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【バラヌの記録帳】
【バラヌの記録帳2】闇の龍
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エインゼルの森林には僕らより先にルアレさんが戻っていた。
どうやらすでに、彼によってこの地の者達には王都で起きた出来事が知らされていたようだ。
アル様はエルフや龍族に、人族らと共に『闇の女王』と戦うよう要請。
だが、議場は荒れる。
僕にはよく分からないが、王位継承権争いの中で、アル様は一度エルフや龍族を裏切るような行動をとっていたらしい。
カルディが元神だというのもなかなか信じてもらえない。こちらは当然と言えば当然だったが。
元々、エルフも龍族も排他的である。そうでなければエインゼルの森林に引きこもってなどいない。
しかも、人族を嫌う理由も色々あった。
アル様の話を聞いてもらえなくてもしかたがない状況だったのだ。
人族やアル様の過去の行いを責め立てるエルフや龍の長に、僕はたまらず言った。
「どうでもいいんだ、そんなことは」
幼い魔無子の僕が口を挟んだことに、不快感を示す一同。
だが、僕はかまわず続けた。
兄やラミサル様に教わったこと。
魔力の有無も年齢も関係ない。
それを言い訳にしてはいけない。
できることを一つずつやる。
人族とエルフのハーフである僕にできること。
それはエルフや龍族を説得することだと、その時僕は思ったのだ。
「このままじゃ世界が滅ぶ! ルアレさんは見たはずでしょう。『闇の女王』を。
皆さんだってここを襲った『闇』を見たはずだ。こんなくだらない言い争いをしていたら、本当に世界が滅んじゃうよっ!!」
僕の叫び声に、皆が顔を見合わせ、ばつが悪そうにする。
そして、エルフの長様が言った。
「成長したな、バラヌ」
それで、その場の雰囲気が変わった。
なんとなく、アル様やカルディ達の話を聞いてみようとなったのだ。
---------------
不毛な言い争いこそ終わったものの、ならばどう戦えばいいのかという話になるとそう簡単に結論は出なかった。
アル様にしろ、カルディにしろ、結局はこの世界で一番力のある龍族を頼ってここまで来ただけなのだ。
エルフの長が言う。
「やはり、その『闇の女王』とやらを倒すのが最優先なのではないか?」
それは誰もが思っている認識だったが、その方法が分からない。
「我ら龍族の力を結集して戦うしかないか。しかし……」
そんな話をしていたときだった。
カルディが警告の声を上げる。
「来るわっ」
何が、と問う皆に、カルディが叫ぶ。
「巨大な『闇』よ」
「まさか、『闇の女王』か!?」
アル様が大剣をもって立ち上がる。
皆がアル様に続いて会議場になていたエルフの長の家を出る。
だが、そこで待っていたのは。
「おお、このようなことが……」
龍族の長が苦悶の声を上げる。
空に浮いていたのは多数の『闇』と、『闇の龍』――つまりは龍族の長の息子、ピッケの成れの果てだった。
---------------
そこからの戦いは、凄惨を極めた。
龍族がドラゴン形体に姿を変え、『闇』を浄化の炎で祓う。
龍の長は『闇の龍』と化したピッケと対峙する。
「我が息子よ、その姿はなんとしたことか」
だが、すでに『闇』の眷族となったピッケには、長の声も届かない。
「ならば、せめて我が手で終わらせよう」
龍の長はそういって、息子と戦った。
---------------
一方、地上に残るエルフや僕らにも『闇』や『闇の獣』が襲いかかって来た。
龍族の援護と、アル様の大剣で『闇』や『闇の獣』と対抗するが、不利は否めなかった。
何しろ、僕やエルフには浄化の力が使えない。もちろん、お父さんやジラにもだ。
何人かのエルフが殺され、彼ら彼女らはその場で新たなる『闇』と化し、僕らに襲いかかってきた。
「なんたる……なんたることだ……」
長をはじめとして、エルフ達はその現象に恐れおののく。
単に恐ろしい敵というだけではない。
つい先頃まで衣食住を共にしていた者が、あっという間に敵になるのだ。
---------------
当初、空の上の戦いは、地上に比べればまだマシだった。
もっとも、その当時の僕に空の上の戦いを気にする余裕はなかった。
以下は後に龍族の1人から聞いた話である。
龍族は『闇』よりも強い。
戦って負ける要素はなかった。
ないはずだった。
だが。
ピッケの成れの果てに対する長の攻撃には精彩を欠いた。
それはそうだろう。
何しろ相手は自分の息子である。
そう簡単に開き直れるものではない。
それが、致命的なスキを生んだ。
ピッケの成れの果ては、一瞬のスキをついて、別の龍族の首を噛み千切ったのだ。
龍族から最初の犠牲者が出た。
それだけならばまだしも、殺された龍族はその場で『闇の龍』となる。
『闇の龍』が二体となり、空の上の戦いも押され始める。
なにより、目の前で『闇の龍』となった仲間に対して、本当に戦うしかないのかという戸惑いが彼らにはあったのだ。
---------------
空も地上も、僕らは追い詰められつつあった。
それを救ったのは、カルディだった。
1人の戦士の命と引き換えに。
どうやらすでに、彼によってこの地の者達には王都で起きた出来事が知らされていたようだ。
アル様はエルフや龍族に、人族らと共に『闇の女王』と戦うよう要請。
だが、議場は荒れる。
僕にはよく分からないが、王位継承権争いの中で、アル様は一度エルフや龍族を裏切るような行動をとっていたらしい。
カルディが元神だというのもなかなか信じてもらえない。こちらは当然と言えば当然だったが。
元々、エルフも龍族も排他的である。そうでなければエインゼルの森林に引きこもってなどいない。
しかも、人族を嫌う理由も色々あった。
アル様の話を聞いてもらえなくてもしかたがない状況だったのだ。
人族やアル様の過去の行いを責め立てるエルフや龍の長に、僕はたまらず言った。
「どうでもいいんだ、そんなことは」
幼い魔無子の僕が口を挟んだことに、不快感を示す一同。
だが、僕はかまわず続けた。
兄やラミサル様に教わったこと。
魔力の有無も年齢も関係ない。
それを言い訳にしてはいけない。
できることを一つずつやる。
人族とエルフのハーフである僕にできること。
それはエルフや龍族を説得することだと、その時僕は思ったのだ。
「このままじゃ世界が滅ぶ! ルアレさんは見たはずでしょう。『闇の女王』を。
皆さんだってここを襲った『闇』を見たはずだ。こんなくだらない言い争いをしていたら、本当に世界が滅んじゃうよっ!!」
僕の叫び声に、皆が顔を見合わせ、ばつが悪そうにする。
そして、エルフの長様が言った。
「成長したな、バラヌ」
それで、その場の雰囲気が変わった。
なんとなく、アル様やカルディ達の話を聞いてみようとなったのだ。
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不毛な言い争いこそ終わったものの、ならばどう戦えばいいのかという話になるとそう簡単に結論は出なかった。
アル様にしろ、カルディにしろ、結局はこの世界で一番力のある龍族を頼ってここまで来ただけなのだ。
エルフの長が言う。
「やはり、その『闇の女王』とやらを倒すのが最優先なのではないか?」
それは誰もが思っている認識だったが、その方法が分からない。
「我ら龍族の力を結集して戦うしかないか。しかし……」
そんな話をしていたときだった。
カルディが警告の声を上げる。
「来るわっ」
何が、と問う皆に、カルディが叫ぶ。
「巨大な『闇』よ」
「まさか、『闇の女王』か!?」
アル様が大剣をもって立ち上がる。
皆がアル様に続いて会議場になていたエルフの長の家を出る。
だが、そこで待っていたのは。
「おお、このようなことが……」
龍族の長が苦悶の声を上げる。
空に浮いていたのは多数の『闇』と、『闇の龍』――つまりは龍族の長の息子、ピッケの成れの果てだった。
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そこからの戦いは、凄惨を極めた。
龍族がドラゴン形体に姿を変え、『闇』を浄化の炎で祓う。
龍の長は『闇の龍』と化したピッケと対峙する。
「我が息子よ、その姿はなんとしたことか」
だが、すでに『闇』の眷族となったピッケには、長の声も届かない。
「ならば、せめて我が手で終わらせよう」
龍の長はそういって、息子と戦った。
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一方、地上に残るエルフや僕らにも『闇』や『闇の獣』が襲いかかって来た。
龍族の援護と、アル様の大剣で『闇』や『闇の獣』と対抗するが、不利は否めなかった。
何しろ、僕やエルフには浄化の力が使えない。もちろん、お父さんやジラにもだ。
何人かのエルフが殺され、彼ら彼女らはその場で新たなる『闇』と化し、僕らに襲いかかってきた。
「なんたる……なんたることだ……」
長をはじめとして、エルフ達はその現象に恐れおののく。
単に恐ろしい敵というだけではない。
つい先頃まで衣食住を共にしていた者が、あっという間に敵になるのだ。
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当初、空の上の戦いは、地上に比べればまだマシだった。
もっとも、その当時の僕に空の上の戦いを気にする余裕はなかった。
以下は後に龍族の1人から聞いた話である。
龍族は『闇』よりも強い。
戦って負ける要素はなかった。
ないはずだった。
だが。
ピッケの成れの果てに対する長の攻撃には精彩を欠いた。
それはそうだろう。
何しろ相手は自分の息子である。
そう簡単に開き直れるものではない。
それが、致命的なスキを生んだ。
ピッケの成れの果ては、一瞬のスキをついて、別の龍族の首を噛み千切ったのだ。
龍族から最初の犠牲者が出た。
それだけならばまだしも、殺された龍族はその場で『闇の龍』となる。
『闇の龍』が二体となり、空の上の戦いも押され始める。
なにより、目の前で『闇の龍』となった仲間に対して、本当に戦うしかないのかという戸惑いが彼らにはあったのだ。
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空も地上も、僕らは追い詰められつつあった。
それを救ったのは、カルディだった。
1人の戦士の命と引き換えに。
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