異世界で双子の勇者の保護者になりました

ななくさ ゆう

文字の大きさ
上 下
2 / 94
プロローグ

2.幼女な神様シルシル

しおりを挟む
 俺が目を覚ますと、そこは見たことがない部屋の中だった。
 四畳くらいの部屋の中にはテレビとタンスがある。

 だが、一番印象的なのは目の前にいる存在だ。
 なんと、羽の生えた幼女が宙に浮いていた。
 彼女は俺を指さし大いばりで言った。

「おう、やっと起きたか! あかどりしよう

 わけがわからない。

「……えっと、なにがどうなっているんだ? ここはどこ? お前は誰?」

 俺の問いに、幼女は答える。

「ふむ、ここは輪廻の間じゃ。そして、ワシはシルシル。分かりやすくいうと神様じゃ」

 ずいぶんと年寄り臭いしゃべり方をする幼女だ。
 それにしても、質問に答えてもらっても、やっぱりわけがわからなかった。

「えっと……どういうこと?」
「むむむ、物わかりの悪いやつじゃな。それとも記憶がおかしくなっておるのか? ほれ、最後の記憶を思い出してみろ」

 ふむ。
 最後の記憶。

 えーっと。
 そうだ。
 あれは50社目の就職面接の直後のことで……

 俺は記憶の糸をたぐり寄せた。

 ---------------

 またダメだったか……

 俺はため息交じりに道ばたに座り込んだ。
 半年前に就職活動用に作ったリクルートスーツのズボンが汚れてしまうが、そんなことを考える気力もわかない。
 ほんの数分前まで、俺は近くにある某会社の面接を受けていた。
 結果は後日郵送でとのことだったが、考えるまでもなく不採用だろう。
 なにしろ、俺の両隣の兄ちゃん、姉ちゃんには面接官がいくつも質問していたのに、俺への質問は一つだけ。

「あなたのお父様は、現在強盗殺人罪で服役中ですよね?」

 ……分かっている。
 父のしでかしたことは、確かに許されることではない。
 被害者遺族に対しては息子として申し訳ないと思う。

 だが。
 父が事件を起こしたのは俺が赤ん坊の時のことだ。
 にもかかわらず、俺は幼い頃から『殺人犯の息子』という十字架を背負って生きてきた。

 小学校では当然のように虐められた。
 学校内で給食費の窃盗事件があったときは、なんの根拠もなく俺が犯人扱いされた。
 友達からだけでなく、担任の教師からもだ。

 それでも、俺は品行方正に生きてきたつもりだ。
 母は世間の白い目に耐えながら俺を育ててくれた。
 母に迷惑はかけられない。
 高校を卒業したら仕事に就いて、これまでの恩返しがしたい。

 ずっと、そう思って、だからこうして会社を回っている。

 今日の会社ですでに50社不採用。
 むろん、全てが父の事件のせいだとはいわない。
 俺自身の力不足もあるだろう。

 だが。
 それでも。

 やっぱり、殺人犯の息子は真っ当には生きられないのかな……

 そんな風に思ってしまう自分がいることも事実だった。

 ---------------

 俺が本日30回目のため息をついたころのことだった。

 車道に黄色いゴムボールが転がるのが見えた。
 そして、そのゴムボールを追いかけて、3歳くらいの男の子が車道に飛び出す。

 おいおい、まずいだろ……

 彼が飛び出した場所は横断歩道じゃない。
 車も結構走っている。
 幼児が車道に飛び出すのは危険極まりない。

 母親は?

 少し離れたところで他の奥様方と談笑中。

 そこまで俺が認識した次の瞬間。

 男の子の方に向かってくるトラックが現れる。
 運転手も気づいたのか、あたりにクラクションが鳴り響く。
 一瞬遅れて母親の悲鳴。
 男の子は事態が理解できているのかいないのか、ポケーッとした顔で自分に突っ込んで来たトラックを眺めている。

 俺は……

 たぶん、この時俺にはいくつか選択肢があったはずで。
 見ず知らずの男の子を助ける義理なんてなかったかもしれない。

 それでも。
 自然と体は動いていた。

 俺は男の子に駆寄り――

 ――彼を突き飛ばして助けた後、背中に大きな衝撃を受けて空中を舞った。

 あ、これ死んだかな? 母さん、ごめんよ……

 地面に激突する寸前、俺は何故だか妙に冷静にそんなことを考えたのであった。

 ---------------

 そうだ。
 そうだった。
 俺はあの男の子を庇って、トラックにひかれたのだ。

 ということは、ここは……

「ここ、病院、じゃないよな?」
「じゃから、ここは輪廻の間だと説明しただろうに」

 ふむ。
 リンネ……輪廻……確か、生まれ変わりとか、そういう意味だったか?

「えっと、つまり、俺は死んだ?」
「ふむ、だんだん分かってきたようじゃな」

 幼女――シルシルは満足げに頷く。

「もっとも、おぬしはまだ死んではおらん。死ぬ直前じゃ。ま、このままなら死ぬがの」

 シルシルの態度はやたら軽いが、俺にとってはなかなかにショッキングな話である。

「じゃが、朱鳥翔斗、おぬしは運が良い。自らの命を投げ出してまで幼子を助けるという人の良さに免じて、蘇生のチャンスが与えられることになったのじゃ! やったのっ!」

 シルシルがバンザーイをすると共に、どこからか鳴り響くファンファーレ。

 生き返るチャンス、ねぇ。

「そりゃあ、ありがたいことだけどさ」
「なんじゃ? 気乗りせんのか?」
「いや、もちろん、俺だって死にたいわけじゃないよ。だけど、さ……」

 正直なところ、疲れていた。

 幼い頃から背負っていた『殺人犯の息子』という烙印。
 上手く行かない就職活動。

 死にたいと思っていたわけじゃない。
 だけど、生きるのに疲れていたからこそ、とっさに子どもを庇って死ぬなんていう行動ができたんじゃないかなとも思う。

「ふむぅ。煮え切らんのう……ならば、これを見てみてはどうじゃ?」

 シルシルはテレビを指さす。
 リモコンもないのに、彼女のその行動だけで画面に映像が表示された。

「……俺?」

 そこには頭や手足を包帯ぐるぐる巻きにされ、人工呼吸器をつけられた俺の姿が映されていた。

「ふむ、あの後おぬしは救急車で病院に運ばれたようじゃの。今も生死の境をさまよっておるぞ」

 そして、俺が横たわったベッドのそばには、泣き顔ですがりつく母の姿があった。

「母さん……」

 映像を見ながら、俺は思わず呟く。
 そうだ。
 俺が死んだら、母は一人きりになってしまう。
 そんなのダメだ。

「本当に、生き返れるのか?」
「ふむ。試練を乗り越えればの」

 試練。
 やはり、簡単な話ではないのだろうか。
 だが。

「わかった。試練でもなんでもうけてやる。だから生き返らせてくれ」
「そうこなくては、じゃなっ!」

 シルシルは満足げに頷いたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。

克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作 「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位 2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...