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第五部 時は流れゆく 第三章 楽園の崩壊

6.神を創造する者

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 リラとルペースを診療所に運び、さらに、縛り上げておいたバスティーニもいったん連れてきた。
 稔は現在リラたちの治療中。
 ルペースも脳震盪を起こしているので、医者としては放っておけないらしい。
 確かに、向こうの世界ならともかく、この島で死体になられても困るが。

 で、僕は診療所の待合室でお母さんと対面中。

「心配したのよ、パドくん」
「ごめんなさい」

 稔と話し合って、とりあえず僕の出自をお母さんに伝えるのはやめておこうと決めた。
 転生とか、神様とか、お母さんにはちょっと信じてもらえそうもないからね。

 ルペースとバスティーニはあくまでも僕の知り合い。
 銃声のような音は爆竹で遊んでいたから。
 ルペースがリラを浚っていったように見えたのも、ふざけて遊んでいただけ。

 結構無理がある説明だけど、僕らが全員子どもの姿なのが幸いして、お母さんはそれ以上そのことについて追及はしてこなかった。

「リラちゃんのケガはどうなの?」

 リラがケガしたことだけは言ってある。
 それも、ナイフで刺されたのではなく、転んで木の枝が刺さったということにしたけど。

「稔……先生が見てくれています。だから、大丈夫だと思います」
「そうね、稔の腕は確かだから」
「信じているんですね、先生のこと」
「ええ、もちろん」

 いいな。稔はお母さんに全面的に信頼されているんだ。

「あの子はね、小さい頃から頑張り屋なの」

 お母さんが稔のことを語り出した。
 この半年、ずっと一緒に暮らしていたけれど、稔が小さな頃の話は聞いたことがない。

「前に言ったでしょう? 稔には病気のお兄ちゃんがいてね。ずっと入院していた。
 稔は病気のお兄ちゃん――勇太って名前だったんだけど――勇太の分も、元気なところを私達に見せようとしてくれた」

 稔は昔から良いやつだったんだな。

「だけど、私は、あの子を傷付けてしまったの」
「……何かあったんですか?」
「ある日、勇太の体の具合が悪くなってね、その時、稔にとてもひどいことを言ってしまった。
 稔はまだ、パドくんとほとんど変わらない年齢だったのに」

 一体何を言ってしまったのか、とは聞かなかった。
 ただ、僕の――桜勇太の体調の変化が、やっぱりお母さんや稔を傷付けていたのだと知り、ちょっと心がチクンとする。

「しばらく、稔は私と口も聞いてくれなかったわ。でも、しかたがない。私はそのくらいひどいことを言ってしまったから」

 お母さんは、結局最後まで、何を言ってしまったのかは語らなかった。
 ただ。

「それでも、稔は勇太が亡くなった後、自分から言ってくれたの。『僕は、将来医者になります。20年後、勇太お兄ちゃんと同じような子を助けられるようになるために』って、そう言ってくれたわ」

 稔。あいつはずっと、僕のことを。

「稔はそういう子よ。だから、リラちゃんも大丈夫」
「はい」

 僕は頷いた。

「僕、ちょっと散歩に行ってきますね」

 そういって、僕は診療所から飛び出した。
 そうしないと、お母さんに涙を見せてしまいそうだったから。

 ---------------

 診療所から出て、木の陰に座ると、本当に涙が出てきた。
 色々な気持ちがぐちゃぐちゃで、悲しいのか、うれしいのか、不安なのか、安心しているのか、それすらも分からなかった。
 僕の心の受け皿から感情があふれ出して、涙を流すことしかできなかったのだ。

 と。

 その時だった。

 僕の周囲の時が止まった。

 唐突に何を言っているのかと思うだろうけど、本当にそうとしか言い様がない。
 風が消え、虫や鳥の囀りも消え、かすかに聞こえていたはずの海の波音も消えている。
 それだけじゃない。
 空には鳥が凍り付いたように停止している。

 まさに、時が止まったとしか言い様がない状況。

(なんだ、これ?)

 いぶかしく感じる僕の目の前に、巨大な人影が現れる。
 白髪と白髭が豊富なその人影は、僕の身長の何十倍もの大きさがあった。

「パド、あるいは桜勇太よ。私は大神デオス。そなたと話をしたい」
「デオス?」

 どこかで聞いたような……そう。バスティーニやルペースが言っていた。

「神様達を作った神様?」
「その認識で間違いはない。そなたを転生させたカルディや、バスティーニ、ルペースも私が創造した者たちだ」

 神様の大本ってわけか。

「ルペース達が失敗したから、今度はあなたが僕を殺そうっていうわけですか?」

 さすがに、神様の神様まで現れたら勝てない気がする。

「そのつもりはない。そもそも、それは不可能だ」
「どういうことですか?」
「神は世界を創る者。創られた後の世界に干渉する術は自ずと限られている。そういうふうにできているのだ」

 よくわからないが、今すぐ襲いかかられることはなさそうだと、ホッと息をつく。

「さっそくだが、そなたに問う」

 大神デオスは僕の都合なんてお構いなしに、一方的な質問をぶつけてくるのだった。
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