神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第五部 時は流れゆく 第三章 楽園の崩壊

2.正体

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 あのあと。
 僕は金髪少年の首根っこを左腕で拘束したまま、その場から駆け出した。

「ごめんなさい」

 お母さんに、一言そう残して走り去った。
 そう、僕は逃げ出したのだ。

 他にどうしたら良いか分からなかった。
 説明する方法も、理解してもらう方法も、助けを求める方法も。
 何も分からなかった。
 ただ、いたたまれなくなって、その場から逃避した。

 島の中央部。
 人気ひとけのない森の中までやってきて、僕は金髪少年を地面にたたき落とした。

『はぁ、はぁ、はぁ』

 彼は激しく息切れしていた。
 手加減はしていたが、僕の力で首根っこを締め付けていたのだ。そりゃあ苦しいだろう。
 骨は折れていないと思うが、痣くらいにはなっているかもしれない。
 同情する気は起きないが。

『お前、一体何者だ? 向こうの世界の人間なのか? 異端審問官の関係者?』

 異端審問官かもと思ったのは、彼らが『神』という表現を使っていたからだ。
 10歳前後に見える彼らが異端審問官とは思えないし、かりにそうだとしても話がかみ合わないのだが、他に思いつかなかった。

『違うな。私は神――いや、元神というべきか』
『何を言っているんだ?』

 自分が神だなんて。
 誇大妄想にとりつかれているのか?

『わからんか。お前を転生させた馬鹿女神、カルディの上司だ。それも「元」だが』
『……まさか』

 僕は息をのむ。
 そして思い出す。

 ――神託。
 教会に僕を始末させようとしたあの言葉。
 それに教会が従わなかったから、今度は神自らがやってきた?
 いや、だが、しかし。

『とても信じられない。だいたい、あなたもさっきの子も神様としての力なんて持ってないじゃないか』

 神様がどんな力を持っているかは知らない。
 だが、銃に頼り、ナイフに頼りなんていうのは全然神様っぽくない。

『あの馬鹿女神の尻拭いで、私と部長は神から人へと堕とされた。デオス様は再びお前の命を奪った暁には、我らを神に戻すと約束してくださったのだ』
『デオス様?』
『我らが神の、そして全ての世界の始祖たるお方だ』

 なんだ、コイツは。
 どこまで話を信じれば良い?
 少なくとも、僕が転生者だと知っていることは間違いない。
 あの神託だけではそこまではわからないはず。
 ならば、本当のことなのか?
 それとも、またルシフあたりの差し金か?

『何故、神が僕を殺そうとするんだ』
『お前が世界を滅ぼすものだからだ』
『僕はそんなことしない』
『私もそう思ったさ、最初は。だが、お前は現に一つの世界を滅ぼしかけたっ!!』
『何のことだよ!?』

 叫ぶ僕に、彼は冷たい目を向ける。

『なるほど、お前は知らないのだな。今向こうの世界がどうなっているかを』
『……どういう意味だ?』
『あの世界はもうダメだ。デネブによって滅ぼされる』
『デネブ?』
『「闇」だよ』
『ルシフのことか?』
『お前達にルシフと名乗ったそれも、デネブの一つだ』

 頭が混乱する。
 なんだ。
 コイツは本当に何を言っているんだ?
 あの世界が滅びる?
 どういうことなんだよ!?

『お前は「闇の卵」を孵した。それからすでに8年。あの世界の人間は――1/50以下になった』

 僕は息をのむ。

『嘘だっ!』
『本当さ。今もどんどん人が死んでいっているだろうな。あるいはすでに滅んでいるか』
『バラヌは、お母さんは、お父さんは、ジラは、スーンは、アル様は、レイクさんは、キラーリアさんは、ピッケは、ルアレさんは……』
『知るか。全てはお前とあの馬鹿女神のせいだ』

 僕の体から力が抜ける。
 いや、ダメだ。
 落ち込んでいる場合じゃない。

『そんなのは、僕が望んだことじゃないっ!!』
『そのつもりがなければ世界を滅ぼしても罪にならないと?』
『それは……』

 問答していたその時だった。

「パドくんっ!!」

 僕の背後から聞こえてきたのは稔の声だった。

「一体、何があったんだ? お母さんが泣きながら診療所にやってきて、銃がどうとか、子どもがどうとか、要領を得ないし……リラちゃんが浚われたとかなんとか……」
「それは……」

 僕は口ごもる。
 説明のしようがない。
 それに、説明したくない。
 稔やこちらの世界のお母さんまで巻き込むわけにはいかない。

「稔……先生には関係ないから。これは、僕らの問題で……」

 言いかけた僕を遮り、稔は声を荒げる。

「本気で言っているならば、怒るよ、パドくん」
「っ……」
「ここまで巻き込んでおいて、『関係ないから黙っていろ』なんて聞けるわけがないだろう。僕の母は気を揉んでいるし、僕も君たちのことを心配している。
 ここで君たちを見捨てたら、僕は自分で自分を一生許せないだろう。君は僕に、君たちを見捨てたという罪悪感を一生持てというのか?」

 その言葉に、僕は息をのむ。
 それはかつて、僕がリラに言ったこと。
 獣人に追われ、ラクルス村から1人で逃げようとしたリラに、僕はなんと言った?

『リラ、あなたは僕やジラに、人を殺してしまったかもしれないという悩みを一生持ち続けろっていうんですか?』

 稔の言っていることは、そういうことだ。
 あの時、僕がリラに感じたように、稔も怒っている。
 僕はとっくに稔を巻き込んでいるのだ。

「説明したら、信じてくれますか? 例えば僕が、異世界から来たと言ったら、稔先生はどう思いますか?」
「医師としての客観的な見解ならば、妄想を誘発する精神病を疑うだろうね」

 やっぱり、そうだよな。

「だが、この半年、僕は君たちと暮らしてきた。その中で、その言葉を裏付ける反応が君たちから見えたことは認める。
 だから、あえて尋ねる。
 君は、君たちは一体何者なんだ?」

 稔のその言葉に、いきなり笑い声が響いた。
 笑い声の主は金髪少年。

「くくくくっ、なるほど。そういうことか。人の身で次元の狭間を抜け出せたのは、ここに弟がいたからなのだな」

 コイツ、日本語もしゃべれるのか。

「君は?」
「私の正体よりも、お前が気にすべきはそっちの子どもだよ、桜稔。彼は君の兄だ」
「……何を言っている?」
「そのままの意味だ。彼は君の兄――桜勇太だよ」

 その言葉に、稔は今度こそ絶句する。

「馬鹿女神が下手くそな同情で異世界に転生させたのさ。
 この世界のフィクションでもよくある話だろう。異世界転生ってやつだ。
 そして、転生先の世界を滅ぼし、自分だけガールフレンドとこっちの世界に戻ってきた。
 そういうことなのだよ」

 稔の顔に困惑が浮かぶ。
 僕は何も言えない。
 どう言ったらいいのか分からない。

 彼の言ったことは事実だ。
 いや、向こうの世界を滅ぼしたうんぬんはともかくとしてだが。

「……本当の……ことなのか……?」

 稔が僕を見て尋ねる。
 僕は、静かに頷いた。
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七草裕也の小説
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