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俺たちの学園生活と初レース

第5話 保護者参観と憧れのヒーロー

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――三月。
 俺たちが入学して一年が経過しようとしていた。

 学園の今年度最後の授業の日。
 俺たちは相棒ドラゴンと共に第六グラウンドにいた。
 乱獅子先生とブルフも一緒だ。

「諸君、いよいよこの日が来た。今日、諸君はドラゴンライダーとしてレースに挑む」

 俺たち三人だけのレースだ。
 このグラウンドから飛び立ち、海を越える。
 遙か南の決龍けつりゆうとうという孤島がゴールだ。
 ブルフなら二時間、ガオたちなら半日程度でたどり着ける距離だ。

「あくまで授業の一環ではあるが、同時に諸君らの初レースでもある。諸君らの奮起を期待する。そこで、今日は諸君らの保護者各位にも観覧していただくこととなった」

 乱獅子先生がグラウンドの校門側を示した。
 そこには、懐かしい人たちがいた。

「竜太、久しぶりね」
「母ちゃん! それに山さんも!」

 にっこり笑った母ちゃんが俺に駆けよってきた。

「一年前より大人っぽくなって、ますます父ちゃんに似て、本当、立派になったわ」

 一年ぶりに再会した母ちゃんは俺をギュッとハグした。

「ちょっ、やめろよ、母ちゃん! 恥ずかしいよ」

 母ちゃんの胸はとっても温かい。でもやっぱり恥ずかしい。
 山さんが言う。

「まあ、そう言うな竜太。お前のお母さんはずっと心配していたんだから」
「学園から『元気だ』って知らせは毎月来ていたけどね。ドラゴンへの騎乗訓練が始まったって聞くと、やっぱり父ちゃんの事故を思いだしちゃってね」
「母ちゃんは今日、どうやって来たんだ?」
「もちろん、山寺さんのドラゴンに乗ってよ」
「ドラゴンに乗るの恐かったんじゃないのか?」
「私もちょっと勇気をだしてみたわ。やっぱりドラゴンで飛ぶのは気持ちいいわね」
「だろ? ドラゴンはサイコーだぜ」

 一方、龍矢の両親も彼のもとへとやってきた。
 龍矢の父親はとはつまり……

「龍矢、学園生活はどうだ?」
 そう言った彼は、世界チャンピオン高力昇龍。
 龍矢はピシッと背を伸ばして答える。

「はい。父さんの名に恥じぬよう精一杯励
はげんでいます」

 うわっ!?
 龍矢が敬語だ。
 しかもめっちゃ礼儀正しい。

「そうか。それは何よりだ」

 昇龍の横に立つ女性はたしか彼の妻だったはず。
 つまり龍矢の母親ってことだ。

「龍矢、病気や怪我はしていない?」
「はい」
「そう、それならよかったわ」

 うちの母ちゃんと違って随分と控えめな人だな。
 ミカの元にも一人の女性が近づいた。
 お母さんかな?

「ミカさん、あなたも健康に問題はありませんか?」
「はい。マザー、今日は来ていただきありがとうございます」

 うん?
 マザー?
 たしかに『母親』という意味だけど、自分の親にそんな言い方するか?

「あなたがドラゴンライダーになりたいから、学費を稼ぐとリューチューバーになった日を、昨日のように覚えていますよ。あなたはきっと、神に祝福された子なのでしょう」

 首を捻っている俺に、ミカが言った。

「あー、竜太たちは知らなかったっけ」

 それから、自分の生い立ちを話してくれた。

「私の両親って赤ちゃんの頃に亡くなってね。親戚もいなかったから児童養護施設で育ったのよ。マザーは施設の院長先生よ」

 俺と龍矢に、マザーはニッコリ。

「お友達の方々、ミカさんのことをよろしくお願いしますね」

 彼女はミカのことを自分の子どものように想っているようだ。
 俺は「はい」とうなずく。
 一方、昇龍が俺たちの方へやって来た。チャンピオンを目の前にして、俺はちょっと緊張してしまった。が、昇龍は気さくに言った。

「久しぶりだな、山さん」
「ああ久しいな、昇龍。十一年ぶりか?」

 え? 山さんと昇龍って知り合いなの!?
 戸惑う俺に山さんが説明してくれた。

「この学園で一緒に学んだ仲だよ。ま、俺はドラゴンライダーにはなれなかったがな」

 昇龍は俺をチラっと見て山さんにたずねた。

「ひょっとして、この子はお前の息子か? 結婚したとは聞いていないが」
「俺は今でも彼女もいねーよ。竜太は飛竜の息子だ」

 昇龍は目を細めて空を見上げた。

「そうか、懐かしいな」

 山さんも昇龍と同じように、上空を見た

「ああ、俺と飛竜とお前。結局お前だけが成功した」
「何を言うんだ。お前こそ会社を興して成功したじゃないか」
「小さな宅配会社だよ」
「俺には会社の経営などできんさ」
「かもな。お前は飛ぶことにかけては天才だが、金儲けの才能はなさそうだ」

 そう言って笑い合う二人。それから、昇龍が尋ねた。

「飛竜はどうしたんだ?」

 尋ねられ、山さんは言いよどんだ。
 代わりに俺が答えた。

「父は亡くなりました。俺が小学二年生のときに」

 山さんが父さんの事故を説明する。

「なんということだ」
「あの日の飛行は俺が止めるべきだった」
「なぜ知らせてくれなかったんだ? 葬儀にも出席したかったし、今からでも墓参りくらいはしたい」
「すまない。毎月のようにレースに出場しているお前に余計な気づかいをさせたくないと思ってなかなかな。何度か伝えようと思ったが、そのたびにお前は次の目標に向かって飛んでいた。そうこうしているうちに、伝えるタイミングを失った」
「そうか……」

 昇龍は黙想し、そして俺に言った。

「飛竜は最高のドラゴンマスターだった。ほんの少しの運でドラゴンライダーにはなれなかったが、父上のことを誇りに思いなさい」

 昇龍が絞り出すような声で俺に言ってくれた。
 俺は「はい」とうなずく。
 そんな俺と昇龍を見て、龍矢がなんとも言えない表情を浮かべていた。
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