異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第九章 勇者と保護者

5.【ライト】お前の思いを

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(ライト視点/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ギルド総本山において、ライト達は二階建ての家を貸し与えられていた。
 それも、5人それぞれの個室と、みんなで集まって話したり食事をしたりするためのダイニングまである立派な家だ。
 ハッキリ言って破格の待遇である。
 ギルド上層部の偉い人達だって、殆どは集合住宅に一部屋与えられているだけだ。
 ましてや、修行中の身の上ならば家賃ありの共同部屋である。
 それだけ、『勇者』という存在は大切だということだろう。

 ライトはアレルのあとを追って家から駆け出す。
『気配察知』のスキルを使ってみる。
 アレルは遠くに行ってはいないようだ。
 アレルが本気で『忍び』などのスキルを使えば、ライトにも居所は分からないが、その様子もない。
 まるで、見つけてくれと言わんばかりだ。

(勇者、か)

 思えば笑ってしまう。
 自分が勇者のパーティの1人だなんて。
 幼馴染のバーツに引っ張られるようにエルシャット村を出たときには想像もしていなかった。

 だけど、だ。
 冷静に考えてみれば自分なんかよりも、アレルとフロルの2人はもっとずっと当事者なのだ。
 あの幼い体と心で、勇者としての力と立場をなんとか受け入れようとずっと頑張っていた。
 それがどれだけ辛いことか、ライトには想像もできない。

『別に、好きで勇者に生まれたわけじゃない!』

 先ほどのアレルの叫び声は、ずっとずっと溜まっていた素直な気持ちなのだと思う。

 それでも、2人がここまでこれたのは、支える者がいたからだろう。
 ミリス、ミレヌ、ダルネス、レルス、ゴボダラ……思えば自分たちを支えて助けてくれた人達はおおぜいいる。
 思い上がりかもしれないが、アレルから見ればライトやソフィネもそうだろう。

 そして、だれよりもアレルとフロルを支えてきたのがショートだ。
 ショートがいたから、アレルもフロルもここまで頑張ってきた。
 ショートがいなくなるとなったら、アレルが混乱するのも無理はない。

(だけどさ、アレル)

 ライトは思う。
 ショートの対応は後手後手で、正直褒められたものではない。

 だけど。

 ショートは異世界人だ。
 異世界云々を除いても、別に双子の実の親ではない。
 仮に実の親だったとしても、いつかは子どもは親から離れるものだ。
 保護者付の勇者なんて、それこそ冗談にしかならないだろう。

 アレルとフロルは、もうショートという保護者から離れるときなのだ。

 幼き勇者は家の裏側で、壁により掛かるようにうずくまっていた。
 膝を抱えて俯いていて、その表情はうかがいしれない。

「アレル」

 ライトの呼びかけに答えようともしない。

 ライトはもう一度、今度はちょっと強めに呼びかけた。

「アレル!」

 だが、それでもアレルは顔を上げようとしなかった。
 だから、ライトはアレルの右手を掴んだ。
 掴んで持ち上げて、無理矢理顔を上げさせた。

「……」

 アレルはブスッとした表情のまま、ライトから視線をそらす。

「アレル、いつまでふてくされているつもりだ?」
「……」
「いつまで、ショートに頼っているつもりだ?」
「……」

 アレルは何も答えない。

(ったく)

 これじゃあ、ただの我儘な子どもだ。
 実際、そのとおりなのだが。

「アレル、お前はそんなに弱いヤツだったのか?」
「別に強くなりたかったわけじゃないもん。勇者になりたかったわけでもないもん」

 アレルは強い。
 アレルのステータスは、すでにこの世界でトップだ。
 アレルと1対1で戦って勝てる者などすでにいない。
 あのレルスですら今のアレルには歯が立たない。
 例外がいるとするならばそれこそ、魔王か、あるいはフロルかだけだろう。

 だが。
 ライトの目から今のアレルを見ると、ただの小さな子どもだ。
 9歳の、ようやく幼児から少年へと成長しようとしている、泣き虫な男の子。
 勇者の力があろうがなかろうが、アレルの本質はそうでしかないと、ライトはよく知っている。

(さて、どうしたもんかな)

 アレルを立ち直らせて、ショートから独立させるためにどうしたらいいか。
 追いかけてきたものの、ライトにだって妙案があるわけではない。

 自分はただの戦士で、別に弁が立つわけでもない。
 ただ、アレルのパーティメンバーとして、仲間として、友達として、彼を立ち直らせたいと思っている。

(戦士、か)

 それはふと思いついただけのこと。

 そう。ライトは戦士だ。
 そしてそれはアレルも同じこと。
 勇者などと呼ばれているが、いまだ魔法の一つも覚えていないアレルのステータスは天才戦士と言った方がいい。

 ならば。
 戦士と戦士の間で交わすべきは言葉ではないだろう。

 アレルの思いを受け止めるために、ライトができることはただ一つだ。

 ライトは腰に付けたミスリルの剣を抜いた。
 切っ先をアレルに突きつける。

 剣を向けられ、さすがにアレルも驚いた顔だ。

「いきなりなにするんだよ?」
「アレル、俺はお前に決闘を申し込む」

 アレルが目を見開く。

「意味が分からない」
「もし俺に勝てたら最後の試練は受けなくてもいい。だが、俺が勝ったら試練を受けろ」
「なんだよ、それ?」
「俺に勝てないようじゃ魔王をどうにかなんてできないだろう?」
「理屈になってないと思うけど」

 そう、確かに理屈になっていない。
 だが。

「戦士と戦士の決闘に理屈なんていらない。やるか、やらないかだけだ」
「アレルに勝てると思っているの?」
「さあな。受けるか受けないか。逃げるか戦うか、選べよ」

 ライトはアレルを睨みつけた。
 
 幼い体と心に勇者という不相応な力を持ち、保護者を失うとなって張り裂けんばかりになっている少年。
 ライトの大切な仲間で、友達の男の子。
 世界を救う勇者様。

 そして――ライトにとっての永遠の目標。

「本気なんだね?」
「もちろんだ」

 アレルは黙想する。
 そして、答えた。

「わかった。受けるよ」

 彼もまた、戦士なのだ。
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七草裕也の小説

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