異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

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第二章 冒険者登録と初めての冒険

1.冒険者登録をしよう

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 双子と出会った次の日。
 俺はシルシルの言葉に従って、早速冒険者登録をすることにした。

 宿の主人に尋ねたところ、冒険者登録は『冒険者ギルド』とよばれる場所で行えるらしい。
 ギルドは宿からほど近い場所にあり、俺は双子を連れて向かうことにする。
 ちなみに宿代のお釣りの残りはまだ受け取っていない。両替所が開くのはお昼頃らしく、今はまだ早朝である。

 ……ふと冷静になって。
 これじゃあまるで俺がシルシルの奴隷みたいだなという気もする。
 だが、元の世界での蘇生がかかっているし、今のところ他に道はない。

 冒険者ギルドは教会ほどではないにしろ、それなりに大きな建物だった。
 なんとなく緊張してしまう。失敗した50社の就職面接が頭に浮かぶ。
 本当に無事登録できるのだろうか。
 そもそも、こんなちびっ子と素人である。テストでもあったらまず間違いなく受からないだろう。

「さて、行くか」

 俺は自分に気合いを入れるように言った。

「はい。ご主人様」

 フロルが頷く。昨晩の妙な誤解を解いてから、彼女もずいぶん俺に懐いてくれたみたいだ。

 俺はギルドの入り口の扉を開く。

「失礼します」

 ギルドの中に入ると、いかにも冒険者だといわんばかりの筋肉隆々で鎧姿の男が、こちらをジロっと睨んだ。
 男の他には、受付らしきテーブルの向こうに女性が2人。
 早朝だからか、他には誰も居ない。

「なんだ、お前?」

 男が俺を睨んだまま尋ねてくる。
 正直怖い。喧嘩したら絶対に勝てそうもない。

 いや、ここで俺がビビってどうする。
 俺がビビれば双子も怖がるだろう。
 しっかりしろ、俺。

「すみません、冒険者登録したいんですが……」

 うう、気合いを入れたつもりなのに、やっぱり声に自信なさげな雰囲気が漂ってしまった。

「あん? 兄ちゃんが冒険者登録?」

 男は小馬鹿にした声を俺に浴びせかける。

「はい。あ、俺だけじゃなくて、こっちの2人も」

 俺が双子を示しながら言うと、男はおかしくてたまらないとばかりに笑い出す。

「おいおい、兄ちゃん。ここはお遊戯所じゃないんだぜ」

 うーん、なんつうか、ラノベだったら典型的なやられ役っぽいセリフである。
 問題は俺や双子には彼をやっつけることができそうもないことだが。

 案の定、アレルは俺の後ろに隠れるようにして怯えてしまった。
 だが、フロルの方は。

「ご主人様になにか文句があるの? この筋肉ダルマ」

 男に向かってそんな言葉を吐き出す。

「こら、フロルっ、やめなさい」

 まさか、彼女がいきなり男に喧嘩を売るとは思わず、慌てて止める俺。
 この時初めて、俺は彼女が、実は強気な性格で毒舌家だと知ったのだった。

「ごめんなさい。ご主人様」

 俺が止めると、彼女は素直に身を引いた。
 奴隷契約書の効果なのか、それとも彼女自身の判断なのか、微妙に分からない。

 ともあれ、男の方もフロルと同じくらい短気らしい。

「このガキ。言わせておけばいい気になりやがって」

 頭から湯気を出さんばかりにいきり立つ男。

 こんな初っぱなで先輩冒険者と喧嘩をしたくはない。
 俺は慌てて謝罪の言葉を口にする。

「すみません、なにぶん子どもの言うことですから……」
「そもそも子どもを冒険者ギルドに連れ込むなと言っているんだ」
「はぁ……」

 まいったなぁ、これは。
 俺が元の世界で蘇生するためにも、そして双子のこれからのためにも、冒険者登録できないと困るのだが。

 一触即発になりかけた俺達に、受付の女性の1人――年配の方が声をかける。

「そこまでにしておきな、ゴル」

 どうやら、男の名前はゴルと言うらしい。

「ギルド内での争いは厳禁。冒険者の基本ルールを忘れたわけじゃあるまい。それに子ども相手に大人げないよ」

 女性の言葉に、男――ゴルは「ちっ」と舌打ちし、しかし、それで身を引いてくれた。
 ホッとする俺に、女性は言う。

「あんたも、無用な争いは勘弁してよ。子どももちゃんと教育しておきな」

 確かに今のはフロルも悪い。
 フロルが悪いということは、保護者の俺が悪いということだ。

「はい、すみませんでした」

 俺は素直に頭を下げたのだった。

「で、冒険者登録だね。ミレヌ、案内してやりな」

 年配の女性が若い受付嬢――ミレヌに言う。

「はい。じゃあ、3人とも、こちらへどうぞ」

 ミレヌに案内され、俺達3人は奥の小部屋へと向かうのであった。

 ---------------

 案内されたのは小さな小部屋。就職面接でも始まるのではないかという雰囲気の場所だった。
 部屋には机と椅子がある。俺達はミレヌと向かい合って席に着いた
 実際、これから冒険者登録をするという意味では、面接に近いのかもしれない。
 そんななか、目立つのは教会でも見た偶像。もっとも教会で見た偶像は等身大だったのに対して、全長20cmくらいのものが机の上に鎮座しているのだが。

「では改めまして。私は冒険者ギルド受付係の1人、ミレヌと申します」
「俺はショート・アカドリといいます。こっちの2人は……」

 俺が紹介しようとすると、双子は自分から名乗った。

「私はフロルです」
「アレルはねー、アレルっていうのー」

 ミレヌは頷くと、さらに続けた。

「冒険者登録をされたいということですが、あなた方は冒険者とはどのようなものかご存知ですか?」

 シルシルから最低限の説明は受けたが、正直よく分かっていないというのが本音だ。

「ダンジョン探索をして、魔石を集める仕事だと聞きました」
「その通りです」
「それで、登録はできるんでしょうか。その、テストとか料金とか……」
「冒険者登録そのものにはテストはありません。料金もかかりません。年齢制限もありませんから3人ともすぐに登録できます。
 ……登録だけならですけど」

 ミレヌは少し含みのある言い方をした。

「どういう意味でしょうか?」

 尋ねた俺に、ミレヌによる冒険者の基本的知識の解説が始まるのだった。
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