異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第九章 勇者と保護者

8.ソフィネの告白

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 決闘で傷ついた2人。
 アレルをフロルが、ライトを俺が治癒する。

「ありがとう、ライト」

 治癒しながら言う俺に、ライトは『ふんっ』と鼻を鳴らす。

「別にショートのためにやったわけじゃねーよ」
「わかってる」

 全てはアレルのためだ。
 アレルの溜まった気持ちを全部吐き出させるために、ライトはあえて決闘なんていうやり方を選んだ。

 と。
 俺達の方にソフィネが近づいてくる。

「ライト」

 彼女の顔は険しくて。

「ソフィネ?」

 戸惑った声を上げるライト。

「これから私が言うこと、きっと最低なことだと思う。貴方の戦士としての誇りを傷つけるかもしれない。
 それでも言わせて」

 ソフィネはそこで一呼吸置いた。

「無茶しないでよっ! バカ!」

 凄まじい剣幕のソフィネ。

「……ゴメン」
「ごめんなさい、貴方のきもちがわからないわけじゃないの。だけど……でもやっぱり、私達のことも考えて……」

 ソフィネはそう言って、そっと自分のお腹を撫でる。

「……私……達?」

 ライトが首をひねる。

 ……あれ? これひょっとして……
 いや、まさか、そんな……

 俺は困惑しつつ尋ねた。

「ソフィネ、勘違いだったら申し訳ないんだけど、ひょっとしてキミ、妊娠?」

 俺の問いに、ソフィネは視線をそらし、それからおもむろに頷いた。

 結果。

『えええええええぇぇぇ!?』

 決闘後の広場に驚愕の声が響き渡ったのだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 アレルとライトの決闘。それからソフィネの妊娠発覚という事件後、俺達は一度家に戻ることにした。

「ソフィネ、あらためて聞くけど、妊娠しているんだよね?」

 俺の問いにソフィネはコクリと頷く。

「父親は?」

 答は分かりきっているけど、念のため尋ねる。
 ソフィネはライトに視線を送る。
 そういうことらしい。

「ライトは知っていたのか?」

 問う俺に、ライトは慌てまくった様子で否定する。

「知らねーよ。ってか、知ってたら一昨日だってダンジョンなんかに連れて行かねーよっ!」

 そうだよな。
 一昨日の勇気の試練での戦い。とても妊婦にさせるようなものじゃなかった。下手をすれば……いや、普通に流産の可能性もあった。

 フロルがジト目でライトを見る。

「ってか、いつの間にヤルことヤッっていたのよ?」
「それは……えっと、2ヶ月前の……って説明させるなっ!」

 一方、この期に及んで状況がよく分かっていないっぽいアレル。

「えっと、ソフィネに赤ちゃんが出来たの?」
「らしいな」
「……ふーん、でも、ソフィネ太ってないよ?」

 いや、妊婦のお腹の膨らみを『太る』と表現するのはどうなんだとか思うのだが、それはまあ、この際どうでもいい。

「まだ、妊娠して時間が経っていないからよ」

 ソフィネの説明に、アレルは『ふーん』と分かっているんだか分かっていないんだかといった様子。

「そっかぁ、ライトとソフィネって……ふーん」

 アレルはウンウン頷いている。
 この子、どうやったら赤ん坊ができるのか分かっているのだろうか。
 その手の教育はまだしていなかったと思うが……

 いや、アレルの性教育はとりあえず置いておこう。

「ソフィネ、なんで教えてくれなかったんだよ!?」

 詰寄るライト。そりゃあそうだろう。

「だって……貴方やアレル達の目標を考えたら、私のことで面倒をかけたくなかったし」
「いや、あのなぁ……」
「それに、私だってここまできたら最後の試練まで付き合いたいって思ったから」

 気持ちは分かる。
 確かにここまできて『妊娠したから最後はリタイア』というのは心残りではあるだろう。
 だが。

「分からないではないけど、最後の試練には連れて行けないぞ」

 ライトがハッキリとソフィネにそう告げる。

「レンジャー技能は必要でしょう?」
「それでも、だ。当たり前だろ」
「……でもっ」
「ダメだ。お前や赤ん坊のためだけじゃない。アレルとフロルが無事最後の試練を乗り越えるためにも、今のお前は連れて行けない」

 ライトはきっぱりと言った。

「…………そうよね……」

 ソフィネは小さく言った。

「本当はね、分かっていたの。重荷の体で冒険者なんてできない……ましては勇者の試練なんかにいけるわけないって。それでも……やっぱり最後まで一緒に行きたかったなぁ……」

 ソフィネが寂しげにそう言った時。

「失礼するよ」

 そう言ってやってきたのは、ギルド長ダルネスとソフィネの父ロルネックだった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

「娘が迷惑をかけて申し訳ない」

 開口一番、ロルネックは俺達にそう言って頭を下げた。
 俺は慌てて言う。

「いや、迷惑だなんて。子どもが出来たことは……そりゃあビックリしたけれど、おめでたいことだと思いますし」
「一般論としてはその通りだが、冒険者としては時期が悪すぎる」

 そうかもしれないが、俺としてはライトとソフィネを祝福したいと思う。
 そもそも仮に責任云々いうのであれば、どちらかといえばライトの方にこそあるだろう。

 そんな俺達の会話をダルネスが遮る。

「過ぎたことを言っても仕方あるまい。それよりも、これからのことだ」

 そう。これからのこと。
 本来なら……決闘がなければ今朝にも最後の試練に出発する予定だったのだ。

「最後の試練へ向かうのは明日にしようと思う。ソフィネくん、残念だが君を行かせるわけにはいかん。
 冒険者の長としても、人生の先達としても、一人の人間としても、そんな無茶は認められない」
「……はい」

 ソフィネもわかってはいたのだろう。
 不承不承ではあったが頷いた。

「そこで、最後の試練へ向かうパーティじゃが、レンジャーとしてロルネックを連れていってもらうのはどうか」

 なるほど。
 ロルネックがやってきたのは娘の容体を気にしてというだけではなかったらしい。

「はい。ただ、その前に一度教会へ行かせてください」
「……神と意見交換か?」
「はい。最後の試練の内容も、できる限り聞き出してきます。ロルネックさんの力を借りる必要があるかどうかも」
「ふむ、よかろう」

 俺の提案に、ダルネスも頷いてくれたのだった。
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