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第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第三章 神様、ちょっとチートがすぎませんか?
2.闇に墜ちた勇者
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かつて勇者と呼ばれた少年、キダン。
戦いの果て、青年となった彼は、初代国王として即位する。
だが、勇者としての才は、為政者としての才とイコールではない。
「それでも、最初の10年はそこそこ上手くやっていたと思うぜ」
国が興って最初の10年は、国王キダン自らが軍を率いて大陸を開拓した。
それには勇者としての力も多いに役立ったし、人々はキダンこそ理想の勇者であり国王であると称えた。
問題は開拓が一段落した後だ。
そこから先求められるのは安定的な政治である。
だが、キダンにはその方面の知識などなかった。
理想の勇者王はやがて、愚王と呼ばれ、いつしか暴君と呼ばれるようになっていた。
勇者としてのキダンの活躍も、20年も経つ頃には人々から忘れ去られ、次第に疎まれていくようになる。
「そういった話を聞くたびに、俺は鎮圧してやった。難しいことじゃない。軍に頼る必要もなかった。俺の力は王国軍全てを合わせたよりも強かったからな」
王国が誕生して30年余り。
キダンの周囲にはもはや味方はおらず、彼の子ども達すら彼と敵対してた。
だが、キダンを国王の座から引きずり下ろすことはできない。
何しろ、彼の怒りに触れて指先でちょっとつつかれるだけで、殺されてしまうのだ。
1000倍の力はそれほどに強力だった。
しかも、彼は様々な魔法が使える。
魔法の中には武力だけでなく、防諜役立つものも多かった。
少しでも国王キダンに逆らう者は、容赦なく粛正していった。
「正直、今思えばもう少し上手いやり方もあったと思うさ。だが、当時の俺には他にどうしたらいいか分からなかった。習おうにもすでに俺に教えてくれる者なんていなくなっていた」
そう呟くキダンは、少し寂しそうだ。
そして、人々は神に祈った。
キダンを倒す方法を授けてくれと。
大神はそれに答え、人々にある魔法を授けた。
「それが大陸中の人々の魔力を掛け合わせて、俺をこの世界に封印する魔法さ」
かくて、彼はこの海に封印さた。
そんな彼に近づいたのが『闇』――先ほどの犬の化け物だ。
「奴が欲したのは俺の魔力と知恵。それに復讐心ってところか」
キダンは『闇』の一つとなり、世界に滅びをまく存在になった。
一方、人族は歴史の書き換えをおこなった。
今日伝わる勇者伝説は、人々によって都合良く書き換えられたものである。
「どうだ、身勝手だろう? 神も人々も」
長い長い話の末を、キダンはそう結んだ。
「そうだね、身勝手だと思うよ」
僕は答える。
自分で1000倍の力を与えてキダンを利用するだけしておいて、最後は封印に加担した大神も、一度はとキダンをあがめておきながら最後は追い立てた人々も、身勝手だ。
だけどさっ。
「一番身勝手なのはお前だろ、キダン」
大体、自業自得なのだ。
国王として上手くやれないというなら、誰か他の者に国を譲ればいい。
それができないならば、政治に詳しい者の力を借りればいい。
にもかかわらず、キダンは神にもらった力で人々を押さえつけようとした。
本人は詳細に言わないが、大神によればかなりの虐殺行為もあったらしい。
「だいたい、そんなの500年前のことじゃないか。僕やアル様やリラやリリィや、今生きている人たちが何をしたって言うのさ!?」
キダンの――ルシフの暗躍のせいでどれだけの人が不幸になったか。
なすすべもなく『闇』に殺され、自らも『闇』と化した人々。
彼らに何の罪があったというのだろうか。
「過去の真実も知らず、脳天気に暮らしているヤツラをみるだけで腹が立つんだよっ!」
「そんな理由で、お前は世界を壊すって言うのか!?」
「ああ、そうだ。これは世界に対する復讐だからな」
そうか。
ならば。
「なら、僕はお前を止める!!」
僕は叫んで光の剣と漆黒の刃の魔法を発動する。
それをルシフに向かって構えた。
「そう、俺達は戦うしかない」
「残念だよ」
「最後の戦いは1対1になったな」
「お前がそう仕組んだんだろ?」
「まあな。正直、味方がいるパド、お前がうらやましくてな」
それは違う。
違うよ、キダン。
僕にだって味方ばかりじゃないさ。
君にだって味方はいたはずさ。
違いがあるとすれば。
僕は味方になってくれる人の手を握って、お前はその手を振り払ったというだけだ。
僕は弱いから。
1人じゃ不安だからさ。
「さあ、始めようか」
そういって、キダンは剣を抜いた。
僕は光の剣と漆黒の刃をあわせる。
犬の『闇』を倒したときと同じ。
光と闇の剣が僕の手のひらの中で僕の魔力を食らいつくさんとする。
「光と闇の剣か。確かにそれならば俺を殺すこともできるだろうな」
キダンはそういって身構え、次の瞬間。
――え?
キダンがあっという間に僕の目の前に現れ、その剣が僕の胸にむかって来た。
――早いっ!!
――ダメだ、避けられない!!
1000倍の力で振るわれた剣が、僕の体を薙ごうとしていた!
戦いの果て、青年となった彼は、初代国王として即位する。
だが、勇者としての才は、為政者としての才とイコールではない。
「それでも、最初の10年はそこそこ上手くやっていたと思うぜ」
国が興って最初の10年は、国王キダン自らが軍を率いて大陸を開拓した。
それには勇者としての力も多いに役立ったし、人々はキダンこそ理想の勇者であり国王であると称えた。
問題は開拓が一段落した後だ。
そこから先求められるのは安定的な政治である。
だが、キダンにはその方面の知識などなかった。
理想の勇者王はやがて、愚王と呼ばれ、いつしか暴君と呼ばれるようになっていた。
勇者としてのキダンの活躍も、20年も経つ頃には人々から忘れ去られ、次第に疎まれていくようになる。
「そういった話を聞くたびに、俺は鎮圧してやった。難しいことじゃない。軍に頼る必要もなかった。俺の力は王国軍全てを合わせたよりも強かったからな」
王国が誕生して30年余り。
キダンの周囲にはもはや味方はおらず、彼の子ども達すら彼と敵対してた。
だが、キダンを国王の座から引きずり下ろすことはできない。
何しろ、彼の怒りに触れて指先でちょっとつつかれるだけで、殺されてしまうのだ。
1000倍の力はそれほどに強力だった。
しかも、彼は様々な魔法が使える。
魔法の中には武力だけでなく、防諜役立つものも多かった。
少しでも国王キダンに逆らう者は、容赦なく粛正していった。
「正直、今思えばもう少し上手いやり方もあったと思うさ。だが、当時の俺には他にどうしたらいいか分からなかった。習おうにもすでに俺に教えてくれる者なんていなくなっていた」
そう呟くキダンは、少し寂しそうだ。
そして、人々は神に祈った。
キダンを倒す方法を授けてくれと。
大神はそれに答え、人々にある魔法を授けた。
「それが大陸中の人々の魔力を掛け合わせて、俺をこの世界に封印する魔法さ」
かくて、彼はこの海に封印さた。
そんな彼に近づいたのが『闇』――先ほどの犬の化け物だ。
「奴が欲したのは俺の魔力と知恵。それに復讐心ってところか」
キダンは『闇』の一つとなり、世界に滅びをまく存在になった。
一方、人族は歴史の書き換えをおこなった。
今日伝わる勇者伝説は、人々によって都合良く書き換えられたものである。
「どうだ、身勝手だろう? 神も人々も」
長い長い話の末を、キダンはそう結んだ。
「そうだね、身勝手だと思うよ」
僕は答える。
自分で1000倍の力を与えてキダンを利用するだけしておいて、最後は封印に加担した大神も、一度はとキダンをあがめておきながら最後は追い立てた人々も、身勝手だ。
だけどさっ。
「一番身勝手なのはお前だろ、キダン」
大体、自業自得なのだ。
国王として上手くやれないというなら、誰か他の者に国を譲ればいい。
それができないならば、政治に詳しい者の力を借りればいい。
にもかかわらず、キダンは神にもらった力で人々を押さえつけようとした。
本人は詳細に言わないが、大神によればかなりの虐殺行為もあったらしい。
「だいたい、そんなの500年前のことじゃないか。僕やアル様やリラやリリィや、今生きている人たちが何をしたって言うのさ!?」
キダンの――ルシフの暗躍のせいでどれだけの人が不幸になったか。
なすすべもなく『闇』に殺され、自らも『闇』と化した人々。
彼らに何の罪があったというのだろうか。
「過去の真実も知らず、脳天気に暮らしているヤツラをみるだけで腹が立つんだよっ!」
「そんな理由で、お前は世界を壊すって言うのか!?」
「ああ、そうだ。これは世界に対する復讐だからな」
そうか。
ならば。
「なら、僕はお前を止める!!」
僕は叫んで光の剣と漆黒の刃の魔法を発動する。
それをルシフに向かって構えた。
「そう、俺達は戦うしかない」
「残念だよ」
「最後の戦いは1対1になったな」
「お前がそう仕組んだんだろ?」
「まあな。正直、味方がいるパド、お前がうらやましくてな」
それは違う。
違うよ、キダン。
僕にだって味方ばかりじゃないさ。
君にだって味方はいたはずさ。
違いがあるとすれば。
僕は味方になってくれる人の手を握って、お前はその手を振り払ったというだけだ。
僕は弱いから。
1人じゃ不安だからさ。
「さあ、始めようか」
そういって、キダンは剣を抜いた。
僕は光の剣と漆黒の刃をあわせる。
犬の『闇』を倒したときと同じ。
光と闇の剣が僕の手のひらの中で僕の魔力を食らいつくさんとする。
「光と闇の剣か。確かにそれならば俺を殺すこともできるだろうな」
キダンはそういって身構え、次の瞬間。
――え?
キダンがあっという間に僕の目の前に現れ、その剣が僕の胸にむかって来た。
――早いっ!!
――ダメだ、避けられない!!
1000倍の力で振るわれた剣が、僕の体を薙ごうとしていた!
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