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第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第一章 反撃ののろし
6.決戦への道
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翌日。
僕とリラは再び5種族のリーダー達と面会していた。
龍の長が代表して告げる。
「我らが結論は出た。だが、その結論を述べる前に、パド、そなたに一つ尋ねたい」
「なんでしょうか?」
「そなたの力を持って、本当に『闇の女王』を――その中に存在する根源を倒せるという確証はあるのか?」
さて、なんと応じたものか。
自信満々に『絶対大丈夫』というのは簡単だ。
アル様ならそう言い切ってみせるのかもしれない。
だけど、それは誠実じゃないと思う。
僕は僕で、アル様じゃない。
なら、僕なりの言い方をするしかない。
「『確実』なんて言える状況じゃありません。僕は僕にできる精一杯を行なうだけです。そして、時間が経てば経つほど、成功確率は下がる状況だと思います」
僕の言葉に、リーダー達の反応はそれぞれだった。
獣人のリーダーと人族のリーダーは何か言いたそうにしている。というか、人族のリーダーは『そんないいかげんな』などと小声で漏らしている。
一方、ドワーフとエルフのリーダーは事実をありのままに受け入れている様子だ。
そして、龍族のリーダーは。
「そうか。ならばよかろう。我ら龍族はそなたに賭けようではないか」
その言葉に、むしろ僕は驚いてしまう。
「いいんですか?」
「もしもそなたが、根拠なく『確実に倒せる』などと言ってのけたならば、むしろ我は頷かなかっただろうな。だが、そなたの覚悟は本物だと知れた」
龍族の長はそう言ってくれた。
「我らエルフもそれに従おう。もっとも、我らの『闇』と戦う力はわずかであるが」
エルフの長が言い、続けてドワーフの長老も頷く。
「ふん、元来賭け事は物作りと並んで我らドワーフの好みとするところ。確かにチップをかけるならば今しかあるまい。人族の子どもを信じるつもりはないが、龍の長は信じるとしよう」
後は獣人と人族。
「確かに、反撃に出るならば今しかないのかもしれませんな」
熊の顔を持つ獣人のリーダーがため息交じりにそういう。
こうして大勢が決まろうとしたとき、否の声を上げたのは人族のリーダーだった。
「ちょ、ちょっと待ってください。龍族全てが『闇の女王』に挑むなど、そうなれば我らはどうなるのですか? 一体誰がこの地を護ってくださるのです? それに、もしも皆さんが敗れたら、私たちはどうなるのですか!?」
ほとんど悲鳴みたいな声。
他の4種族のリーダー達は冷たい目。
正直、僕も人族の端くれとして恥ずかしすぎるくらい勝手な理屈だ。
勝手に龍族の地に逃げ込んできて護ってもらっておいて、龍族が最後の戦いを決心したらこの言い草。
ぶっちゃけぶん殴りたいレベルだ。いや、僕の力でぶん殴ったら殺しちゃうからやらないけどさ。
4種族のリーダーと僕が呆れる中、声を出したのはリラだった。
「それは身勝手すぎるでしょうに」
ほとんどボソっと呟いたような声だったが、人族のリーダーは聞き逃さなかった。
「子どもが口を挟むな。そもそも『闇の女王』が現れた因となったのはお前達だろう!?」
うわぁ。話をすり替えてきた。
いや、そりゃあ確かに色々と不安になるのは分かるけどさぁ。
さすがに龍族やエルフ達も不機嫌そうに人族のリーダーを睨む。だが、睨まれている方はそのことにも気づいていないっぽい。
勘弁してよ。これで『人族は出て行け』なんてことになったら、病み上がりのお父さんはどうなるんだよ。
「それを『確実』とはいえないなどと無責任な話を持ち込んで、この8年間の苦労を全て無駄にしようとするなど……」
その後も、ああだこうだと自分たちの苦労話と僕らの無責任さを非難しまくる人族のリーダー。
気持ちは分かるし、僕にも色々と後ろめたいこともある。
だけどさぁ。
さすがにイライラが募る。
「いい加減にしておかぬか、人族の」
ドワーフの長老がキツイ口調で人族のリーダーの愚痴を止めた。
「龍族が飛び立つ前に、我らのすみかに人族を避難させよう。むろん、エルフや獣人もな」
ドワーフのすみかは地底。そこならば龍族なきあとの地上よりは安全だ。
「それで安全だというわけでは……」
なおも言いつのる人族のリーダーに、ドワーフの長老はビシッと言い放つ。
「だが、そのように愚痴ばかりわめき立てるならば受け入れは拒否する。あとは人族だけでどこへなりとも行けばよい。
そもそも、我らに言わせれば、『闇の女王』の降臨はその子供達だけに限らず、人族全体の責任だと思っているのだぞ」
人族のリーダーはそう言われグッとつまった様子で黙る。
やれやれ、やっと静かになった。
僕はドワーフの長老に頭を下げた。
「僕のお父さんや友人、弟のこともよろしくお願いします」
「良かろう。礼儀正しい者は我らも好む。礼儀を知らぬ者は好まぬがな」
うーん、もしかして人族のリーダーって元々他の種族のリーダーから鼻つまみ状態だったのだろうか。そうなってもおかしくないと思うけど。
「話は纏まったようだな。ドワーフ達には他の種族の庇護を依頼する。
パドとリラは共に来てくれ。今後の戦い方を話し合おう」
今、僕らの最後の戦いが始まろうとしていた。
僕とリラは再び5種族のリーダー達と面会していた。
龍の長が代表して告げる。
「我らが結論は出た。だが、その結論を述べる前に、パド、そなたに一つ尋ねたい」
「なんでしょうか?」
「そなたの力を持って、本当に『闇の女王』を――その中に存在する根源を倒せるという確証はあるのか?」
さて、なんと応じたものか。
自信満々に『絶対大丈夫』というのは簡単だ。
アル様ならそう言い切ってみせるのかもしれない。
だけど、それは誠実じゃないと思う。
僕は僕で、アル様じゃない。
なら、僕なりの言い方をするしかない。
「『確実』なんて言える状況じゃありません。僕は僕にできる精一杯を行なうだけです。そして、時間が経てば経つほど、成功確率は下がる状況だと思います」
僕の言葉に、リーダー達の反応はそれぞれだった。
獣人のリーダーと人族のリーダーは何か言いたそうにしている。というか、人族のリーダーは『そんないいかげんな』などと小声で漏らしている。
一方、ドワーフとエルフのリーダーは事実をありのままに受け入れている様子だ。
そして、龍族のリーダーは。
「そうか。ならばよかろう。我ら龍族はそなたに賭けようではないか」
その言葉に、むしろ僕は驚いてしまう。
「いいんですか?」
「もしもそなたが、根拠なく『確実に倒せる』などと言ってのけたならば、むしろ我は頷かなかっただろうな。だが、そなたの覚悟は本物だと知れた」
龍族の長はそう言ってくれた。
「我らエルフもそれに従おう。もっとも、我らの『闇』と戦う力はわずかであるが」
エルフの長が言い、続けてドワーフの長老も頷く。
「ふん、元来賭け事は物作りと並んで我らドワーフの好みとするところ。確かにチップをかけるならば今しかあるまい。人族の子どもを信じるつもりはないが、龍の長は信じるとしよう」
後は獣人と人族。
「確かに、反撃に出るならば今しかないのかもしれませんな」
熊の顔を持つ獣人のリーダーがため息交じりにそういう。
こうして大勢が決まろうとしたとき、否の声を上げたのは人族のリーダーだった。
「ちょ、ちょっと待ってください。龍族全てが『闇の女王』に挑むなど、そうなれば我らはどうなるのですか? 一体誰がこの地を護ってくださるのです? それに、もしも皆さんが敗れたら、私たちはどうなるのですか!?」
ほとんど悲鳴みたいな声。
他の4種族のリーダー達は冷たい目。
正直、僕も人族の端くれとして恥ずかしすぎるくらい勝手な理屈だ。
勝手に龍族の地に逃げ込んできて護ってもらっておいて、龍族が最後の戦いを決心したらこの言い草。
ぶっちゃけぶん殴りたいレベルだ。いや、僕の力でぶん殴ったら殺しちゃうからやらないけどさ。
4種族のリーダーと僕が呆れる中、声を出したのはリラだった。
「それは身勝手すぎるでしょうに」
ほとんどボソっと呟いたような声だったが、人族のリーダーは聞き逃さなかった。
「子どもが口を挟むな。そもそも『闇の女王』が現れた因となったのはお前達だろう!?」
うわぁ。話をすり替えてきた。
いや、そりゃあ確かに色々と不安になるのは分かるけどさぁ。
さすがに龍族やエルフ達も不機嫌そうに人族のリーダーを睨む。だが、睨まれている方はそのことにも気づいていないっぽい。
勘弁してよ。これで『人族は出て行け』なんてことになったら、病み上がりのお父さんはどうなるんだよ。
「それを『確実』とはいえないなどと無責任な話を持ち込んで、この8年間の苦労を全て無駄にしようとするなど……」
その後も、ああだこうだと自分たちの苦労話と僕らの無責任さを非難しまくる人族のリーダー。
気持ちは分かるし、僕にも色々と後ろめたいこともある。
だけどさぁ。
さすがにイライラが募る。
「いい加減にしておかぬか、人族の」
ドワーフの長老がキツイ口調で人族のリーダーの愚痴を止めた。
「龍族が飛び立つ前に、我らのすみかに人族を避難させよう。むろん、エルフや獣人もな」
ドワーフのすみかは地底。そこならば龍族なきあとの地上よりは安全だ。
「それで安全だというわけでは……」
なおも言いつのる人族のリーダーに、ドワーフの長老はビシッと言い放つ。
「だが、そのように愚痴ばかりわめき立てるならば受け入れは拒否する。あとは人族だけでどこへなりとも行けばよい。
そもそも、我らに言わせれば、『闇の女王』の降臨はその子供達だけに限らず、人族全体の責任だと思っているのだぞ」
人族のリーダーはそう言われグッとつまった様子で黙る。
やれやれ、やっと静かになった。
僕はドワーフの長老に頭を下げた。
「僕のお父さんや友人、弟のこともよろしくお願いします」
「良かろう。礼儀正しい者は我らも好む。礼儀を知らぬ者は好まぬがな」
うーん、もしかして人族のリーダーって元々他の種族のリーダーから鼻つまみ状態だったのだろうか。そうなってもおかしくないと思うけど。
「話は纏まったようだな。ドワーフ達には他の種族の庇護を依頼する。
パドとリラは共に来てくれ。今後の戦い方を話し合おう」
今、僕らの最後の戦いが始まろうとしていた。
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