異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第八章 旅立ちの時

9.生贄事件の顛末

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 青白男の横に現れたドラゴン。

「なぬ!?」

 さすがに驚いて足を止めるライト。
 一方、アレルはそのまま走る。

「アレル!?」

 フロルが叫ぶ。
 俺も慌てる。
 いくら彼が規格外の強さとは言え、20メートル級のドラゴンに1人つっこむのは――

 だが。

 アレルはドラゴンをすり抜け、青白男に肉薄。
 ドラゴンを避けて通ったわけではない。文字通り、ドラゴンの肉体を通り抜けたのだ。

「あっ、そうか!」

 叫ぶライトに俺は尋ねる。

「どういうことだ!?」
「『気配察知』にひっかからないんだよ、あのドラゴン!」

 ライトの説明に、俺も理解する。
 要するにあれは……

「幻ってことね!」

 フロルの言うとおりだ。
 おそらく、青白男が使ったのはドラゴンを召喚する魔法ではなく、ドラゴンの映像を空間に表示する魔法だ。そういえば、ダルネスはテレビみたいな魔法を使っていた。それに比べれば、動かないドラゴンを表示する魔法はそこまで高度ではないだろう。

 アレルは『気配察知』のスキルであのドラゴンがニセモノだと気づき、気にせず青白男に迫ったのだ。
 ライトも『気配察知』スキルはあるのだが、アレルよりもレベルが低い。いや、レベルの高さというよりも、視覚情報のインパクトに負けたと言ったところか。

 いずれにせよ、アレルは青白男にジャンプキック。
 それで青白男は気絶し、同時にドラゴンも消えた。

「くっ!?」

 そんなアレルに剣を構える筋肉男。
 アレルはミスリルの剣を抜き構える。

「ガキがぁぁぁ、なめるなぁぁ」

 筋肉男はアレルに挑みかかる。
 むろん、俺達は心配していない。
 筋肉男がレルス=フライマントほどの力を持ってでもいない限り、アレルをどうにかできるわけがない。

 ならば、俺達は残りの1人、ノッポを――

 と思ったら、ノッポが思念モニタを弄っている。
 コイツも魔法使いか!?

 ノッポが使った魔法は俺もよく知っている魔法――『火炎連弾』だ。
 狙いは俺とフロル!
 そこまで強い魔法ではないが、とはいえ、HPの低い俺やフロルには致命的。
『水連壁』あたりの魔法を使えば相殺できるが、俺もフロルも間に合わない。

「くっ」

 俺が身構えたその時。

 俺とフロルの前にライトが割って入った。

「ライト!?」

 盾になるつもりか? 確かにHPは彼の方が多いが。
 だが。

「うらぁぁぁぁ!」

 ライトが叫び、鋼鉄の剣で迫り来る炎をなぎ払う。
 さらに、衝撃波がノッポを吹き飛ばす!

 まさか!? 『風の太刀』か!?
 いずれにせよ、気づいたときには誘拐犯3人はその場に気絶していた。

 ――俺とフロルとソフィネは何もしていない気がする。

「ライトっ! 『風の太刀』できるようになったの?」

 いつの間にか筋肉男を倒していたアレルが、自分のことのように嬉しそうにライトに寄ってくる。

「お、おう、なんか、とっさだけど、できちまった」
「すごい、すごいっ!」

 アレルがライトを祝福するが、ライトはちょっと微妙な顔。
 まあ、素振りを数十回しただけで『風の太刀』を覚えてしまうような異能の天才に祝福されても微妙な気分にはなるわな。

「すごいじゃない、ライト! 見直したわよ」

 ソフィネに言われ、ようやくライトも笑顔になった。

 ---------------

「――と、いったようなかんじで、ドラゴンの正体はコイツの魔法が作りだしたニセモノでした」

 誘拐犯3人を縛り上げ、村に戻り村長をはじめとする村人達に報告。

「……では、これまで生贄に差し出した娘達は……」
「おそらく、奴隷として売られたんでしょうね」
「……なんということだ」

 ちなみに、3年前生贄うんぬん村人達に吹き込んだ魔法使いというのはノッポのことだったらしい。
 要するにあれだ。マッチポンプってやつだな。
 自分たちでドラゴンの映像を作りだして村人達を脅し、解決するためには娘を生贄に差し出せと言ったと。

「こいつらは俺達が町まで連れて行きます。衛兵に全て報告しますので」
「よろしくお願いします」

 村長達は俺達にそう言ったが、この人達その意味わかっているのかね?

 ---------------

「なるほど。そのようなことが。大変でしたな」

 王都まであと3日ほど。エンパレの町よりも少し大きな町。
 衛兵は俺達の説明を聞いてうんうん頷いた。

「こいつらはお任せしていいですか?」
「はい。しかるべき裁きを与えます。もちろん、その村の住人にも」
『よろしくお願いします』

 俺達は元気よく答えた。

 ――これが、生贄の村で起きた事件の顛末である。
 衛兵によれば、誘拐犯3人は彼ら自身が奴隷に落とされるか、最悪死罪。
 村人達も村長以下指導者は捕え、それ以外も罰金刑らしい。

 当たり前である。
 いくら欺されたと言っても、若い娘を生贄に出したり、ましてや旅人に睡眠薬を盛って生贄にしようとするなど、度が過ぎる。
 衛兵によればこれまでにも、あのあたりで若い女性の旅人が消える事件があったという。
 どこまで村人が関与していたかはこれからの調査次第だろうが。
 これで村人が無罪放免なわけがない。

「結局、くたびれもうけの事件だったわねぇー」

 ソフィネがウンザリといった表情で言う。

「まあ、一応衛兵から謝礼金は出たから」

 俺が言っても、ソフィネの顔は晴れない。
 謝礼金は誘拐犯1人につき銀貨2枚と、村の情報で銀貨4枚。つまり金貨1枚分でしかない。
 レベル0の頃ならば有り難かった金額だが、以前試験で潜ったダンジョンで手に入れた魔石を売ったら大判金貨32枚になったからなぁ。相対的にそこまで喜べる金額じゃない。

「ま、ライトが『風の太刀』を覚えただけでもよしということでさ」

 俺が言うが、ソフィネとフロルは未だ不満そうだ。
 アレルやライト自身は『風の太刀』習得を素直に喜んでいるのだが。

 ライトはソフィネとフロルに言う。

「ま、なんにせよ、もうすぐ王都だ。気分を切替えよーぜ。きっと美味いもんもたくさんあるだろーしさ」

 そう。いよいよ王都である。
 別に王都に何があるというわけでもないが、この国最大の都だ。
 そこで、俺達を待つのは一体どんなことなのか。
 今の俺達には知るよしもないのであった。
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