神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第二章 光と闇

4.最後の戦いへ

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 僕が気を失っていたのはどれくらいか。
 目を覚ましたとき、僕の体はあちこちが痛みに悲鳴を上げていた。
 一方で、何か柔らかいモノを枕にしている心地よさもある。

 …………?

「パド、気がついた?」

 リラが僕の耳元で言う。

「……リラ……」

 周囲を確認する。
 どうやらここは洞窟の中で、僕はリラの膝枕で寝ていたらしい。
 ちなみに、リラはドラゴン形態ではなく人型に戻っている。
 それに気がつくと、僕は飛び起きた。

「ご、ごめん」
「何を謝っているのよ?」
「い、いや、別になんでもないけど」

 こんな状況なのに、リラの膝枕にドキドキしてしまったなどと言えるわけがない。

 状況――そうだ。今の状況はどうなっている?
 僕はあの8つ首の犬を倒し、魔力障壁を張ることもできずに地面に激突して、たぶん気を失った。

 それから――

「パドがあの『闇の犬デネブ』を倒してから、まだそんなに経っていないわ。日本でいうなら30分くらいかしら」
「そっか」

 それだけでの時間で目覚められたのはラッキーだった。
 だんだんと、魔力の過剰放出への耐性がついているのだろう。

「ここはどこ?」
「元王都のすぐ近くの洞窟。8年前まではドワーフが住んでいたらしいけれど、今ではさすがに無人よ」

 言われ、あらためて洞窟の中を見回してみると、確かにランタンがぶら下がっていたり、棚のようなものがあったりと、生活感がある。

「龍族のおさが私たちをここに案内してくれたわ」
「そうだ、龍族達は!?」
「長は今も洞窟の入り口で『闇』が来ないか見張っている」
「他の龍族は?」
「……」

 僕の質問に、リラは視線をそらす。
 それで理解できた。

「皆、死んじゃったんだね」
「死体を確認したわけじゃないから、生き残っている龍族もいるとは思うけど……」

 リラは暗い表情のままだ。

「『闇の女王』は?」
「まだ、口を開いたままよ」

 どういうことだ? まだ何か出てくるのか?

「もう、何も出てこないのに、なぜか口を閉じようとしないの。
 まるで、私たちを――いいえ、あなたを待っているかのように」

 たぶん、それが正解なのだろう。

「そっか、なら、行かないと」

 僕は痛む体に鞭打って立ち上がる。

「パド、まだ動いちゃだめよ。稔からもらった薬を塗ったけど、そんなにすぐ怪我が治るわけないわ」

 そりゃあそうだろう。
 稔のくれた塗り薬はあくまでも傷薬だ。
 魔法のように体の痛みを取ったりはしない。

「だけど、今が最大の好機だよ。龍族達が命がけで作ってくれたこのタイミングしかない。
 リラ、もう1度だけ、僕を運んでくれるかい?」

 リラは何も言わずに頷いてくれた。少しだけ、悲しげな表情を浮かべて。

 ---------------

 僕はすでに、様々な物を失っていた。
 アル様やレイクさんやキラーリアさんといった旅の仲間達。
 アル様の大剣も、もはやない。
 ラクルス村の皆も、ジラとお父さん以外はどうなったか分からない。
 日本に残してきた稔やお母さんとはもう2度と会えないだろう。

 それでも。
 僕にはまだリラがいる。
 今もボクの肩を支えて共に歩いてくれているリラが。

 捻挫か骨折でもしたのか、僕の左足は地面につくだけで痛い。
 胸も鈍痛がするし、ちょっと吐き気もする。あるいは、内臓周辺の骨にも多少ヒビくらい入っているかもしれない。

 ――だから、どうした。

 僕は戦わなくちゃいけない。
 対峙して、止めなくちゃいけない。

 ルシフと。
 この世界をこんな風にしたヤツと。

 それが僕の責任だ。

 ルシフの正体が『彼』だというならば、『彼』を止められるのは僕だけだ。
 ある意味で『彼』と同じ定めの元にこの世界にやってきた僕だけが、『彼』を止められる。

 それに龍族や、そしてリラを巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないと思う。
 死んだら僕は地獄行きだろう。
 いや、カルディは死後の世界に地獄も天国もないと言っていたか。

 洞窟の入り口には、龍の長がいた。

「目覚めたか」

 彼は僕を見てそうひと言。

「はい。龍族の皆さんのおかげでここまで来れました。ありがとうございます」
「礼はいい。謝罪もな。ことここに至っては、我が望むは結果のみ」

 そうだ。
 安易に謝る事なんてできない。
 謝って済むことじゃないのだ。

「はい。かならず、皆さんの命に応えます」

 僕はそう言って、洞窟の外へと向かう。

「行くのか?」
「はい」

 僕は振り返らずに頷いた。

「この世界の命運、そなたらに賭けるとしよう」
「ありがとうございます」

 僕は言って、1度だけ振り返って頭を下げた。

 そして。

「リラ、お願い」

 僕の言葉に、リラは再びドラゴン形態へと変化する。
 僕はリラにまたがり、空へとのぼる。

 目指すは『闇の女王』、そして、そこから通じるルシフのいる世界だ。
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