神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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【番外編】ルシフ

【番外編37】ルシフの深淵

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ルシフ――今はそう名乗っている存在――は暗黒の世界でニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。

「そうか、戻ってきたんだね。パドお兄ちゃん」

 その声からはむしろ歓喜すら見て取れる。
 だからだろう。
 暗黒の世界に居るもう一つの存在は、ルシフに対して不快気に鼻を鳴らした。

「ずいぶんと余裕だな。ルシフ」

 ルシフは巨大な8つの頭を持つ犬――どこぞの世界の神話風に言うならばケルベロスを思わせる彼を見やる。

「まーね、いまさらパドお兄ちゃんに何ができるかは知らないけれど、ま、お手並み拝見ってところじゃない?」

 だが、複数の犬の頭を持つ化け物は納得しない。

「ふざけるな。『闇の卵』が孵ってからすでに8年だぞ。何故世界を滅ぼしてしまわないのだ?」
「だってつまらないじゃない。そんなにあっさり滅ぼしたら。そりゃあさぁ、『闇の女王』が降臨した以上、僕か君が出て行けば、世界なんて滅ぼせるよ。
 だけど、それじゃあ、一瞬だ。僕らの復讐はあの地に住まう者達をじわじわとなぶり殺しにして完成するんだ。そうじゃない?」

 だが、化け物は同意しない。

「それはお前の復讐であって、我の目的ではない」
「君だけならパドお兄ちゃんを操って『闇の卵』を孵すことすらできなかった。それを忘れるな」
「忘れてはいない。だからこの8年間もお前を尊重してきた。だが、神託の少年が神の力を借りて戻ってなお、お前が動こうとしないというならば、話は別だ」
「ボクはここ――『闇の女王』の中でパドお兄ちゃんを待つんだ。そして、パドお兄ちゃんをなぶり殺しにする。いや、その前にリラお姉ちゃんをパドお兄ちゃんの目の前でボロボロに傷付けた方が楽しいか」

 ルシフの邪悪さに、化け物は心底嫌悪感を示す。

「それはお前の趣味に過ぎん。これ以上は付き合いきれんな」
「ならどうする?」
「神託の子どもが『闇の女王』に手出しする前に迎え撃とう」

 ルシフはその言葉に「えー」っと不満そうな声を上げる。

「ボクはパドお兄ちゃんとここで直接対決したいんだけどなぁ」
「知ったことか。我はあの世界で神託の子どもも龍の者達も滅ぼしてくれよう。お前はせいぜいここで眺めているがいい」

 そう言うと、化け物の姿はスッと消えた。
 それをみて、ルシフはクスクス笑う。

(まーせいぜい頑張れよ、犬っころ。さてさて、パドお兄ちゃんと犬っころ、どっちが勝つかなぁ)

 ルシフにとって、復讐の対象はあの地に住まう者達だけではない。
 今消えた犬の化け物もまた、ルシフの復讐の対象だ。

(ボクを倒すつもりのパドお兄ちゃんと、ボクを上手く出し抜いたつもりの犬っころの戦いか。確かに見届けさせてもらうよ、ここでね)

 ルシフにとって最高のショーが、今、彼《か》の世界の元王都で始まろうとしていた。
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