上 下
62 / 94
第七章 初めてのダンジョン/レベル2への試験

1.レルス=フライマントとの再会

しおりを挟む
 レベル2の試験日早朝。

 俺達はギルドの道場へやってきた。
 レベル0の間は毎日のように通っていたこの建物も、レベル1になってからはあまり訪れなくなっていた。
 それでもブライアンに魔法を習うときくらいはやってきたのだが、剣術修行は受けていない。
 アレルもライトも、もう修行よりも実戦の方が大切というレベルなのだ。素振りだけなら道場に行く必要もないしね。あ、俺とフロルは剣術は諦めた。
 ソフィネにいたってはレベル0の時も道場にはほとんど立ち入っていないので、前回の試験の時くらいらしい。弓矢はレア武器扱いで、道場でも教えていない。

「ダンジョンってどんなところなのかなぁ? アレル楽しみ」

 アレルが無邪気に言う。
 相変わらずの舌っ足らずではあるが、5歳の頃よりはマシになったかな。半年前は『だんぢょん』って言っていたし。

 一方、俺はぼやく。

「俺は楽しみよりも不安の方が大きいよ」

 レベル2への試験の内容はほとんど知らない。
 唯一分かっているのは、試験官とともに実際にダンジョンに行くということだけ。

 で、そもそもダンジョンというのがどういう場所なのかが分からない。
 レベル2の試験を受けられるようになるまで、ダンジョンが何か、どこにあるのか、冒険者は誰も教えてはいけない決まりなのだ。
 そして、冒険者以外だと国王や大臣レベルの人しかダンジョンについては知らない。
 つまり、事前にダンジョンがどのようなものか知ることは通常不可能なのだ。

 もっとも、俺には反則技がある。
 もちろん、シルシルのことだ。
 あいつならダンジョンが何か知っているはずだろう。

 だが、10日程前に尋ねたところ……

『ふふふのふ~、おしえないのじゃ。他の誰も知らないでテストに挑むのじゃから、お主にだけ教えたら不公平じゃろうが』

 ……だそうである。
 俺に対して転移だの祝福だの助言だのしまくっている神様が、今さら公平不公平を語るかとも思うが、確かに俺だけ事前情報を手に入れるのは反則か。

 そんなわけで、ぶっつけ本番である。

 4人の仲間の様子を見ると、ライトは俺と同じく不安いっぱい、アレルとソフィネは楽しみ、フロルは全力を尽くすだけだと決意しているといったところか。

 そして、ギルド道場で俺達を待っていた試験官は……

「久しいな、アレル。ショートくんとフロルくんも元気そうで何よりだ」

 ……まさかの、レルス=フライマントだった。

『お久しぶりです。レルスさん』

 俺とフロルは慌てて頭を下げる。前回は彼の正体を知らなかったが、今回は知っている。礼儀は大切だ。

「こんにちは、レルスしゃん」

 ……なのに、なんでアレルはこうも不躾なのか。一応呼び捨てではなく『しゃん』をつけたのが救いか。

 そんな俺達の様子に、驚愕してひっくり返りそうになっているのがライトとソフィネ。

「え、レルスって、え?」
「まさか……」
「レルス=フライマントさん!?」
「伝説の騎士!?」

 あ、そういえば2人は初対面だったっけ。

 そして。
 2人とも慌てて礼。

『よろしくお願いします』

 うん、ライトはともかく、ソフィネがこういう場面で慌てるのは珍しいな。
 冒険者達の間でレルス=フライマントとは現在の生きる伝説扱いなのだ。

「ふむ。今回、君達の試験は私が担当する。よろしく頼む」

 ……これって、やっぱりアレルとフロル……いや、アレルに興味があるからなんだろうなぁ。

「それでは、早速だが5人の冒険者カードを確認させてくれたまえ。もちろん、全ての項目を表示させてな」

 レルスはそう言って、俺達の冒険者カードを確認し始めたのだった。

 ---------------

「ふむ。いいだろう。5人とも合格だ」

 ……はい?

「合格、ですか?」

 俺が眉を寄せる。ダンジョンで試験をすると聞いていたのだが……
 もちろん、アレル達4人も戸惑っている。

 レルスはすぐに言う。

「ああ、すまん。誤解を与えたな。申し訳ない。君達のステータスならば、レベル2の試験を受けさせられるという意味だ」

 うん? 依頼回数をこなしているかをカードで確認したのか?
 いや、依頼回数はカードには表示されないはずだ。それに、レルスはステータスを確認したと言った。

「ふむ、説明が必要だったな。これは公表していないが、レベル1の依頼をこなしたとしても、ステータスが低すぎる者にはレベル2の試験は受けさせられないのだよ」

 マジか。ミリスもミレヌも誰も教えてくれなかったけど。

「理由は簡単。この試験は命がけだからだ。ステータスの低い者はダンジョンには連れて行けん。
 レベル2の試験での死亡事故は10人中1人くらい。その他後遺症の残る怪我は10人中2人くらいが負うとされている。
 それをふまえて最後の意思確認だ。本当に試験を受けるかね?」

 10人中1人が死亡。
 かなりの確率である。

 だが。
 俺達の答は決まっていた。

『はい。もちろんです』

 5人全員、即座にそう答えたのだった。
 当然だろ? この日のためにずっと頑張ってきたんだ。
 今さらやめるなんていうヤツ、この中にはいないさ。

 レルスはニヤッと笑った。

「いいだろう。ではまず、試験とダンジョンについて説明する。こちらに来なさい」

 そうして、俺達はまず、レルスから試験に向けた事前講義を受けることになったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

レベルアップに魅せられすぎた男の異世界探求記(旧題カンスト厨の異世界探検記)

荻野
ファンタジー
ハーデス 「ワシとこの遺跡ダンジョンをそなたの魔法で成仏させてくれぬかのぅ?」 俺 「確かに俺の神聖魔法はレベルが高い。神様であるアンタとこのダンジョンを成仏させるというのも出来るかもしれないな」 ハーデス 「では……」 俺 「だが断る!」 ハーデス 「むっ、今何と?」 俺 「断ると言ったんだ」 ハーデス 「なぜだ?」 俺 「……俺のレベルだ」 ハーデス 「……は?」 俺 「あともう数千回くらいアンタを倒せば俺のレベルをカンストさせられそうなんだ。だからそれまでは聞き入れることが出来ない」 ハーデス 「レベルをカンスト? お、お主……正気か? 神であるワシですらレベルは9000なんじゃぞ? それをカンスト? 神をも上回る力をそなたは既に得ておるのじゃぞ?」 俺 「そんなことは知ったことじゃない。俺の目標はレベルをカンストさせること。それだけだ」 ハーデス 「……正気……なのか?」 俺 「もちろん」 異世界に放り込まれた俺は、昔ハマったゲームのように異世界をコンプリートすることにした。 たとえ周りの者たちがなんと言おうとも、俺は異世界を極め尽くしてみせる!

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

【完結】赤獅子の海賊〜クマ耳の小人種族となって異世界の海上に召喚されたら、鬼つよの海賊が拾ってくれたのでちやほやされながら使命果たします〜

るあか
ファンタジー
 日本からの召喚者ミオがクマ耳の小人種族となって相棒のクマのぬいぐるみと共に異世界ヴァシアスへ転移。  落ちた場所は海賊船。  自分は小さくなって頭に耳が生えてるし一緒に来たぬいぐるみは動くし喋るし……挙句に自分は変な魔力を持ってる、と。  海賊船レーヴェ号の乗組員は4名。  船長のクロノ、双子のケヴィン、チャド。  そして心も身体もおじさんのエルヴィス。  実はめっちゃ強い?彼らの過去は一体……。  ミオは4人で善良にクエストや魔物ハント活動をしていた愉快な海賊の一員となって、自分の召喚者としての使命と船長のルーツの謎に迫る。  仲間との絆を描く、剣と魔法の冒険ファンタジー。  ※逆ハー要素があります。皆の愛はミオに集中します。ちやほやされます。  ※たまに血の表現があります。ご注意ください。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

農業機器無双! ~農業機器は世界を救う!~

あきさけ
ファンタジー
異世界の地に大型農作機械降臨! 世界樹の枝がある森を舞台に、農業機械を生み出すスキルを授かった少年『バオア』とその仲間が繰り広げるスローライフ誕生! 十歳になると誰もが神の祝福『スキル』を授かる世界。 その世界で『農業機器』というスキルを授かった少年バオア。 彼は地方貴族の三男だったがこれをきっかけに家から追放され、『闇の樹海』と呼ばれる森へ置き去りにされてしまう。 しかし、そこにいたのはケットシー族の賢者ホーフーン。 彼との出会いで『農業機器』のスキルに目覚めたバオアは、人の世界で『闇の樹海』と呼ばれていた地で農業無双を開始する! 芝刈り機と耕運機から始まる農業ファンタジー、ここに開幕! たどり着くは巨大トラクターで畑を耕し、ドローンで農薬をまき、大型コンバインで麦を刈り、水耕栽培で野菜を栽培する大農園だ! 米 この作品はカクヨム様でも連載しております。その他のサイトでは掲載しておりません。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...