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第三章 剣術修行と勇者の因子

3.模擬戦をしよう

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 向かい合って立つゴルとアレル。
 大人と子どもどころか、熊と子猫くらい体格差がある。

 その中央に立つミリスが審判役。

「どちらかが戦闘不能になるか、降参するか、あるいは私が止めたら試合終了だ。いいな2人とも」
「おう。いいぜ」
「うん、わかったー」

 ミリスの説明におのおの自分の言葉で頷く、ゴルとアレル。
 アレル、本当に分かっているのか?

 ちなみに、俺とフロル、それにライトは道場の端ですわって鑑賞中。
 ライトが心配げに俺に言う。

「おい、あいつ大丈夫なのか?」
「ミリスさんがOKだっていうんだからしょうがないだろ」
「そりゃあ、そうだけどさぁ……」

 言いたいことは分かる。彼以上に俺自身心配でしょうがない。
 フロルも同じらしく。

「ご主人様、正直私も心配です」
「うん。まあな」

 俺もミリスのことは信じているが、ゴルのことは信じていない。
 いざとなったら回復魔法を使えば大丈夫だと思うが……

 俺達の心配をよそに、ミリスが叫ぶ。

「それでは双方構えて!」

 ゴルが木刀を振り上げる。一方、アレルは特に構えていない。自然体といえばその通りなのかもしれないが、あれは本当に何も分かっていないんじゃ……

「はじめ!」

 ミリスの宣言と共に、ゴルがアレルに向かって木刀を振り下ろす。

 ライトが鋭く言う。

「アイツ、本気でっ」

 ゴルの木刀が勢いよくアレルに襲いかかり、あわれ幼子が叩き潰される……と、俺も、そしておそらくフロルもライトも思った。

 だが、次の瞬間。

 アレルがその場から飛び退く。

 ――へ?

 ゴルの木刀はくうを斬ったのみ。

「このガキっ!」

 ゴルの額に青筋が浮かび、こんどは木刀を右から左へと薙ぐ。

 だが。
 アレルはその攻撃も、後ろに飛び退いてギリギリかわす。

 おいおい。どうなっているんだ?

「このぉ、ちょこまかとぉぉぉぉ」

 ゴルは叫び、アレルに対して木刀の先を次々に突出す。
 だが、その悉くを見切ってかわすアレル。

 いやいやいや、嘘でしょ!?

 ライトが俺に言う。

「お、おい、あのガキ、あんなに素早かったのか!?」
「い、いや、そんなはずは……フロル、アレルってあんなことできたのか?」

 俺も唖然となりながらフロルに尋ねるが。
 彼女も驚いた顔で首を横に振って否定する。

 全く攻撃を当てられないゴルはいよいよ怒髪天を衝くがごとく勢いで、アレルを攻撃する。だが、全てアレルはかわしてみせる。

 さすがにそのまま攻撃を続けても無駄と悟ったのか、ゴルはアレルからいったん距離を取った。

「はぁ、はぁ、はぁ。なんなんだよ、テメーは!?」

 荒い息でいうゴルに、アレルは無邪気に答える。

「アレルはねー、アレルだよぉー」

 そのアレルの言葉はあまりにもいつも通りで。

「くそっ!!」

 ゴルはついに木刀を、アレルに向かって投げつけた!
 おい。いくらなんでもそれはダメだろ!

 だが。

 アレルはその反則とも言える攻撃を、自らの木刀で弾き飛ばした!

「……っ!」

 ゴルは放心状態。というか、アレル以外みんな放心状態だ。

「ねぇ、次はアレルがこーげきしてもいい?」

 アレルは言って、木刀を振りかぶった。

 って、いくら何でも相手との間合いがありすぎるだろ。当たるわけがない。
 事実、アレルの木刀はゴルには届かなかった。

 だが。

 アレルが木刀を振り抜くとビュンっという音がした。
 そして、次の瞬間!

「ぐわぁぁぁ」

 ゴルが衝撃波に当たったかのごとく、道場の壁まで吹っ飛んだのだった。
 彼はその場で目を回していた。

 ---------------

「おい、なんだよ、今の」
「さぁ」

 引きつった顔のライトに、同じく引きつった顔のまま言う俺。
 誰もが呆然としていた。俺も、ライトも、フロルも、ミリスも。

 そんな中、冷静だったのは当のアレルだけ。

「ねー、これ、アレルのかちぃ?」

 その言葉に、ミリスがハッとなって言う。

「しょ、勝負ありっ! 勝者アレル!!」

 その宣言に、アレルが飛び上がる。

「やったぁー、かったぁー」

 ピョンピョン喜びながら、俺達の方に駆け寄ってくるアレル。

「ごちゅじんちゃまぁ、アレルかったよぉー、すごいぃ?」
「あ、ああ、すごいぞ。すごいけど……」

 なんか、凄さの質が違うような気がするんだが。
 フロルも呆然とアレルを見る。

「アレル……あなた……」

 だが、アレルはすまし顔。

「ふにゃ? 二人ともどーちたの?」

 ……いや、『どーちたの?』じゃないだろう。
 未だ茫然自失の俺とフロル。一方ライトがポツリと言うのだった。

「っていうか、ゴルのオッサン大丈夫かな?」

 ライトのその声は、なぜだかやたら間抜けに道場の中に響くのであった。
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