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第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第一章 反撃ののろし
3.父と弟
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とりあえず、カルディのことは頭の隅に追いやって、僕はお父さんに駆け寄る。
お父さんは辛そうにしながらも半身を起こしてこちらをみた。
「ああ、その姿はパド……よかった……生きていたのか……」
そう言いながら、お父さんはポロポロ涙を流し、ゴホンゴホンと辛そうに咳き込んだ。
「お父さん、大丈夫!?」
僕は慌ててお父さんに手を差し伸べる。
「パド……そうか、手も治ったんだな……もう、これで思い残すこともない……お前がいてくれれば、バラヌやジラも……」
そこまで言うと、またゴホゴホ咳き込むお父さん。それだけじゃなく血の混じった痰を吐き出す。
「お父さんっ!! バラヌ、お父さんはどうしたの!?」
「それが、お父さんだけじゃなくて、病が流行っていて……」
言われて、あらためて周囲を見回すと、確かにここにいる人達はゴホゴホ咳き込んでいる。
『闇』の襲撃だけでなく、病魔もこの地の人々を苦しめているのだ。
いや、『闇』との長い年月の戦いによって体力を失ったからこそ病が流行ったというべきか。
自然治癒がほとんど望めず、血を吐いてやがて死ぬ病気。
「エルフの人達もお手上げみたいで。しかも移るらしいから、カルディに世話をまかせるしかなくて」
あのふもふも女神にはさすがにこの病気は移らないらしい。
「パド、お前も外に出ていた方がいい。バラヌとジラも……」
そんな。
せっかくこっちの世界に戻ってきて、お父さんと再会できたのに。
こんなことって。
「ねえ、リラ、なんとかならないかな?」
無茶ぶりと分かりつつも、リラに言ってしまう僕。
「それは……エルフが診てもどうにもならないなら、私なんかじゃ……お師匠様なら薬を作れたかもしれないし、教皇様なら魔法でどうにか出来たかもしれないけど。あるいはミノルなら……」
そこまで言って、リラはハッと目を見開く。
「そうだ、パド、ミノルがくれた薬」
そうだ。そういえば。
稔は旅立ちの時にリュックに色々なモノを詰めてくれた。
その中には抗生物質もあったはず。
僕はリュックの中を探って薬を取り出す。
この世界の薬で治らなくても、これなら。
「お父さん、これ飲んで」
僕は抗生物質のカプセルをお父さんに渡す。
「これは?」
「薬」
「薬? これがか?」
お父さんが戸惑うのも無理はない。
この世界の薬は葉などの自然物から作ったものがほとんどだ。
カプセル型の薬など未知のものだろう。
「うん、信じられないかもしれないけど」
だが、僕の後ろから、リラが言う。
「ちょっと待って、その薬が本当に効くかは分からないわ」
「え、でも……」
「この世界と向こうの世界で病原菌が同じとは限らない。むしろ違う可能性の方が高いわ。最悪、症状が余計に悪化する可能性もある」
リラの言うことはもっともだった。
「でも、他に手がないじゃないか」
「それは……そうなんだけど……」
口ごもるリラ。
「いいさ、俺はパドを信じる」
お父さんはそう言って薬を口へと運ぶ。
「どのみち死ぬなら同じ事。俺が良くなったら、皆にも薬を配ればいい」
確かにその通りだ。その通りなんだけど。
つまり、それはお父さんが実験台になるってことなんじゃ。
そう思っている間にもお父さんは抗生物質を飲み下してしまった。
「さあ、お前達ここから出なさい。お前達にまで病気が移ったら大変だ」
お父さんに言われ、僕らは病院代わりの小屋から外に出たのだった。
---------------
小屋から出ると、バラヌが言った。
「兄さん、あれって異世界の薬なの?」
「うん。異世界の……医者にもらった」
どうしても、バラヌには異世界の弟とは言いにくかった。
「お父さん、助かるの?」
「それは……わからないよ。リラの言うとおり、薬が効くかどうかは賭けだ」
「そっか」
バラヌは小さくため息。
「兄さん、これから兄さんはどうするつもりなんだい? 『闇の女王』を倒すために戻ってきたといっても、正直、その……」
「うん、分かってる、僕だけじゃ無理だ」
バラヌによれば、『闇の女王』は8年前からずっと、王都のあった地域に佇んでいるという。その周辺には『闇』や『闇の獣』、『闇の鳥』達が群れをなしており、のみならず『闇の龍』までいるという。
8年でピッケ以外にも殺された龍族もいるのだ。
龍族はかつて何度か『闇の女王』に挑んでいる。
そのたびに、龍族の犠牲が出て、『闇の龍』が増えただけだった。
龍族以外の種族は、『闇』に対してほとんど無力だ。
最初の段階で教会総本山が潰されたのも大きかった。浄化の魔法の契約は総本山でしかできず、また浄化の魔法の使い手はほとんど総本山にいたのだ。
「そうか。だったら兄さんに渡したい物と、会ってほしい人がいる」
バラヌはそう言うのだった。
お父さんは辛そうにしながらも半身を起こしてこちらをみた。
「ああ、その姿はパド……よかった……生きていたのか……」
そう言いながら、お父さんはポロポロ涙を流し、ゴホンゴホンと辛そうに咳き込んだ。
「お父さん、大丈夫!?」
僕は慌ててお父さんに手を差し伸べる。
「パド……そうか、手も治ったんだな……もう、これで思い残すこともない……お前がいてくれれば、バラヌやジラも……」
そこまで言うと、またゴホゴホ咳き込むお父さん。それだけじゃなく血の混じった痰を吐き出す。
「お父さんっ!! バラヌ、お父さんはどうしたの!?」
「それが、お父さんだけじゃなくて、病が流行っていて……」
言われて、あらためて周囲を見回すと、確かにここにいる人達はゴホゴホ咳き込んでいる。
『闇』の襲撃だけでなく、病魔もこの地の人々を苦しめているのだ。
いや、『闇』との長い年月の戦いによって体力を失ったからこそ病が流行ったというべきか。
自然治癒がほとんど望めず、血を吐いてやがて死ぬ病気。
「エルフの人達もお手上げみたいで。しかも移るらしいから、カルディに世話をまかせるしかなくて」
あのふもふも女神にはさすがにこの病気は移らないらしい。
「パド、お前も外に出ていた方がいい。バラヌとジラも……」
そんな。
せっかくこっちの世界に戻ってきて、お父さんと再会できたのに。
こんなことって。
「ねえ、リラ、なんとかならないかな?」
無茶ぶりと分かりつつも、リラに言ってしまう僕。
「それは……エルフが診てもどうにもならないなら、私なんかじゃ……お師匠様なら薬を作れたかもしれないし、教皇様なら魔法でどうにか出来たかもしれないけど。あるいはミノルなら……」
そこまで言って、リラはハッと目を見開く。
「そうだ、パド、ミノルがくれた薬」
そうだ。そういえば。
稔は旅立ちの時にリュックに色々なモノを詰めてくれた。
その中には抗生物質もあったはず。
僕はリュックの中を探って薬を取り出す。
この世界の薬で治らなくても、これなら。
「お父さん、これ飲んで」
僕は抗生物質のカプセルをお父さんに渡す。
「これは?」
「薬」
「薬? これがか?」
お父さんが戸惑うのも無理はない。
この世界の薬は葉などの自然物から作ったものがほとんどだ。
カプセル型の薬など未知のものだろう。
「うん、信じられないかもしれないけど」
だが、僕の後ろから、リラが言う。
「ちょっと待って、その薬が本当に効くかは分からないわ」
「え、でも……」
「この世界と向こうの世界で病原菌が同じとは限らない。むしろ違う可能性の方が高いわ。最悪、症状が余計に悪化する可能性もある」
リラの言うことはもっともだった。
「でも、他に手がないじゃないか」
「それは……そうなんだけど……」
口ごもるリラ。
「いいさ、俺はパドを信じる」
お父さんはそう言って薬を口へと運ぶ。
「どのみち死ぬなら同じ事。俺が良くなったら、皆にも薬を配ればいい」
確かにその通りだ。その通りなんだけど。
つまり、それはお父さんが実験台になるってことなんじゃ。
そう思っている間にもお父さんは抗生物質を飲み下してしまった。
「さあ、お前達ここから出なさい。お前達にまで病気が移ったら大変だ」
お父さんに言われ、僕らは病院代わりの小屋から外に出たのだった。
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小屋から出ると、バラヌが言った。
「兄さん、あれって異世界の薬なの?」
「うん。異世界の……医者にもらった」
どうしても、バラヌには異世界の弟とは言いにくかった。
「お父さん、助かるの?」
「それは……わからないよ。リラの言うとおり、薬が効くかどうかは賭けだ」
「そっか」
バラヌは小さくため息。
「兄さん、これから兄さんはどうするつもりなんだい? 『闇の女王』を倒すために戻ってきたといっても、正直、その……」
「うん、分かってる、僕だけじゃ無理だ」
バラヌによれば、『闇の女王』は8年前からずっと、王都のあった地域に佇んでいるという。その周辺には『闇』や『闇の獣』、『闇の鳥』達が群れをなしており、のみならず『闇の龍』までいるという。
8年でピッケ以外にも殺された龍族もいるのだ。
龍族はかつて何度か『闇の女王』に挑んでいる。
そのたびに、龍族の犠牲が出て、『闇の龍』が増えただけだった。
龍族以外の種族は、『闇』に対してほとんど無力だ。
最初の段階で教会総本山が潰されたのも大きかった。浄化の魔法の契約は総本山でしかできず、また浄化の魔法の使い手はほとんど総本山にいたのだ。
「そうか。だったら兄さんに渡したい物と、会ってほしい人がいる」
バラヌはそう言うのだった。
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