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【番外編】

【番外編6】戦士と戦士の会話

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(レルス=フライマント/一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 エンパレの町のギルド。
 その一室で、私はギルド長ダルネス=ゴッドウェイ殿と向かい合って座っていた。

「それにしても、無茶をしたもんじゃのう」
「もうしわけありません」

 ダルネス殿の苦笑いに、私は謝ることしかできない。

「ワシが慌てて飛んできていなかったら、今頃観客に死者が出ておったぞ」
「重ね重ねお世話になりました。アレルを見ていると、どうしても、今すぐ手合わせをしたくなりまして」

 ダルネス殿は「わからんではないがの」と言って笑う。

「何しろ、あと1年後には、私など全く相手にならない高みに彼はいってしまうでしょうからな」
「ほう、そうか」
「はい。以前の試験の後、アレルに勝つために半年かけて身につけた『蛟竜の太刀』すら、彼は一瞬で使えるようになりましたから」
「なるほどのう。
 ところで、どうじゃった?」

 その質問の意味は分かっている。

「まず間違いなく、魔王復活は事実かと。そして、世界各地で魔物が活発化しています」

 この地の魔の森にセルアレニが現れたのもその1つだろう。
 先に向かったレベル10のダンジョンでも、モンスターの数が異常に多かった。最後にセルアレニが現れたときは、さすがに私も肝を冷やしたものだ。

「ふむ、そうか」
「それと同時に、これは未確認ですが……」

 私は西の大陸で掴んだ情報を述べる。

「……魔族の間で今回のだという噂が流れておりました」
「ふむ。もしそれが本当ならば……なるほど、であってもおかしくない、か」
「はい」

 アレルとフロル。彼ら2人こそ、今回の勇者なのだろう。
 フロルの方はまだ目覚めきっていない様子だが、それもこの地では習得できる魔法に限りがあるからにすぎないのではないか。

「ワシの方でもな、1つ調べた」

 そう言って、ダルネス殿は私に一枚の資料をよこした。

「双子の保護者、ショート・アカドリくんの過去を追った。だが、な」
「過去が不明、ですか」
「不明、というよりもといったところじゃな。ある日突然、エンパレの町に――より厳密には、エンパレの町近郊の魔の森に現れたとしか思えん」
「ふむ……」
「そろそろ、彼には本当のことを語ってもらわねばなるまいな」

 ダルネス殿がそう言った時だった。
 部屋の扉がノックされた。

「どなたかの? 鍵はかかってないぞ」

 どのみち、この世界にいるもので、私とダルネス殿を傷つけられるような者は、それこそ、魔王かアレルしかいないだろう。鍵など意味が無い。

「失礼します」

 はたして、入ってきたのは1人の少年戦士だった。

 ---------------

 部屋に入ってきた彼――ライトルールは真剣な顔つきだった。少年が大人に相対するのではなく、戦士が戦士に相対する顔だ。

「レルスさんにお願いがあります」

 ライトルールはそう私に言った。

「ダルネス殿、一度席を外して戴けませんかな?」

 私が言うと、ダルネス殿は笑う。

「ワシに出て行けなどと言えるのは、お主だけじゃぞ」
「もうしわけありません。ですが、これは戦士と戦士の話ですから」
「ふむ、他ならぬお主にそう言われては致し方があるまい」

 ダルネス殿はそういって、部屋から出て行く。
 ライトルールはそんなダルネスに一礼した。

「それで、頼みとは?」
「アレルのことです」

 やはり、そうか。
 その言葉で、私は彼の言いたいことを理解した。
 だが、あえて彼にその先を促す。

「アレルと、パーティーを組んでやってもらえませんか?」
「これは唐突だな」

 本当は、彼の顔を見たときからそう言い出すのは分かっていたが。

「アレルは――あいつは天才です。俺なんかじゃ太刀打ちできない。必死に食らい付こうとしたけれど、無理です。俺には『風の太刀』や『光の太刀』なんてどうやったらできるのか、さっぱりわからない。あいつの横に立つべきは俺なんかじゃない。アイツと同じ才能を持つ、あなたのような戦士です」

 を持つ、か。

 私の口元から苦笑いがこぼれる。

「何がおかしいんですか?」

 ライトルールは少し不快そうに尋ねる。それはそうだろう。戦士として、本気で相談に来たのだ。笑うのは彼に失礼すぎる。それでも、私は笑みを止められなかった。

「同じ才能か。ライトルールくん、君には教えておこう。私が『風の太刀』を使えるようになったのは17歳の時だ。『光の太刀』は19歳。『炎の太刀』は25歳だったかな。『爆煙の太刀』や『蛟竜の太刀』にいたっては、使えるようになったのはつい最近のことだ。
 君と同じ年齢の時には、私は『風の太刀』など見たこともなかったよ。そういう意味では、アレルのそばで『風の太刀』や『光の太刀』を何度も目撃している君の方が上かもしれんな」

 ライトルールは目を見開く。

「もしも、アレルと同じ才能を持つ者しか、彼の横に立てないというならば、この世界の誰も彼の横には立てない。例外がいるとするならば、フロルだけだろう。ショート・アカドリもそのうつわではない。もちろん、私もな」

 アレルのそばにいれば、彼のような気持ちにもなろう。
 かつて、私の仲間達がそうだったように。

「天才とは孤独なものだ。そのつもりがなくても、周囲を常に振り落としてしまう。それを回避しようとすると、今度は周囲を侮ることになってしまう。
 いつしか、天才の周囲には天才しかいなくなり、仲間だった者達は立ち去っていく」

 ライトルールの顔に変化が現れる。図星を指されたような、そんな顔。

「その顔には心当たりがあるな」
「……はい」
「ライトルールくん。いや、ライト。先の決闘でなぜ君に審判を頼んだか分かるか?」
「いいえ」
「他の者には無理だったからだ」

 彼の顔に困惑が浮かぶ。
 やはりか。彼は自分の力を認識していない。

「今の私とアレルが戦えば、ああいう戦いになることは分かっていた。ライト、君は私たちの戦いを見ていたね?」
「はい。俺なんかにはとてもついていけない戦いでした」
「だが、目で追うことはできた」

 彼は頷く。

「おそらく、あの場にいた他の誰もが、あの戦いを目ですら追えなかっただろう。ダルネス殿もふくめてな。
 君だけが、私たちの戦いを見守ることができた。他の者に審判をやらせていれば、おそらく死ぬか、それに近い結果になっていただろう」

 彼は答えない。
 必死に、何かを考えている。

「ライト、今の君に勝てる戦士は、大陸中探しても、10人か、20人か、そんなものだろう。君の年齢以下というならば、アレル以外には君に勝てる者はいないだろうな」

 ライトルールは何も言えない様子だ。

「ライト、アレルは強い。だが、幼い。彼を孤独な天才にさせないでほしい。それができるのは、私ではない。彼と今まで共に戦ってきた君だ」

 私の言葉に、ライトルールの顔が晴れやかになる。

「食らい付け、ライト。アレルと同じ事ができる必要はない。だが、どこまでも食らい付いていけ。君にはそれができるだけの才能がある。自信を持ちなさい」

 ライトルールの顔に、決意が浮かぶ。

「はい!」

 彼は大きな声で返事をする。

「レルスさん、すみませんでした。俺、あなたに甘えてしまうところでした。ありがとうございました」

 そう言って、少年は立ち去った。仲間の元へと走って行った。

 その背を見て思う。

 私にもあんな頃があった。
 今の彼ならば、私の小手を割ることくらいはできるだろう。
 一年後はともかく十年後には、私はアレルだけでなく、彼にも勝てなくなっているかもしれないな。

 それは、とてもワクワクする予感だった。
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