162 / 201
第五部 時は流れゆく 第二章 日の国・兄弟の再会
3.夢か現実か
しおりを挟む
目覚めた僕が最初に認識したのは、真っ白な天井。そして、室内を照らす蛍光灯だった。
さらに、自分の左腕に刺さっている物を見てギョッとする。
それはかつて11年間なじみ深かったもの。自分を生かすために必要だった薬を送り込むための針と管――つまり、点滴。
――ここは……
病室。
蛍光灯。
点滴。
ちょっと首を動かすと、窓があって、その隣にはテレビもある。
パドの世界には存在しないはずの物品。
――全部、夢だった?
パドとしての七年間は夢か幻覚で、おねーさん女神様やリラやラクルス村の皆や、アル王女やレイクさんや……とにかく、そういうのは全部ただの夢か幻だったというのか?
だが、すぐにそれも違うと気がつく。
点滴が刺さった左腕の先に手首がない。
さらに、右腕はまるごと存在しない。
桜勇太には動かせなかったはずの両足を動かすことができる。
この体は桜勇太ではなく、パドのものだ。
それに、この場所。
確かに日本の病室っぽいが、桜勇太が入院していた場所とは違う。
なにより感染症が致命的になる、桜勇太の病状では窓を開けることなんてできなかった。
――何がどうなっているんだ?
そして思い出す。
気絶する前のこと。僕はリラと共に次元の狭間から解放され、上空から落ちた。
あの時。
聞こえてきた言葉は。
「先生、危険ですよ。何が落ちてきたのかも分からないのに」
「分からないから調べるんじゃないか。隕石か、それとも……」
あれは日本語だった。
――と。
病室の扉が開き、看護師らしき白衣の女性が入ってきた。
「気がついたのね。よかったわ」
彼女は日本語でそう言い、ベッドに横たわる僕に駆け寄る。
「え、えっと……」
僕は上半身を起き上がらせようとするが。
「まだ横になっていた方がいいわ。あなた、2日間も気を失っていたのよ。っていうか、日本語分かる?」
「あ、え……はい。分かります」
7年ぶりの日本語での会話。
正直、心許ない。
リスニングはともかく、自分の言葉は不自然ではないだろうか?
いや、今気にすることはそこじゃなくて――
「ここ、どこ? リラは?」
「ここは与実島の診療所。リラっていうのは……あの女の子のこと?」
僕はコクンと頷く。
「彼女も怪我をしていたけど、骨折は右腕だけだったわ。意識は戻っているけれど、日本語が通じないのよ。混乱したのか少し暴れてね、点滴も勝手に抜こうとするし、今は隣の部屋で眠らせているわ」
リラの方が先に目を覚ましたのか。
リラは当然日本語なんて話せない。点滴にしたって、完全に未知のものだ。ワケの分からない世界と言葉に戸惑ってしまったのだろう。
「ところで、君の名前は?」
「……パドです」
少し迷ってから、そう答えた。
「そう。パドくんはどこから来たの?」
「どこから……」
なんと答えればいいのだろう。
もし、本当にここが日本だというならば、『王女様やエルフや龍族のいるファンタジー世界からやってきました』なんて言っても信じてもらえるわけがない。
「………………」
結局、僕は沈黙でしか答えられなかった。
「まあいいわ。とにかく先生を呼んでくるわね。ここで大人しく寝ていて」
看護師さんはそういうと、病室から出て行った。
---------------
1人になって、僕はあらためて考える。
一体、なにがどうなっているのか。
ここは本当に日本なのか?
だとしたら、なぜ僕は――僕とリラは日本に来てしまったのか。
他の可能性――たとえば、幻覚。
ルシフあたりなら僕に幻の世界を見せることくらいできそうだ。
でも、そんなことをして何の意味がある?
あるいは単なる夢。
僕は未だ次元の狭間にいて、日本にやってきたという夢を見ているだけ。
いや、そもそも次元の狭間に行ったこと自体が夢?
まさかと思うけど、この七年間も、今この瞬間も、桜勇太が見ている夢とか……
いや、幻覚だの夢だのっていう結論は逃げだな。
可能性として考慮する必要はあるけれども、それは最後に考えよう。
やはり、僕とリラが次元の狭間を抜けて日本にやってきてしまったと考えるのが一番分かりやすい。
理由は分からない。
仮に次元の狭間が他の世界に繋がっている場所だったとしても、お姉さん神様によれば世界はたくさんあるらしい。
偶然にも転生前の世界にやってくるなんてありうるのだろうか?
仮に、この世界にやってくるのが必然だったとしても、世界は広い。
アメリカでもヨーロッパでも中国でもオーストラリアでも海上でもなく、日本の孤島にやってくる可能性なんて高くない。
いや、そんなことをいったら、そもそも宇宙空間に投げ出されなかったことが奇跡とも思える。
ああ、ダメだ、頭が混乱する。
などと、僕が1人考えていると、先ほどの看護師さんと一緒に白衣の男性が入ってきた。
――この人、どこかで?
見覚えが無いはずなのに、なぜか見たことがあるような気がする顔立ち。
「やあ、目が覚めた? 君は日本語分かるらしいね。僕は君の主治医だよ」
どうやら、お医者さんらしい。
「名前は稔。桜稔っていうんだ。よろしくね」
その言葉に、僕は今度こそ目を見開くしかないのだった。
さらに、自分の左腕に刺さっている物を見てギョッとする。
それはかつて11年間なじみ深かったもの。自分を生かすために必要だった薬を送り込むための針と管――つまり、点滴。
――ここは……
病室。
蛍光灯。
点滴。
ちょっと首を動かすと、窓があって、その隣にはテレビもある。
パドの世界には存在しないはずの物品。
――全部、夢だった?
パドとしての七年間は夢か幻覚で、おねーさん女神様やリラやラクルス村の皆や、アル王女やレイクさんや……とにかく、そういうのは全部ただの夢か幻だったというのか?
だが、すぐにそれも違うと気がつく。
点滴が刺さった左腕の先に手首がない。
さらに、右腕はまるごと存在しない。
桜勇太には動かせなかったはずの両足を動かすことができる。
この体は桜勇太ではなく、パドのものだ。
それに、この場所。
確かに日本の病室っぽいが、桜勇太が入院していた場所とは違う。
なにより感染症が致命的になる、桜勇太の病状では窓を開けることなんてできなかった。
――何がどうなっているんだ?
そして思い出す。
気絶する前のこと。僕はリラと共に次元の狭間から解放され、上空から落ちた。
あの時。
聞こえてきた言葉は。
「先生、危険ですよ。何が落ちてきたのかも分からないのに」
「分からないから調べるんじゃないか。隕石か、それとも……」
あれは日本語だった。
――と。
病室の扉が開き、看護師らしき白衣の女性が入ってきた。
「気がついたのね。よかったわ」
彼女は日本語でそう言い、ベッドに横たわる僕に駆け寄る。
「え、えっと……」
僕は上半身を起き上がらせようとするが。
「まだ横になっていた方がいいわ。あなた、2日間も気を失っていたのよ。っていうか、日本語分かる?」
「あ、え……はい。分かります」
7年ぶりの日本語での会話。
正直、心許ない。
リスニングはともかく、自分の言葉は不自然ではないだろうか?
いや、今気にすることはそこじゃなくて――
「ここ、どこ? リラは?」
「ここは与実島の診療所。リラっていうのは……あの女の子のこと?」
僕はコクンと頷く。
「彼女も怪我をしていたけど、骨折は右腕だけだったわ。意識は戻っているけれど、日本語が通じないのよ。混乱したのか少し暴れてね、点滴も勝手に抜こうとするし、今は隣の部屋で眠らせているわ」
リラの方が先に目を覚ましたのか。
リラは当然日本語なんて話せない。点滴にしたって、完全に未知のものだ。ワケの分からない世界と言葉に戸惑ってしまったのだろう。
「ところで、君の名前は?」
「……パドです」
少し迷ってから、そう答えた。
「そう。パドくんはどこから来たの?」
「どこから……」
なんと答えればいいのだろう。
もし、本当にここが日本だというならば、『王女様やエルフや龍族のいるファンタジー世界からやってきました』なんて言っても信じてもらえるわけがない。
「………………」
結局、僕は沈黙でしか答えられなかった。
「まあいいわ。とにかく先生を呼んでくるわね。ここで大人しく寝ていて」
看護師さんはそういうと、病室から出て行った。
---------------
1人になって、僕はあらためて考える。
一体、なにがどうなっているのか。
ここは本当に日本なのか?
だとしたら、なぜ僕は――僕とリラは日本に来てしまったのか。
他の可能性――たとえば、幻覚。
ルシフあたりなら僕に幻の世界を見せることくらいできそうだ。
でも、そんなことをして何の意味がある?
あるいは単なる夢。
僕は未だ次元の狭間にいて、日本にやってきたという夢を見ているだけ。
いや、そもそも次元の狭間に行ったこと自体が夢?
まさかと思うけど、この七年間も、今この瞬間も、桜勇太が見ている夢とか……
いや、幻覚だの夢だのっていう結論は逃げだな。
可能性として考慮する必要はあるけれども、それは最後に考えよう。
やはり、僕とリラが次元の狭間を抜けて日本にやってきてしまったと考えるのが一番分かりやすい。
理由は分からない。
仮に次元の狭間が他の世界に繋がっている場所だったとしても、お姉さん神様によれば世界はたくさんあるらしい。
偶然にも転生前の世界にやってくるなんてありうるのだろうか?
仮に、この世界にやってくるのが必然だったとしても、世界は広い。
アメリカでもヨーロッパでも中国でもオーストラリアでも海上でもなく、日本の孤島にやってくる可能性なんて高くない。
いや、そんなことをいったら、そもそも宇宙空間に投げ出されなかったことが奇跡とも思える。
ああ、ダメだ、頭が混乱する。
などと、僕が1人考えていると、先ほどの看護師さんと一緒に白衣の男性が入ってきた。
――この人、どこかで?
見覚えが無いはずなのに、なぜか見たことがあるような気がする顔立ち。
「やあ、目が覚めた? 君は日本語分かるらしいね。僕は君の主治医だよ」
どうやら、お医者さんらしい。
「名前は稔。桜稔っていうんだ。よろしくね」
その言葉に、僕は今度こそ目を見開くしかないのだった。
0
お気に入りに追加
765
あなたにおすすめの小説
うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる