異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第三章 剣術修行と勇者の因子

7.得意不得意みんなある

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 ライトが食堂から出て行った後。
 フロルが心細げな声で俺に言った。

「あの、ご主人様」
「うん? なんだい、フロル?」

 なんだか深刻な悩みでもあるっぽい表情だ。
 そういえば彼女、食事中もずっと黙っていた。
 いや、それをいうならば、もっと前――そう、アレルとゴルの模擬戦の後から、言葉少なげだった。

「私、ご主人様のお役に立てるんでしょうか」

 へ?

「私にはどうがんばってもアレルみたいな剣術は覚えられそうもありません」

 確かにそうかもしれないが、それはアレルの方が異常なだけだ。
 だが、フロルにとっては大変な悩みだったらしい。
 今にも泣き出しそうな顔である。

「フロル、なにもアレルと同じようにできる必要は無いだろう? 剣術なら俺もダメダメだったしさ」
「……でも、ご主人様は魔法が使えますし。私は何もできない」

 どうやら、さっきのアレルのチートっぷりに1番ショックを受けたのは彼女だったらしい。

「フロル。君が何もできないなんてことはないよ」
「でも……」
「そうだな、たとえば薬草を見つけるのはフロルが1番上手いだろう?」
「……そうですけど」
「それに、洗濯だって、フロルが1番上手い」

 情けない話だが、ここ数日俺とアレルの服もフロルが洗濯してくれている。
 実はフロルはゴボダラのヤツに家事を一通り仕込まれていたらしく、とても助かっているのだ。
 いや、この世界洗濯機がないので洗濯板で洗うんだけどさ。俺だってできないわけじゃないけど、フロルの方がずっと手早いのだ。

「だけど、ご主人様は私たちと冒険者になりたいんですよね。だったら、戦う力が必要です」

 冒険者に必要なのは戦う力だけではないだろう。洗濯も料理も薬草探しも冒険者には必要な力だ。
 それに……

「フロル、君が得意なことは他にもあると思うよ」
「……?」

 実は、俺はフロルにはもっと別の能力があるだろうと見当を付けていた。
 それが正しいかどうかはギルドで調べれば……いや、シルシルに聞いた方がいいかもしれないな。

「2人とも、ちょっとつきあってくれないか?」

 俺は再び教会に向かうことにしたのだった。

 ---------------

「いえーい、三度みたび登場、シルシルちゃんじゃ」

 教会の一般礼拝室にて。
 俺が祈ると幼女神様がVサインをしながら現れた。
 ちなみに、今回は壮大なパイプオルガンのような音楽付。

「ふむ、どうやら冒険者登録は終わったようじゃな」
「ああ、終わったよ」
「どうじゃ、上手いことやっているか?」
「まあまあかな」
「ふんふん、アレルの方は勇者の因子が少しだけ芽生えたようじゃな」

 どうやら、シルシルは常に俺達の行動を見ているわけではないようだ。
 おそらくは、呼び出した瞬間の俺達のステータスや持ち物だけが分かるといったところか。

「そのことで聞きたいことがある」
「ふむ、何でも尋ねるがよいぞ。なにしろワシは全知全能の神様じゃからな」

 お金を送ることもできないのに全知全能なのかよ!
 内心ツッコミを入れつつ、俺は尋ねる。

「勇者の因子だけど、アレルは剣術の才能がすごかった。だが、フロルはそうでもないらしい。ステータス的にはフロルはMPが高いが、魔法は覚えていない。2人の勇者の因子に違いがあるのか?」

 俺の問いに、シルシルは「ふむぅ」と首をひねる。

「そうじゃのう。本来、勇者とは文武両道、剣術も魔法も他の武術も何もかも超天才的。さらに頭脳明晰なパーフェクト能力者じゃ」
「……なんか、友達になりたくねーな……」
「じゃが、今回は双子じゃからのう。もしかすると勇者の因子が分かれてしまったのかもしれないのう」

 やっぱりか。俺は自分の考えの正しさを確信する。

「つまり?」
「アレルは剣術や武術の天才、フロルは頭脳と魔法の天才ということじゃな。フロルが魔法を覚えていないのは、未契約だからというだけじゃ」

 そういうことだろうな。

「魔法の契約っていうのは?」
「冒険者ギルドでできるぞ。詳しくはギルドで習えば良い。お主に最初に渡した魔法は、サービスみたいなもんじゃ」

 ふむ。となると問題は……

「だけどなぁ。魔法って高いんだよなぁ」

 魔法を1つ覚える――おそらく、契約する――ために、銀貨一枚以上かかる。

「じゃから、それはお主が最初に無駄遣いをしたからじゃろう。自業自得じゃ」

 うう。それを言われるとつらい。

「とはいっても、魔法を全く習えないほど金がないわけでもあるまい?」

 確かに、まだ大判金貨3枚以上は丸々残っている。

「ならば、初級の魔法だけでも覚えてみてはどうじゃ? 魔法を覚えれば稼ぎの幅も広がるじゃろうて」

 うーむ。
 確かにその方がいいのかな。
 そうだな。
 魔法をちゃんと習うべきだ。
 あのクソ面倒くさいコマンド入力も、もしかすると早くやる方法があるかもしれないし。
 なにより、フロルの落ち込みを回復するためには、魔法を覚えさせるのが1番手っ取り早いだろう。

「わかった。そうしてみる」
「ふむ。ではまた何かあったら遠慮なく呼び出すのじゃぞ!」

 シルシルはそう言って、消えたのだった。
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七草裕也の小説

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