神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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【番外編】それぞれの終わり

【番外編40】それぞれの終わり

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(リラ/一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 私の目の前で、パドが命を燃やしていた。
 かつて、お師匠様や教皇がしたように。
 パドが命を燃やしていた。

「パドォォォォ」

 私は泣き叫ぶ。

 こうなることは分かっていた。
 私がここに彼を連れてくれば。
 大神デオスからもらったルシフ――キダンを倒すための魔法。
 つまり、お師匠様と同じように命を燃やす魔法だ。

 パドの命が魔力となって荒れ狂う。
 私もまた、パドの魔力で吹き飛ぶ。

 ――このまま死んじゃおうか。

 一瞬そんな考えが浮かぶ。
 パドがいない世界で生き続けたいなんて思わない。

 だけど。

 ダメだ。
 生きることを諦めたらダメだ。

 お父さんはなぜ死んだ?
 お師匠様に何を習った?
 アル様から何を教わった?
 ミノルはどう生きようとしていた?

 パドは、どうして今命を燃やしている?

 パドは私にとって勇者だった。
 他の誰がそれを認めなくても。
 彼がいたから、今の私があるのだ。

 そう、私は生きなくちゃいけない。
 死んだらその全てが無駄になる。

 私は必死に体を動かす。
 龍の形態で飛ばなければ、『闇の女王』から出ることはできない。

 だが。

 だめだ、もう、私の体以上に龍の因子が悲鳴を上げている。

 このままキダンが滅びれば、闇の女王も失われる。
 そうなれば、2度と私は元の世界に戻れない。

 ――ダメなのかな。

 そう諦めかけたときだった。

 私の体をなにかが持ち上げた。

 ――え?

 見ると。

「龍のおさ様」

 私はドラゴン形態の龍の長の前足で掴まれていた。

「無事か、リラ」
「はい。でもなんで?」
「『闇の女王』から光が溢れ、崩壊しようとしていた。故に、お前達の脱出を手伝いに来た」
「ありがとうございます」

 私がお礼を言うと、龍の長は尋ねた。

「パドは?」
「彼は……彼は役目を果たしました」

 その言葉で、龍の長は何が起きたのか悟ったらしい。

「わかった。では我々は脱出するとしよう」
「はい」

 私は答えてもう1度だけ振り返る。
 パドとキダンの居る場所では、未だ彼の生命エネルギーが荒れ狂っていた。

 ---------------

「待ってっ」

 しばし、龍の長に掴まれたままだった私は、闇の世界から脱出する寸前に叫んだ。

「どうした? もはや時間がないぞ」
「あれっ!!」

 私が指さした先には。
 1人の女性が倒れていた。

「これは……『闇の女王』と同じ顔?」
「パドのお母さんよっ」
「なんと……」
「お願い、彼女も連れて行って」
「承知した」

 龍の長は、もうひとつの前足で、パドのお母さんを掴むと、闇の世界から飛び立つ。

 元の世界は、太陽が昇る時間で、とても眩しかった。
 私たちが脱出する後ろで、闇の女王の巨体が塵と消えつつあった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(バラヌ/一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

『闇』に追い詰められていた僕達。
 唯一付き添ってきてくれていた龍族は必死に戦っているし、カルディがさずけた浄化の魔法で対抗しているエルフや人族もいる。

 だけど。

『闇』の数が多い。

 ――何でだよ。
 ――なんで、僕には魔力が無いんだよっ!?

 幼い頃、虐められる度に何度も感じた悔しさを、今再び強く感じる。
 皆を助けたいのに。
 僕には何もできない。

 この暗い穴蔵のそこで震えているしかないのか。

「もう……ダメなのかな」

 ポツリとつぶやいた僕に、ジラが言う。

「信じろ、バラヌ」
「え?」
「パドとリラならきっとやってくれるさ」
「でもっ」

 目の前で、エルフのと人族とが『闇』に殺される。
 彼らはすぐさま『闇』として僕らを襲う。

 僕とジラ、それにお父さんの元へと『闇』の一体が襲いかかる。
 僕ら3人とカルディには対抗する手段がない。

 すると、お父さんが、僕とジラを岩陰に押し込んだ。

「2人とも、ここを動くな」
「お父さん!?」

 僕は思わず手を伸ばす。

 だが。

 お父さんは闇の前に飛び出すと叫んだ。

「こっちだっ!!」

『闇』はお父さんの姿を見ると、お父さんを追って行った。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(バズ/一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

『闇』に追われながら、あらためて俺は思う。
 俺はダメな父親だったなと。

 村を追われるパドを助けることができなかった。
 バラヌがエルフの里で辛い思いをしていたとき、彼の存在すら知らなかった。
 2人が王女と共に命がけの旅をしているときも、俺は何もできなかった。
『闇』に支配される世界で、俺の方が先に病気になって倒れた。
 今も、必死に世界を救おうとしているパドを手助けすることができない。
 サーラやミルディアに対してもひどい男だった。

 だが。
 だがせめて。
 この一瞬だけでもバラヌとジラを救ってみせる。
 俺のような親でも何かができると信じて。

「こっちだっ!!」

 叫んだ俺に、闇が襲いかかる。
『闇』の指が俺に伸び迫る。

 ――死ぬだろうな、俺は。

 そう思ったときだった。
 俺と『闇』との間に小さな影が立ち塞がった。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(カルディ/一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 あーあ、こういうの私のガラじゃないんだけどなぁ。

 バズと『闇』の間に立ち塞がりながら、私は思う。
 ほら、私ってさ、美少女神様がかわいいモンスターに転生したわけじゃん。
 だったら、もっとマスコット的なキャラとして活躍みたいなのあってもいいじゃない。

 それなのにさ。
 世界の命運とは全く無関係なこんなところで命張っちゃってさ。
 ゆーたんを助けるつもりだったのに、それもできないし。

 だけど。
 この8年間、ジラやバラヌやバズと一緒に暮らしてきたわけだからね。
 情っていうのはあるんだ。
 平たく言えば、『ここで3人を殺させたりはしないぞ』ってヤツ?

 この8年、私はこの世界の人々に魔法や工業製品の作り方を教えてきた。
 私には神様としてのチート知識があるからね。
 だけどさ。
 実際私自身には魔力はないわけよ。

 あのでっかい神様――大神デオスとかいうのが、私を転生させるときに魔力をくれなかったみたいでさぁ。
 だから、私自身には『闇』を倒す浄化の力はないんだ。

 ――基本的には。

 でもまあ、例外はあるんだよね。
 魔力はなくても最低限の生命エネルギーは与えられている。

 だったら、この『闇』くらいは私の生命エネルギーを魔力に変換してぶつけてやれば倒せるよ。
 もちろん、そんなことをしたらこのふもふもした命はなくなっちゃうけどね。
 ま、それはしょうがないかね。
 確かにこうなった原因は、私にあるわけだしさ。
 せいぜい、最後くらい、美少女神様の意地を見せてあげようじゃない。

 私は生命エネルギーを魔力に変え、『闇』へと解き放つ。

 ジラとバラヌが何かを叫んでいる。
 ああ、ごめん、もう聞こえないわ。
 2人とも元気でね。
 ゆーたん――パドくんにヨロ。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(ジラ/一人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 バズさんの前に躍り出たカルディの体が発光していた。
 あの時、アルって王女様がエインゼルの森林を護ったときと同じように。
 だから、俺にも理解できた。
 カルディのやつ、死ぬつもりだって。

 なんだかんだで、カルディとの付き合いも長い。
 あいつが神様かどうかなんて、今でもわからない。むしろここにいたっても疑っている。
 だけど、あいつは間違いなく俺を助けてくれた。

 パドが戻ってこれるようにラクルス村を発展させる手伝いをしてくれた。
『闇の女王』が現れたとき、俺とバズさんをエインゼルの森林へと導いてくれた。
 その後も、様々な技術や魔法を皆に教えてくれた。

 口調は軽いし、馬鹿みたいなことではしゃぐし、意味が分からないことも多かったけど、俺はカルディのことを仲間だと思っていた。
 その仲間が、俺達のために命を燃やしていた。

 ――そして。

 カルディがその命をもって1体の『闇』を倒しても、俺達のピンチは終わっていない。
 とりあえずバズさんは助かったけど、まだまだ『闇』も『闇の獣』も残っている。

「ちくしょうっ!! やられてたまるかよ!!」

 そう叫んだのが誰だったのか、もうわからない。
 それはたぶん、この場に生き残っている全員の思いだった。
 もしかすると、俺自身が叫んだかもしれない。

 その次の瞬間だった。

 その場の『闇』の動きが急におかしくなった。
 何やら苦しむようなそぶりを見せ、動かなくなり。

 そして――

 気がつくと『闇』も『闇の獣』もちり一つ残さず消えていた。
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七草裕也の小説
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