神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第五部 時は流れゆく 第一章 未来を考えよう

1.王位の行方

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 リラが僕の口元に、匙を持ってきて言う。

「はい、パド、口開けて」
「うん」

 僕は頷き、口を開けた。
 リラが僕の口の中にスープを入れてくれる。
 スープは温かく、少ししょっぱくて美味しい。

「ありがとう、リラ」

 右腕を失い、左手首もない今の僕は、1人で食事するのもままならない。
 いつまでもリラに甘えてはいられないし、せめて食事を自分の口に運ぶくらい、なんとかできるようにならなくてはいけないと思うけど。

 ともあれ、今はリラに手伝ってもらって食事を終える。
 リラも食べ終え、ふうっと一息。

「これからどうなるんだろうね?」

 リラが僕にそう尋ねた。

「分からないよ」

 僕達がテミアール王妃のなれの果ての『闇』と戦ってから、すでに3日が過ぎていた。
『彼女』を倒すことはできた。
 アル殿下やキラーリアさん、ピッケの援護もあったし、『闇の火炎球』と呼ぶべき攻撃も、不意を突かれなければ当たらないですむ。
 僕が左手首から伸ばした漆黒の刃で彼女を斬り捨てるのは難しくなかったのだ。

 いや、もちろん、命がけの戦いだったし、楽勝だったなんて言わないけれど、でも、実際のところ苦戦したとまでは言えない。

 問題はそんなことではなかった。

 あの戦いで、国の重鎮が何人も死んだ。
 大臣をはじめとする貴族達、テミアール王妃、それになにより教皇。
 国にとって失われた人材は大きく、王位継承戦どころではなくなってしまったのだ。

 同時に、戦いが終わった後、国王陛下が倒れた。
 元々老齢だったこともあるだろうし、目の前の惨劇に心を痛めたこともあるのだろう。

 テキルース王子とフロール王女は、現在王宮の一角で軟禁状態におかれているらしい。
 アル王女とレイクさん、キラーリアさんは王宮で何やら色々と忙しい様子だ。はっきりいって、僕らには3人が何をやっているのか分からない。

 大臣達が皆殺しになり、国王が倒れ、王子と王女が事実上失脚した。
 いわば、これまで支配層だった人々がいきなりいなくなったのだ。
 王宮も王都も大混乱であろうことは容易に想像が付く。

 で、僕ら――僕、リラ、ピッケ、ルアレさんは、いまレイクさんのお屋敷にいる。
 混乱のさなかの王宮や、王都を出歩くのは危険という判断で、この3日間お屋敷の中でぼくらはジッとしていた。

「王位は、アル様が継ぐのよね」
「たぶん、そうなると思うけど」

 テキルース王子とフロール王女が失脚した以上、おそらくそうなるのだろう。
 国王陛下が倒れたことを考えれば、すぐにも戴冠式とかがおこなわれるのかもしれない。

 そうなると、その側近はレイクさんとキラーリアさんになるのだろう。
 この国が新たな形になるのだろうけど、はたして、その時に僕らはどうしたらいいのか。

 アル殿下が王女になったら、アル殿下の呪いを解いて、それからお母さんを元に戻してもらって……その後は……

 ラクルス村に帰る?
 お母さんと、リラと、できればバラヌも連れて村に帰って、みんなで平和に暮らしました、メデタシメデタシとなるのだろうか。

 実際、僕の当初の目的はお母さんを元に戻すことで、それはアル殿下が王女になれば叶う。おそらくだけど。
 もしも、王家の解呪法をもってしてもお母さんを元に戻せないならば、僕が一生面倒見るしかない。
 もっとも、僕自身が両手を失って、誰かに面倒見てもらわないと食事も出来ない状況だが。

 だが、本当にそれで終わりでいいのだろうか。
 このまま『あとのことは知らないので、サヨウナラ』と王都を去るのが正しい選択肢だと、本当にいえるのだろうか。

 テキルース王子達が失脚したとしても、諸侯連立との戦いが終わったわけじゃない。
 5種族の話し合いとか融和とかいう話も全く進んでいない。
 ルシフの動向も分からない。

 正直、何も終わっていないんじゃないかという気もする。

「とにかく、レイクさんが戻ってくるのを待つしかないよ」

 僕はリラにそう言った。

 本当は教会にいるお母さんのことが気になって仕方がない。
 教皇が亡くなり、ラミサルさんは未だバラヌと一緒にベゼロニア領だ。
 お母さんが教会でちゃんと面倒を見てもらえているのか、すごく心配。

 とはいえ、勝手に教会総本山に行くわけにもいかないだろう。
 お母さんの様子を見に行くとしても、レイクさんかアル殿下と相談してからだ。

 ――と。

 部屋の外からピッケの声がする。

「パドぉー、リラぁー、アル達が戻ってきたよぉー」

 僕とリラは顔を見合わせ、頷く。
 何はともあれ、3人に会おう。話はそれからだ。

 ---------------

 僕らはアル殿下、レイクさん、それにキラーリアさんと2日ぶりの再会した。
 そして、アル殿下から衝撃の言葉が発せられるのだった。

「王位? それならホーレリオに押しつけてきたぞ」

 いつ女王に即位するのかと尋ねた僕に、アル殿下はあっさりそう答えたのだった。

『……はい?』

 僕とリラ、それにルアレさん、キラーリアさん、ピッケ、ついでにセバンティスさんまで声を揃えてしまった。
 ちなみに、アル殿下の後ろではレイクさんとキラーリアさんが、『やれやれ』という顔を浮かべていた。
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七草裕也の小説
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