異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第五章 魔の森の戦い

12.町に帰るまでが冒険です

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 以下は後から聞いたことである。

 ---------------

 俺達と別れたライトとマルロは、ひたすらエンパレの町を目指した。
 強力なモンスターに襲われたら、2人では戦いきれない。
 それは分かっていても、2人は道をなかば駆けるように急いだ。
 あるいは、その行動は慎重さのない無謀な行進と評価されるものだったかもしれない。
 本来ならば、戦力的にはモンスターと出会わないよう、慎重に動くべき時だったのだから。

 だが、ライトもマルロも、責任を強く感じていた。
 自分達のパーティーメンバーを、俺達に託してしまった。しかも、その発端の行動は無謀な暴走である。

(絶対に、アレル達を助ける)

 その為に、彼らは無謀としりながらも、魔の森を走った。

 はたして、運は彼らに味方した。
 モンスターとほとんど出会うことなく、魔の森を抜けることができたのだ。

 2人はエンパレの冒険者ギルドに駆け込む。
 息荒く、森の異変とセルアレニのこと、そして俺達のことを説明する。
 ざわつくギルド内。

 エンパレのギルドの長はすぐに『緊急指令』を発令。
『緊急指令』とは特に急を要する依頼のことで、普段の志願制とは異なり、指定のレベルの冒険者でその町近隣におり、特段の理由がない者は強制的に召集される。いわば、臨時の徴兵令に近い。
 ギルドの職員を含め、レベル1とレベル2の冒険者は志願制、レベル3以上は半強制的に討伐隊に参加することとなった。
 もちろん、ギルドを留守にするわけにはいかないから数名は残ったし、町の警備についたものもいるが。

 レベル1やレベル2の志願者も多くいた。
 セルアレニの脅威はほうっておけないと判断した者もいただろうし、ミリスや双子、俺のためでもあったのだろう。
 ギルドの指令ならば金払いがいいという理由で参加した者も、もちろんいたと思うが。

 集まった戦力は30人ほど。不足とまでは言わないがセルアレニを相手にするとなると、若干心許ないのも事実だ。
 特に魔法使いはブライアンしかおらず、すぐに出発するべきか、それとも他の町から援軍を待つべきか意見が割れる。

 余談だが、すぐに行くべきだと主張したのは、俺達がレベル1に上がったときに祝ってくれた冒険者達だったらしいことは付記しておく。

 最終的に、セルアレニの弱点は氷系で、ブライアンの得意魔法と重なること。そして、俺達の命だけでなく、このままではいつモンスターが町まであふれ出てくるか分からず猶予はないという2つの理由で、即時行軍が決定。

 ……と、まあ、そんな流れだったらしい。

 ---------------

 いずれにせよ、俺達は助かった。
 気を失ったままの4人も、この人数ならば運べる。

「それにしても、あなたともあろうものが無茶なことをしたものね」

 ブライアンがミリスに向けた言葉には、若干咎める要素があった。
 セルアレニの情報が出た時点で、撤退を選ぶべきだったはずだという意味だ。

 事実、結果を見ればそれが正しかった。

 もしも、事前にアレルがまたしてもステータスアップしていなかったら?
 もしも、セルアレニが10匹ではなく15匹いたら?
 もしも、俺かフロルのMPがもう少し早くなくなっていたら?
 もしも、謎の光の戦士が現れなかったら?
 もしも、ブライアン達が間に合わなかったら?
 もしも、ライト達が町にたどり着けなかったら?

 俺達は今頃死んでいた。間違いなくだ。

「すまない」

 ミリスは素直に謝った。
 大人として、冒険者の先達として、俺達の剣術師範として、町の警邏として、どの立場で考えても、あの時の選択は正しくなかったといえるのだ。
 おかげでバーツとカイが助かったとか、誰も犠牲者はいなかったとかいうのは、本当にもう偶然と幸運と奇跡が重なった結果論でしかない。

 ---------------

 ところで、俺達を助けに来た冒険者の中には、あまりにも意外な人物の顔もあった。

「まさか、あなたまで来るとは思いませんでした」

 俺の言葉に、彼は「フン」と顔を背ける。

「奴隷商人にとっても冒険者資格は便利だからな。『緊急指令』となれば参加せんわけにはいかないだろう」

 そう、なんと奴隷商人ゴボダラが討伐隊の中にいたのである。のみならず、彼の奴隷の中にも冒険者資格を持つ者がいたらしく、数名を引き連れて討伐隊に参加したのだ。
 アレルとフロルはその奴隷達が運んでいる。考えてみれば、奴隷達は俺なんかよりもずっと長い時間双子と暮らしていたのだ。

「まあ、ゴボダラちゃんてば照れちゃって♪ あなたはレベル2なんだから強制参加じゃなかったでしょう?」

 ブライアンの言葉に、再び「フン」と顔を背けるゴボダラ。

「まあ、なんだ。俺が売った双子と顧客が速攻で死んじまったんじゃあ、寝覚めが悪いからなっ」

 目線をそらしたまま言うゴボダラ。
 あれ、ひょっとして照れているのか? っていうか、ツンデレか? ツンデレキャラなのか?
 ここまで可愛いい要素がないツンデレキャラも珍しいが。

「ありがとうございます。俺もアレルもフロルも助かりました」

 頭を下げる俺。
 直接助けてくれたのはブライアンだが、多くの冒険者が協力してくれたからこそここまで早くやってくることができたのだ。

「ふん。大体、俺は後悔しているんだ」
「後悔?」
「あの双子が30日足らずで最年少冒険者になるようなタマだったっていうなら、あと10倍はあんたにふっかけりゃよかった。いや、むしろ俺自身が育成して一儲けだってできたってのによぉ。ちくしょー」
「ははは……」

 俺は力なく笑う。10倍ふっかけられたらシルシルにもらった金じゃあどうにもならなかったなぁ。

「ところで、よく俺達の居場所分かりましたね。ブライアンさんも『地域察知』は使えなかったはずじゃ?」
「ああ、それは彼のおかげよ♪」

 ブライアンが示したのは1人の神父だった。

「エンパレの町で唯一『地域察知』をつかえる人よ。あ、もちろんショートちゃんはのぞいてね♪」

 なるほど。そういえば教会では『地域察知』も習えた。
 以前ブライアンに聞いたことだが、教えられる魔法は自分が使えるもののみだそうだ。
 実はギルドでも『体力回復』の魔法は、ブライアンではなくミレヌが儀式を行なうのだ。

「これはギルドへの貸しですからね」

 そういう神父に、ミレヌが苦笑している。金ですむ貸しなのかな?
 ともあれ、最後にミレヌが全員に言う。

「それじゃあ、皆さん帰りますよ。町に戻るまでが冒険です!」

 こうして、俺達はエンパレの町に戻ることになった。

 帰り道の途中でもモンスターの襲撃はあったのだが、そこは割愛する。
 誰1人死ぬことはなかったし、町に戻るまで双子やバーツ達が目覚めることもなかったことだけ付記しておこう。
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