異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第九章 勇者と保護者

3.のりこえるべきこと

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 アレルとフロルが勇者の偶像の前から消えて、しばし。
 いいかげん、俺もライトもソフィネもこのままじゃまずいんじゃ……と思い始めた頃。

 唐突に。
 俺達の周囲の世界が変わった。

 いや違う。
 ダンジョンの外に強制的に排出された。

「おい、どうなってるんだ? ここって『勇気の試練』への入り口があったところだよな?」

 確かにその通りだ。
 この場所は『勇気の試練』へのオーブがあった洞窟だ。
 ただし、オーブは消えている。役目は終わったということだろうか。

 と。

 洞窟の中にレルスがやってくる。

「もどったか?」

 彼はこの洞窟まで案内してくれたのだ。
『気配察知』かなにかで俺達が帰還したことに気がついたのだろう。
 確かに俺とライトとソフィネの3人は戻ったのだが……

「うん? アレルとフロルはどうした?」

 そう。2人はこの場にいなかった。

「それが……」

 説明しようにも俺も状況がよく分からない。
 それでも見たままを言おうかと口を開いたときだった。

 洞窟の天井付近が金色に光った。

「なんだ、あれ?」

 ライトが眉をしかめて言う。

「さあ……」

 ソフィネも困惑顔。
 だが、しばしすると光は人型になり……
 ……やがて、アレルとフロルの姿になった。

 そのまま床に落下しそうになる2人。
 慌ててライトがアレルを、俺がフロルを抱き支える。

「お前ら、どこに行っていたんだ?」

 尋ねるライトに、アレルが答えた。

「うーんとね。2つめの試練をクリアーしてきたよ。そんでね、シルシルっていうちっちゃい女の子の神様に会ったの」
「……なんだよ、それ?」

 ライトとソフィネ、それにレルスは困惑顔。
 いや、俺も困惑していたが、3人とはちょっと事情が違う。

 アレルはシルシルと会ったと言う。
 俺は双子に神様の名前など伝えていない。もちろん幼女姿だとも。
 にもかかわらず、アレルがこう言うということは、まず間違いなく本物のシルシルと出会ったのだろう。

「ちっちゃい女の子の神様って……」

 ソフィネはアレルに尋ねる。

「女の子って、私と同じくらい?」
「ううん。5歳くらいに見えたよー」
「幼女……神様が幼女……」

 ソフィネが俺の方を見る。

「ショート、ひょっとしてこれまであなたが言っていた神様って……その幼女なの?」
「そう……かな。ははは」

 ごまかし笑いをするしかない俺。

「聞いてないわよ!?」
「言ったって信じないだろうが」
「そりゃあそうだけど……」

 納得いかない顔のソフィネ。
 まあ、そうだよな。
 つーか、未だに俺だってあの空飛ぶ幼女が神様とか納得がいかないもんなぁ。

 そんな微妙な空気の中、レルスが言う。

「……神にとって、見た目の年齢など意味の無きものということだろう。事実、4年前からショートはその姿の神と話していたようだからな」

 レルスの言葉に一応皆納得してくれたようだ。

「たぶん、そんなところだと思います」

 俺はとりあえずそう答えておいた。
 ライトがあらためて双子に尋ねる。

「とりあえず神様の外見はともかくとしてだ。神様と会ってどうなったんだ?」

 それに対して、フロルが答える。

「神様は言いました。私たちは2つの試練を乗り越えたと。最後の試練を乗り越えたとき、勇者として目覚めると。
 それと……魔王が魔族を統一したとも。間もなく南西の大陸から攻めてくるだろうって」

 マジか。

「……そうか」

 レルスは苦々しい顔を浮かべる。
 魔王はすでに侵略戦争を始めようとしているというのだろうか。
 だとすれば、もう『魔王さんとお話がしたい』とかそういう状況ではないのかもしれない。

 さらにアレルが付け足す。

「あとねー、シルシルは言ってたよー。最後の試練を乗り越えたとき、アレル達にお別れが迫るって。でも誰と誰のお別れだろうね?」

 その言葉に、フロルが……いや、ライトやレルスも顔をゆがめる。
 ソフィネも一瞬何のことだか分からないといった顔をした後、すぐに何かに気がついた様子で、俺の方を見た。

 ――4人ともなんとなく察したようだ。シルシルの言う別れの意味を。

 最後の試練を乗り越えたとき。
 俺が双子の前から――この世界から姿を消すのだということに。

 アレルだけは気がついていないみたいだけど。

 フロルやライト達がそれを口に出さないのは、俺が話さないから――いや、俺から話すのを待っているからだ。

 もう、限界か。
 これ以上先延ばしはできない。

 アレルもフロルも初めて会ったときと比べて、ずいぶん成長したと思う。
 ライトやソフィネもだ。

 変わっていないのは俺だけだ。
 俺だけが勇気がなくて、別れのことを切り出せないでいた。

 もう、話さなくちゃいけない。
 シルシルはアレル達にはっきりとは伝えなかったらしい。
 やはり、これは俺から告げるべきことなのだろう。

 だから、俺は言った。

「わかった。とにかく今は総本山に戻ろう。そこで、これからのこととか、色々話そう」

 俺がそう言い、皆それに同意してくれたのだった。
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