神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第六部 少年はかくて勇者と呼ばれけり 第一章 反撃ののろし

1.世界を渡りて、弟の元へ

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 デオスの導きにより、再び次元の狭間を通る僕達。

「まずはそなた達に祝福を与えよう」

 デオスが偉そうに言うと、僕の体がムズムズとする。
 左腕と右手首があっという間に再生された。
 リラの足の怪我も治ったようだ。

 それだけじゃない。
 僕の意識の中に、ある魔法が飛び込んでくる。

 これは――

「『闇』を断つ光の剣の魔法だ」

 わかる。
 ルシフの漆黒の刃と同等か、それ以上の威力を持つ剣の魔法。
 その分、漆黒の刃よりもさらに魔力を食うようだが。

 そして、同時に僕の頭に知識がすり込まれる。
 向こうの世界の現状と、『闇の女王』の正体。
 そうか、つまり『闇の女王』とは――

 僕が納得していると、デオスが今度はリラに話しかける。

「娘よ。そなたの因子も目覚めさせよう」

 リラの体が光る。

「え、え、えぇ!?」

 リラが戸惑いの声を上げる。
 光が収まったとき、リラの手足や頬に鱗が生えていた。

「いやぁ、こんなの……」
「心配はいらん。龍族の因子に目覚めたばかりだからだ。意識を集中すれば鱗を消すことはできるはずだ。
 そして、もう一つ。そなたはこれでドランゴン形態への変形も可能になった」

 おいおい。
 さすがにすごいな、デオス。
 ちょっとチートが過ぎるだろ。

「え、えーっと」

 リラは戸惑いながらもリュックを僕に預け、目を瞑って集中する。
 すると。

 リラの姿がドラゴン形態へと変わった。
 もっとも、ピッケのように巨大ではない。
 長さは4メートル、太さは直径50センチといったところか。

「すごい、私、ドラゴンになっちゃったわ」

 ちょっと嬉しそうなリラ。
 僕は……うん、少し複雑かな。

「ところで、そこのぐるぐる巻きの2人はどうするの?」

 僕らの横に縛り上げたバスティーニとルペースを横目にデオスに問う。

「その2人はこちらで預かろう」

 デオスが2人を一睨みすると、2人の姿はあっという間に消えた。
 2人がどうなるのか……は、まああんまり気にならないか。

「お前達を向こうの世界に送るが、本来ならば向こうの世界のどこにたどり着くかまでは私にも指定できん。唯一可能なのはそなたらの肉親の元に送るのみ。
 肉親の存在はマーキングとなりうる」
「じゃあ、以前次元の狭間から脱出する時に見えた光は……」
「そなたの弟か、母親であろう。もちろん前世のな」

 やっぱりか。
 どうりでリラには見えなかったはずだ。

「ならば、今回向かう先は」
「弟の元へ送ろう」

 この場合の弟というのは稔ではなくバラヌのことだ。それくらいは僕にも分かる。

「わかった。頼む」
「ふむ、そなた達の幸運を祈ろう」

 良く言うよ、まったく。

 そして、僕とリラは再び次元の狭間を抜けた。

 ---------------

「って、また空の上かよぉぉぉぉ」

 僕は叫ぶ。
 確かに眼下には砂漠に囲まれた森があり、おそらくはエインゼルの森林なのだろうけどっ。
 くそ、また魔力障壁を使うしか。

 とおもったその時。

「パドっ!!」

 リラの叫び声。
 彼女は未だドラゴン形態。
 リラの体が僕の下に滑り込む。

「おおっ?」

 思わず間抜けな声を上げる僕。
 リラの体がすんなりと、僕を受け止めた。
 ピッケのそれと違い、リラのドラゴン形態はまたがるのに丁度いい大きさだ。
 少なくとも口の中よりはずっと乗り心地がいい。

「よし、リラ、このままエルフの里に行こう」

 僕が言うと、リラは頷いた。

 ――だが。

 パドっ、あれっ!!

 僕らに先んじること数秒。
 なんと、『闇』が3体ほどエインゼルの森林に向けて突き進んでいる。

「リラ、急いでっ!!」
「了解」

 リラは急降下。
 一気に『闇』に迫る。
『闇』の1体が僕らに気がつきUターン。

「じゃまよぉっ!!」

 リラが浄化の炎を吐く。
 闇は怯みつつも、かわして突っ込んでくる。
 狙いは僕!?

 僕は左手に漆黒の刃を、右手に光の剣を作り出し、迎え撃つ。
『闇』の指が僕を襲うが、全て切り落とす。
『闇』の口から『漆黒の炎』の攻撃。

 くそっ。
 リラも今さら避けられない。

 僕はリラの背から跳び上がり、光の剣で漆黒の炎を切り裂く。
 さすがに『闇』もこれは予想していなかったのだろう。
 瞬間戸惑った様子で動きを止める。
 そこに僕は一気に肉薄。
 漆黒の刃でやつを真っ二つに切り裂いた。

 そのまま重力によって地面に向かって落ちる僕。

「パドっ!!」
「大丈夫っ!!」

 僕は魔力障壁を展開。
 木々の枝を弾きながら地面に到達した。
 障壁を使った時間が瞬間的だからか、気を失うことは無かった。

「残りの『闇』は!? それに、ここにはバラヌがいるはず!」

 僕は周囲を見回す。

 木の陰に、2体の『闇』に襲われるエルフの少年と人族の青年。
 2人はなんとか逃げようとしているが、難しいだろう。

「やめろぉぉぉっ!!」

 僕は叫んで『闇』に突っ込む。

 光の剣で一体に、漆黒の刃でもう一体に斬りつけた。
 完全不意打ちだったからか、『闇』は特に抵抗もできずにその場で滅んだ。

 いやー、我ながら一気に戦ったなぁ。
 必死だったけど、ちょっと気持ちいいくらいだ。
 まるで、入院中に読んだ『チート無双モノ』みたいな活躍である。

 などと思っている場合ではない。
『闇』から逃げていた2人に近づく。

 彼らは僕を呆然と見つめていた。
 かなり驚いた顔だ。
 まあ、そうか。
 いきなり8歳児が『闇』2体を一刀両断したんだから。

 だが、彼らが驚いた理由は別にあった。

「兄さん!?」
「パド、なのか?」

 結論を言えば、エルフの少年はバラヌ、そして人族の青年はジラだったのだ。
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七草裕也の小説
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