
だって、あいつらは、俺の……俺達の仲間の勇者様なんだから。
---------------
そして。
双子が『祝福の試練』に向かってから半日ほど。
ついにその時が来た。
「ショート」
ライトが言う。
俺も気がついた。
自分の体が光り輝いている。
おそらくは、転移の前触れ。
俺が輪廻の間へ……日本へと戻るときが来たのだ。
「ライト、今までありがとうな。アレルとフロルのことを頼むわ」
もちろん、ダルネスやレルス、ソフィネやギルドの皆も双子を支えてくれるだろう。
だが、それでも2人のことを一番分かっていてくれるのはライトだ。
「ああ、後は俺に任せておけよ! 心配するな。俺もあいつらも、お前のおかげで強くなれた」
俺のおかげ……本当にそうだろうか。
俺の体の光がさらに強くなる。
おそらく、もう時間切れだ。
「ダルネスさん、レルスさん、これまでありがとうございました。双子やライト達のことよろしくお願いします」
俺がそう言うと、2人とも頷いてくれた。
そして、3人の姿が、俺の視界から消え俺は――
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