159 / 201
【番外編】王女の後悔、少女の悔恨
【番外編33】少女の悔恨
しおりを挟む
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(リラ視点/三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リラにとって、パドが自分を光の元に導いてくれた人だとしたら、アルは光りそのものだった。
ありとあらゆるものを自らの剣で切り開き突き進む――その姿に憧れてすらいた。
テルグスの街を出た翌日、宿の女性だけの部屋で、お互いの出自を明かしたあの夜。
リラは自分の夢を語った。
人族と獣人が――そして、これから会いに行くというエルフや龍族が、さらにドワーフも、みんなが仲良く暮らせる世界。
そんな子供じみた夢。
だが、アルはその子供じみた夢を現実にしようと言ってくれた。
パドが連れ出してくれた光の先を、アルは共に切り開こうと言ってくれたのだ。
リリィやキラーリアもそのアルに着いていくと言った。
それは、少女達の儚い夢の話だったのかもしれない。
だが、リラはそれを本気で夢見た。
龍族の前で自らが女王になった後の夢を語るアルに、リラは着いていこうと思った。
パドと一緒に。
だから。
いざ王位を継げるというところまできて、アルがそれを拒否したことは、リラからすれば最大の裏切りだった。
政治判断とか、戦争とか、そんな話はどうでもいい。
アルの本音が、自分やパドをこれ以上巻き込みたくないというものだということも、薄々分かっている。
分かっていてなお、だからこそリラにとっては裏切りだったのだ。
(もういい、パドのお母さんが治ったら一緒にどこかに行こう)
テルグスの街やラクルス村には行きにくいかもしれない。
だけど、どこかでひっそり暮らすくらいどうにでもなる。
いや、ならないかもしれないが、パドといっしょなら物乞いでも泥棒でも、なんでもやってやる。
そんなやけっぱちな思いを抱えながら挑んだパドの母親の解呪。
パドの母を中心に荒れ狂う衝撃波。
パドの魔力障壁も儚く消え、わけのわからないままリラは死を覚悟した。
気を失ったパドを抱きしめながら、彼と一緒に死ぬならそれもいいかもしれないと思った。
だが、運命は彼女を――彼女とパドを弄ぶ。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
まるで、ルシフに誘われたときのように。
だが違った。
真っ暗になると同時に真っ白にもなった。
矛盾するようだが、ありとあらゆる色が目の前にあふれかえり、脳に焼き付いた。
そして。
リラは見たこともない世界にいた。
---------------
その世界はうつろっていた。
黒いと思えば白くなり、青いと思えば赤くなり、緑と思えば紺に変わった。
何もない世界が、次々に様々な色に変わり、しかしその世界に存在するのはリラと、リラの腕の中で気を失っているパドだけだった。
(なに? なんなの、これ?)
寒い。同時に暑い。
冷たい。同時に熱い。
苦しい。同時に気持ちいい。
綺麗。同時に汚い。
ありとあらゆる矛盾がその世界に存在し、そして同時に何も存在しなかった。
「……リラ?」
そんななか、パドが目をさました。
「……ここ、どこ?」
「わからない」
いいながら、リラはそれでも安心感を覚えた。
この不安定極まりない世界にいてなお、パドと一緒にいられる。
うつろう世界であっても、パドがここにいることは間違いない。
そんなリラたちに、聞き覚えのある『声』が届いた。
『おしえてあげようか、パドお兄ちゃん、リラお姉ちゃん』
耳ではなく、脳に届いたその声は、ルシフのものだった。
(リラ視点/三人称)
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
リラにとって、パドが自分を光の元に導いてくれた人だとしたら、アルは光りそのものだった。
ありとあらゆるものを自らの剣で切り開き突き進む――その姿に憧れてすらいた。
テルグスの街を出た翌日、宿の女性だけの部屋で、お互いの出自を明かしたあの夜。
リラは自分の夢を語った。
人族と獣人が――そして、これから会いに行くというエルフや龍族が、さらにドワーフも、みんなが仲良く暮らせる世界。
そんな子供じみた夢。
だが、アルはその子供じみた夢を現実にしようと言ってくれた。
パドが連れ出してくれた光の先を、アルは共に切り開こうと言ってくれたのだ。
リリィやキラーリアもそのアルに着いていくと言った。
それは、少女達の儚い夢の話だったのかもしれない。
だが、リラはそれを本気で夢見た。
龍族の前で自らが女王になった後の夢を語るアルに、リラは着いていこうと思った。
パドと一緒に。
だから。
いざ王位を継げるというところまできて、アルがそれを拒否したことは、リラからすれば最大の裏切りだった。
政治判断とか、戦争とか、そんな話はどうでもいい。
アルの本音が、自分やパドをこれ以上巻き込みたくないというものだということも、薄々分かっている。
分かっていてなお、だからこそリラにとっては裏切りだったのだ。
(もういい、パドのお母さんが治ったら一緒にどこかに行こう)
テルグスの街やラクルス村には行きにくいかもしれない。
だけど、どこかでひっそり暮らすくらいどうにでもなる。
いや、ならないかもしれないが、パドといっしょなら物乞いでも泥棒でも、なんでもやってやる。
そんなやけっぱちな思いを抱えながら挑んだパドの母親の解呪。
パドの母を中心に荒れ狂う衝撃波。
パドの魔力障壁も儚く消え、わけのわからないままリラは死を覚悟した。
気を失ったパドを抱きしめながら、彼と一緒に死ぬならそれもいいかもしれないと思った。
だが、運命は彼女を――彼女とパドを弄ぶ。
次の瞬間、目の前が真っ暗になった。
まるで、ルシフに誘われたときのように。
だが違った。
真っ暗になると同時に真っ白にもなった。
矛盾するようだが、ありとあらゆる色が目の前にあふれかえり、脳に焼き付いた。
そして。
リラは見たこともない世界にいた。
---------------
その世界はうつろっていた。
黒いと思えば白くなり、青いと思えば赤くなり、緑と思えば紺に変わった。
何もない世界が、次々に様々な色に変わり、しかしその世界に存在するのはリラと、リラの腕の中で気を失っているパドだけだった。
(なに? なんなの、これ?)
寒い。同時に暑い。
冷たい。同時に熱い。
苦しい。同時に気持ちいい。
綺麗。同時に汚い。
ありとあらゆる矛盾がその世界に存在し、そして同時に何も存在しなかった。
「……リラ?」
そんななか、パドが目をさました。
「……ここ、どこ?」
「わからない」
いいながら、リラはそれでも安心感を覚えた。
この不安定極まりない世界にいてなお、パドと一緒にいられる。
うつろう世界であっても、パドがここにいることは間違いない。
そんなリラたちに、聞き覚えのある『声』が届いた。
『おしえてあげようか、パドお兄ちゃん、リラお姉ちゃん』
耳ではなく、脳に届いたその声は、ルシフのものだった。
0
お気に入りに追加
762
あなたにおすすめの小説
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。
運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。
憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。
異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。
攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?
伽羅
ファンタジー
転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。
このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。
自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。
そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。
このまま下町でスローライフを送れるのか?
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる