神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
上 下
192 / 201
第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第二章 光と闇

4.最後の戦いへ

しおりを挟む
 僕が気を失っていたのはどれくらいか。
 目を覚ましたとき、僕の体はあちこちが痛みに悲鳴を上げていた。
 一方で、何か柔らかいモノを枕にしている心地よさもある。

 …………?

「パド、気がついた?」

 リラが僕の耳元で言う。

「……リラ……」

 周囲を確認する。
 どうやらここは洞窟の中で、僕はリラの膝枕で寝ていたらしい。
 ちなみに、リラはドラゴン形態ではなく人型に戻っている。
 それに気がつくと、僕は飛び起きた。

「ご、ごめん」
「何を謝っているのよ?」
「い、いや、別になんでもないけど」

 こんな状況なのに、リラの膝枕にドキドキしてしまったなどと言えるわけがない。

 状況――そうだ。今の状況はどうなっている?
 僕はあの8つ首の犬を倒し、魔力障壁を張ることもできずに地面に激突して、たぶん気を失った。

 それから――

「パドがあの『闇の犬デネブ』を倒してから、まだそんなに経っていないわ。日本でいうなら30分くらいかしら」
「そっか」

 それだけでの時間で目覚められたのはラッキーだった。
 だんだんと、魔力の過剰放出への耐性がついているのだろう。

「ここはどこ?」
「元王都のすぐ近くの洞窟。8年前まではドワーフが住んでいたらしいけれど、今ではさすがに無人よ」

 言われ、あらためて洞窟の中を見回してみると、確かにランタンがぶら下がっていたり、棚のようなものがあったりと、生活感がある。

「龍族のおさが私たちをここに案内してくれたわ」
「そうだ、龍族達は!?」
「長は今も洞窟の入り口で『闇』が来ないか見張っている」
「他の龍族は?」
「……」

 僕の質問に、リラは視線をそらす。
 それで理解できた。

「皆、死んじゃったんだね」
「死体を確認したわけじゃないから、生き残っている龍族もいるとは思うけど……」

 リラは暗い表情のままだ。

「『闇の女王』は?」
「まだ、口を開いたままよ」

 どういうことだ? まだ何か出てくるのか?

「もう、何も出てこないのに、なぜか口を閉じようとしないの。
 まるで、私たちを――いいえ、あなたを待っているかのように」

 たぶん、それが正解なのだろう。

「そっか、なら、行かないと」

 僕は痛む体に鞭打って立ち上がる。

「パド、まだ動いちゃだめよ。稔からもらった薬を塗ったけど、そんなにすぐ怪我が治るわけないわ」

 そりゃあそうだろう。
 稔のくれた塗り薬はあくまでも傷薬だ。
 魔法のように体の痛みを取ったりはしない。

「だけど、今が最大の好機だよ。龍族達が命がけで作ってくれたこのタイミングしかない。
 リラ、もう1度だけ、僕を運んでくれるかい?」

 リラは何も言わずに頷いてくれた。少しだけ、悲しげな表情を浮かべて。

 ---------------

 僕はすでに、様々な物を失っていた。
 アル様やレイクさんやキラーリアさんといった旅の仲間達。
 アル様の大剣も、もはやない。
 ラクルス村の皆も、ジラとお父さん以外はどうなったか分からない。
 日本に残してきた稔やお母さんとはもう2度と会えないだろう。

 それでも。
 僕にはまだリラがいる。
 今もボクの肩を支えて共に歩いてくれているリラが。

 捻挫か骨折でもしたのか、僕の左足は地面につくだけで痛い。
 胸も鈍痛がするし、ちょっと吐き気もする。あるいは、内臓周辺の骨にも多少ヒビくらい入っているかもしれない。

 ――だから、どうした。

 僕は戦わなくちゃいけない。
 対峙して、止めなくちゃいけない。

 ルシフと。
 この世界をこんな風にしたヤツと。

 それが僕の責任だ。

 ルシフの正体が『彼』だというならば、『彼』を止められるのは僕だけだ。
 ある意味で『彼』と同じ定めの元にこの世界にやってきた僕だけが、『彼』を止められる。

 それに龍族や、そしてリラを巻き込んでしまったのは本当に申し訳ないと思う。
 死んだら僕は地獄行きだろう。
 いや、カルディは死後の世界に地獄も天国もないと言っていたか。

 洞窟の入り口には、龍の長がいた。

「目覚めたか」

 彼は僕を見てそうひと言。

「はい。龍族の皆さんのおかげでここまで来れました。ありがとうございます」
「礼はいい。謝罪もな。ことここに至っては、我が望むは結果のみ」

 そうだ。
 安易に謝る事なんてできない。
 謝って済むことじゃないのだ。

「はい。かならず、皆さんの命に応えます」

 僕はそう言って、洞窟の外へと向かう。

「行くのか?」
「はい」

 僕は振り返らずに頷いた。

「この世界の命運、そなたらに賭けるとしよう」
「ありがとうございます」

 僕は言って、1度だけ振り返って頭を下げた。

 そして。

「リラ、お願い」

 僕の言葉に、リラは再びドラゴン形態へと変化する。
 僕はリラにまたがり、空へとのぼる。

 目指すは『闇の女王』、そして、そこから通じるルシフのいる世界だ。
しおりを挟む
七草裕也の小説
【完結】異世界子育てファンタジー
『異世界で双子の勇者の保護者になりました』

【完結】SFロボットジュブナイル小説
『僕らはロボットで宇宙《そら》を駆ける』

あなたにおすすめの小説

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

魔拳のデイドリーマー

osho
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生した少年・ミナト。ちょっと物騒な大自然の中で、優しくて美人でエキセントリックなお母さんに育てられた彼が、我流の魔法と鍛えた肉体を武器に、常識とか色々ぶっちぎりつつもあくまで気ままに過ごしていくお話。 主人公最強系の転生ファンタジーになります。未熟者の書いた、自己満足が執筆方針の拙い文ですが、お暇な方、よろしければどうぞ見ていってください。感想などいただけると嬉しいです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...