異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第五章 魔の森の戦い

9.本当の戦い

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 戦いは凄惨を極めた。
 決して、絶対的に不利だったわけではない。

 アレルとミリスはよく戦っていた。
 ミリスは自分の力では首を落とせないと知ると、蛇の手足を切ることに重点を置く。
 蛇の足を切り落とされても、ヤツらは苦痛すら覚えないらしいが、それでも攻撃手段を減らすことができる。

 とどめはアレルとフロルの役目だ。
 アレルが首を落とし、フロルが遠距離から『氷球弾』を喰らわす。

 こう言えば、意外と善戦しているように聞こえるかも知れない。
 だが、セルアレニ達も当たり前だが黙ってはいないのだ。

 アレルとミリスはすでに何度も炎の攻撃を食らっている。
 致命傷にはならない炎だが、それでも相当な苦痛らしい。

「フロル! お前は攻撃に集中。回復は俺が」

 俺は2人が傷つくたびに、『怪我回復』や『体力回復』で援護。実質、この戦いで俺ができるのはそれだけだ。

 ゲームなら――地球のRPGならば、ボスキャラと戦うときは、HPが減るそばから回復していくというのが当然だろう。
 今、俺達がやっているのはそういう戦いだ。

 ゲームのキャラ達は苦痛を訴えない。
 例えHPが1まで減ったとしても、回復魔法さえかければなんということはない。

 現実の戦いではどうか。
 確かに、アレルもミリスも死んではいない。怪我も体力も、俺が何度も回復させている。

 だが。

 いくら回復できると言っても、炎に焼かれれば熱い。蛇の手に噛まれれば痛い。
 魔法で痛みは消えるかもしれないが、攻撃された瞬間は激しい苦痛を味わうのだ。

 ミリスとアレルは何度も苦痛を味わい、それでも俺の回復魔法で立ち上がっている。
 ある意味、これ以上凄惨な戦いがあるだろうか。

 そんな戦いを、俺とフロルは安全な場所――いや、ここだって安全ではないが、離れた場所で援護しているのだ。

「アレルっ!」

 フロルが苦しげに言う。
 俺も、ギリっと歯を食いしばる。
 ミリスはまだしも、幼子が、舌っ足らずなあの子が、苦しい思いで戦っているのに、俺達はっ!

 だが、だからといって、俺が変わってやることはできない。
 俺やフロルでは、ヤツらの前に出た途端殺されてしまう。
 俺にできるのは、ひたすら2人が死なないために回復魔法を使い続け、フロルにできるのは少しでも2人が有利になるよう攻撃魔法を使うことだけだ。

 そんな戦いも終わりに近づいてきた。

 残るセルアレニは2体。
 一方、俺のMPももう残り5くらい。どちらかの回復魔法を、合計2回使うのが精一杯だ。

「フロル、お前のMPは?」
「あと、25くらいです」

 よし、『氷球弾』を2回使ってもまだあまる。

「正直、俺はもうMPがほとんどない。あと2回回復させるのが限界だ。その後は回復魔法も頼む」
「はい」

 フロルは『怪我回復』は使えない。
 傷そのものを治すことは不可能。それでも、あとは彼女に託すしかない。

 アレルが1匹のセルアレニの首を切り落とす。
 フロルがもう一方に『氷球弾』をたたき込む。

 どちらもそれだけでは死なないが、『氷球弾』を当てた方にミリスが追撃。
 首は切り落とせなくても、顔面や関節部ならば彼女の剣も効くらしい。

 首を切り落とされたセルアレニ達は、まだ抵抗。
 アレルとミリスを炎が包む。

 俺はすかさず、2人に『怪我回復』をかける。これで俺のMPは残り1。もう、回復魔法は使えない。
 フロルが首のないセルアレニに『氷球弾』でとどめ。

 そして。
 なんとかその場にいた10匹のセルアレニを俺達は倒したのだった。

 ---------------

 俺とフロルはアレルとミリスに駆け寄る。

「よくやったな、3人とも」

 笑うミリスだが、肩で息をしている。アレルも辛そうだ。

「フロル、2人に『体力回復』を。俺のMPはもうないから」
「はい」

 フロルが2人に回復魔法をかける。

「そうだっ! バーツとカイ!」

 アレルが思い出したように叫ぶ。
 そうだった。
 2人を助けなければなんのためにやってきたんだって話だ。

 俺達はさっき反応があったあたりを探す。
 だが、見つからない。
 どういうことだ?

 俺が困惑していると、アレルが地面を手で掘り始めた。
 なるほど。2次元で探して見つからないなら、地中か。

 はたして、地面を30cmほど掘り進めると、2人を発見できた。
 よかった。2人とも、気を失っているが息はしている。

「ごちゅじんちゃま、2人は大丈夫?」

 俺は頷いて、フロルに言う。

「フロル、『解毒』と『体力回復』を頼む」
「ですが、そうすると、私のMPもなくなっちゃいますが」

 帰り道で俺だけでなくフロルも足手まといになるってことか。
 いや、だが、気絶した2人を背負うなりして運ぶのも、それはそれでリスクだ。

 ちなみに、『無限収納』には生き物は入れられない。近所の猫で一度試したが無理だったのだから、人を運ぶのには使えないだろう。

 さて、どうするか。
 迷う俺達。

 だが。

 次の瞬間だった。
 ミリスが叫ぶ。

「アレル、危ない!」

 ミリスがアレルを庇うように立つ。そのミリスの左肩に、直径10cmはあろうかという巨大な針が刺さっていた。

 なんだ!?

 慌てて、針が飛んできた方をみる俺達。
 そこには……

「まいったな、親玉がいたのか」

 全長15メートルはあろうかという巨大なセルアレニが姿を現わしたのだった。
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七草裕也の小説

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