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第五章 魔の森の戦い
7.セルアレニの巣へ
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ライト達と別れ、俺と双子、そしてミリスはセルアレニの巣を探すことになった。
マルロが朧気に覚えていた逃げてきた方向、そちらに向かいながら時々『地域察知』で人の気配を探る。
モンスターの出る中、神経を使うが他に方法がない。マルロの足跡を追うということも考えたし、実際数メートルはそれもしたのだが、すぐに岩場になってしまった。
「さっきのことなんですけど」
俺はミリスに言う。
「なんだ?」
「冷静に考えてみたら、ミリスさんの脇差しをアレルに渡してもよかったんじゃないですか」
ライトがアレルに渡した剣はショートソード。ミリスがライトに渡した脇差しも似たようなものだ。いや、戦士にとっては使い勝手が違うのかもしれないが、ライト達が無事町までたどり着けるかまで考えればその方がよかった気もする。
「魔法使いのお前やフロルには分かりにくいかもしれないが、戦士が自分の剣を相手に託すというのは、それ自体に大きな意味がある」
ミリスはそれ以上説明しなかったが、なんとなく分かる。
自分の想いや使命や願いを相手に託すということなのだろう。あるいは無類の信頼も意味するのかもしれない。
ライトはアレルを信頼して仲間の救助を託し、ミリスはライトを信頼してマルロの護衛と町への情報提供を託した。そういうことか。ライトやアレルがどこまでそれを意識していたかは分からないが。
俺がなんとなく納得したときだった。
地図上に反応が見つかる。
「ミリスさん。西に200メルのあたり。2人分の反応があります」
「わかった」
2人はまだ生きている。だからこそ、反応がある。
もちろん、全く関係ない人間という可能性も0ではないが、今はその考慮をしてもしかたがない。
俺達はさらに魔の森を進むのだった。
---------------
変だな。
俺は気がつく。
先ほどからモンスターが出ない。
もちろん、ありがたいことだが、妙だ。
「セルアレニの巣のそばには、モンスターもいたくないのだろうさ」
ミリスが言う。
そういうことか。
2人の反応まであと少し。
セルアレニが他のモンスターも喰うとしたら、確かにそういうことだろう。
「ショート、フロル、君達のMPはどうなんだ?」
俺のMPは、すでにかなり心許ない。
戦闘だけでなく、何度も『地域察知』を使っている。
俺は自分の冒険者カードをを確認する。フロルもだ。
思念モニタ上のステータス表示では最大値は分かっても、現在値はわからない。
「俺はあと18ですね」
「私は残り48」
もともと最大MPに差がある上に、フロルは戦闘以外でMPを使っていないからな。
まずいな。MPがなくなったら俺はライト以上に足手まといだ。
「魔石はあるんですけどね」
奴隷契約書に使われていた魔石を無限収納から取り出す。無限収納から出し入れすること自体MPを少し使うが、貴重なものをポケットやリュックに入れてモンスターと戦ったのではいつ落としてしまうか分からない。
「ならば、回復できるだけ回復しておけ」
「はい」
魔石を使ってMPを回復する方法はブライアンに習っている。
難しくはない。魔石を頭に当てて祈るだけだ。すると魔石が光り出して、現在MPが増えていく。
この魔石、どのくらいもつのか。
とりあえず、俺のMPを60まで回復させて、フロルに渡す。フロルも同じくMPを回復させていき、80まで回復。そこで魔石の魔力は切れた。
「回復魔法はいりますか?」
俺とフロルのHPはほとんど減っていない。モンスターと直接対決していないから、せいぜいずっと歩いて疲れた分、2~3くらい減っているだけだ。
だが、ミリスとアレルはずっと戦いっぱなし。2人とも泥だらけなだけでなく、血まみれ。血はモンスターの返り血だと思うが。
「私は大丈夫だ。アレルは?」
「アレルもだいじょうぶ……」
言いかけたアレルは、しかしすぐに訂正した。
「……やっぱり、HPだけちょっとしんぱい」
アレルの冒険者カードのステータス欄を見る。
===========
HP:80/140 MP:20/20 力:120 素早さ:152
===========
いや、ちょっと待って。
MP以外のステータス、魔の森の外で見たときと違わない?
ミリスもアレルの冒険者カードを覗き見て驚いている。
これも勇者の因子のなせる技か。実戦でさらにアレルは力を付けたらしい。
HPについて本人が煮え切らなかったのは、元々の最大値近くはあるが、現在の最大値からすると減っているので判断に困ったということだろう。
ともあれ、フロルがアレルに『体力回復』をかけてやる。アレルのHPが122まで回復し、フロルのMPは78になった。
アレルの規格外っぷりをあらためて認識した俺とミリス。
「少しはセルアレニへの勝算が上がったかもしれないな。私はもうアレルに勝てなさそうだが」
ミリスはそう言って苦笑したのだった。
「さて、行くぞ。できるだけ気配を消せ」
そう言われても、俺やフロルにできるのは足音を減らすことくらいだ。
あるいは、ミリスやアレルはもっと別のことができるのかもしれないが。
いずれにせよ――
俺達4人はセルアレニの巣にたどり着いたのだった。
マルロが朧気に覚えていた逃げてきた方向、そちらに向かいながら時々『地域察知』で人の気配を探る。
モンスターの出る中、神経を使うが他に方法がない。マルロの足跡を追うということも考えたし、実際数メートルはそれもしたのだが、すぐに岩場になってしまった。
「さっきのことなんですけど」
俺はミリスに言う。
「なんだ?」
「冷静に考えてみたら、ミリスさんの脇差しをアレルに渡してもよかったんじゃないですか」
ライトがアレルに渡した剣はショートソード。ミリスがライトに渡した脇差しも似たようなものだ。いや、戦士にとっては使い勝手が違うのかもしれないが、ライト達が無事町までたどり着けるかまで考えればその方がよかった気もする。
「魔法使いのお前やフロルには分かりにくいかもしれないが、戦士が自分の剣を相手に託すというのは、それ自体に大きな意味がある」
ミリスはそれ以上説明しなかったが、なんとなく分かる。
自分の想いや使命や願いを相手に託すということなのだろう。あるいは無類の信頼も意味するのかもしれない。
ライトはアレルを信頼して仲間の救助を託し、ミリスはライトを信頼してマルロの護衛と町への情報提供を託した。そういうことか。ライトやアレルがどこまでそれを意識していたかは分からないが。
俺がなんとなく納得したときだった。
地図上に反応が見つかる。
「ミリスさん。西に200メルのあたり。2人分の反応があります」
「わかった」
2人はまだ生きている。だからこそ、反応がある。
もちろん、全く関係ない人間という可能性も0ではないが、今はその考慮をしてもしかたがない。
俺達はさらに魔の森を進むのだった。
---------------
変だな。
俺は気がつく。
先ほどからモンスターが出ない。
もちろん、ありがたいことだが、妙だ。
「セルアレニの巣のそばには、モンスターもいたくないのだろうさ」
ミリスが言う。
そういうことか。
2人の反応まであと少し。
セルアレニが他のモンスターも喰うとしたら、確かにそういうことだろう。
「ショート、フロル、君達のMPはどうなんだ?」
俺のMPは、すでにかなり心許ない。
戦闘だけでなく、何度も『地域察知』を使っている。
俺は自分の冒険者カードをを確認する。フロルもだ。
思念モニタ上のステータス表示では最大値は分かっても、現在値はわからない。
「俺はあと18ですね」
「私は残り48」
もともと最大MPに差がある上に、フロルは戦闘以外でMPを使っていないからな。
まずいな。MPがなくなったら俺はライト以上に足手まといだ。
「魔石はあるんですけどね」
奴隷契約書に使われていた魔石を無限収納から取り出す。無限収納から出し入れすること自体MPを少し使うが、貴重なものをポケットやリュックに入れてモンスターと戦ったのではいつ落としてしまうか分からない。
「ならば、回復できるだけ回復しておけ」
「はい」
魔石を使ってMPを回復する方法はブライアンに習っている。
難しくはない。魔石を頭に当てて祈るだけだ。すると魔石が光り出して、現在MPが増えていく。
この魔石、どのくらいもつのか。
とりあえず、俺のMPを60まで回復させて、フロルに渡す。フロルも同じくMPを回復させていき、80まで回復。そこで魔石の魔力は切れた。
「回復魔法はいりますか?」
俺とフロルのHPはほとんど減っていない。モンスターと直接対決していないから、せいぜいずっと歩いて疲れた分、2~3くらい減っているだけだ。
だが、ミリスとアレルはずっと戦いっぱなし。2人とも泥だらけなだけでなく、血まみれ。血はモンスターの返り血だと思うが。
「私は大丈夫だ。アレルは?」
「アレルもだいじょうぶ……」
言いかけたアレルは、しかしすぐに訂正した。
「……やっぱり、HPだけちょっとしんぱい」
アレルの冒険者カードのステータス欄を見る。
===========
HP:80/140 MP:20/20 力:120 素早さ:152
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いや、ちょっと待って。
MP以外のステータス、魔の森の外で見たときと違わない?
ミリスもアレルの冒険者カードを覗き見て驚いている。
これも勇者の因子のなせる技か。実戦でさらにアレルは力を付けたらしい。
HPについて本人が煮え切らなかったのは、元々の最大値近くはあるが、現在の最大値からすると減っているので判断に困ったということだろう。
ともあれ、フロルがアレルに『体力回復』をかけてやる。アレルのHPが122まで回復し、フロルのMPは78になった。
アレルの規格外っぷりをあらためて認識した俺とミリス。
「少しはセルアレニへの勝算が上がったかもしれないな。私はもうアレルに勝てなさそうだが」
ミリスはそう言って苦笑したのだった。
「さて、行くぞ。できるだけ気配を消せ」
そう言われても、俺やフロルにできるのは足音を減らすことくらいだ。
あるいは、ミリスやアレルはもっと別のことができるのかもしれないが。
いずれにせよ――
俺達4人はセルアレニの巣にたどり着いたのだった。
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