神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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【バラヌの記録帳】

【バラヌの記録帳3】8年の戦い

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『闇』の勢力に押されるアル様やエルフ、龍族を見て、ジラがカルディに叫ぶ。

「カルディ、このままじゃ……何か手はないのかよ!?」

 ジラはカルディのことをかなり信頼している様子だった。
 僕には目の前のふもふもしたモンスターがそこまで信頼に値するとは思えなかったが。

「一つだけ方法があるわ」

 生命エネルギーを魔力に変えるという、最終手段。
 カルディが示した逆転の一手はそれだった。
 命と魔力を燃やして、この地の『闇』を浄化する。

「アラブシ・カ・ミランテや教皇がやった方法か」

 アル様がうなる。

「だがそれは……」
「ええ、誰かの犠牲が必要な方法よ」

 命を燃やすということは、すなわち死を受け入れるということだ。

「だが、それは秘術中の秘術ではないのか? 相当な技術が必要なはずだ」
「この地でそう伝えられているのは、精霊魔法の発想と異なるものだからよ。神から見れば、むしろ命を燃やす魔法の方が操りやすいくらいなの。だから、私でも教えることは出来るわ。
 問題は……」

 誰が犠牲になるか。
 そして、誰の命と魔力ならばこの地の『闇』を祓うほどの力になるか。

 答えは明白で、だから誰も言えない。
 本人以外は。

「いいだろう。私に教えろ。クソガキの呪いで得た20倍の力と王家由来の魔力、今こそ役立てようではないか」

 アル様がそう言った。言ってくれた。

「アル様、でも……」

 止めようとする僕に、アル様は笑う。

「どのみち、王家の解呪法が失われた今、私はあと1年ちょっとしか生きられん。ならばここが命の燃やしどころなのだろう」

 アル様は呪いにかかっていた。
 その呪いを解くために王家の解呪法が必要で、だから王位継承を望んでいた。
『闇の女王』によって王都が滅んだ今、アル様の呪いを解く方法は失われていた。

 その後――

 この地を襲った『闇』は祓われた。
 ピッケの成れの果ても含めて。
 アル様という王女にて戦士の死と引き換えに。

 アル様は最後に僕に大剣を預けた。
『闇』すら断つその剣は、とても重く20倍の力を持つアル様にしか使えない。
 あの天才騎士キラーリアさんにすら、使いこなせなかったらしい。

 だが、アル様は言った。
 200倍の力を持つお前の兄なら使えるだろう?

 アル様は、兄がいつか戻ってくると、本気で信じていたのだろうか。
 今となっては分からない。
 いずれにせよ、僕らは1人では持ち上げることもできないアル様の大剣を預かることになった。

 ---------------

 それから8年弱。
 この地は何度も『闇』に襲われた。

 龍族がいるエインゼルの森林は、それでも他の場所に比べれば抵抗できているらしい。
 人族や獣人、ドワーフたちも続々とエインゼルの森林に避難してきた。

 この地以外にも人々の生き残りが暮らしている場所はあるらしい。
 特にドワーフは地中に住むため他の種族に比べれば被害が少ない。

 僕は魔無子まなこである。
 故に、浄化の力を持たない。
 それでも、戦う者達の役に立とうと動いた。

 兄やラミサル様に教わったこと。
 できないことではなく、できることをする。

 戦う者に食事を作ることや、傷の手当てを手伝うことなら僕にもできる。
 直接戦えなくても、役に立つことはできるのだと信じて、この8年必死に動いた。

 それは同じく魔力を持たない、ジラやお父さんも同じだ。
 一方、魔力を持つエルフや人族、ドワーフにはカルディが浄化の魔法をさずけている。
 カルディの魔法は強力とは言いがたいが、それでも戦いの足しにはなる。

 僕らはそうやって抵抗しつつ、だが多数の犠牲を出して、この8年間生き残ってきた。

 13歳になった僕や、17歳になったジラはもう子どもじゃない。
 いや、13歳はまだ子どもなのかも知れないが、子どもだなどと言い訳をして生き残れる世界ではすでにないのだ。

 僕らは必死にあらがっていた。
 終わりの見えない絶望的な戦いを支えていたのは、ただただ生存本能だけだったのかもしれない。

 そして、昨日。
 ついに『闇』の大攻勢がエインゼルの森林を襲った。
 龍族すら抗しきれず、もはやこれまでと覚悟した僕らの前に、8年ぶりの人物があらわれた。

 左手に漆黒の刃を。
 右手に光の剣を。

 それぞれ構えた8年前と変わらぬ姿は。
 僕よりも遙かに幼い姿をしているその少年は。
 龍の力を持つ獣人の少女と共に立つその人は。

「お兄ちゃん」

 僕の兄、パドだった。

 ---------------

 そして、兄は僕らに示した。
 最後の戦いを。
 世界を救う、小さな光を。

 だから、これから、僕らは最終決戦に挑む。
 僕にできることは些細なことだ。
 それでも、その些細なことを皆がすることで、世界を救えると、アル様やラミサル様が僕に託したことなのだと信じて。
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七草裕也の小説
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