上 下
150 / 201
【断章】命の輝き

【断章6】 降龍の時

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(第18代国王 テノール・テオデウス・レオノル/3人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 結局、自分は良き国王でも、良き政治家でも、良き親でもなかったのだろう。

 国王テノール・テオデウス・レオノルは実子のフロールとアルの喧々囂々した言い争いを聞きながら、ウンザリした気持ちでそう自省していた。

 いいわけならばいくらでもある。諸侯連立の連中がこれまでの慣例をやぶって、無理矢理自勢力から妃を押しつけてきたこと。
 その妃――シャルノール・カルタ・レオノルは欲望に溢れた女で、自分の子ども達――つまり、テキルース王子やフロール王女にその野望を受け継がせようとしたこと。

 11年前、キダル達がテキルースや、フロールに暗殺されたと思わしき事件が起きたとき、国王としても親としても自分の不覚を恥じた。
 その後の自分の対応もまずかったのだろう。
 親としての感情が先走り、フロールとテキルースを庇ってしまった。そのことを11年間ずっと後悔していた。

 アルのこともそうだ。メイドのシーラを懐妊させたことが、国王としても男としてもあってはならないことだった。
 自分はシーラもお腹の子供も庇うことができなかった。
 11年前の事件のあと、アルを王家に引き戻したのも、正しい判断ではなかった。
 娘が盗賊となっていたという事実に心をかき乱され、諸侯連立に対抗するために必要と考えてのことだったが、結果として再び兄弟の争いを加速させてしまった。

 ホーレリオが政治から身を引きたがるのも、自分の不甲斐なさをずっと見てきたからだろう。

 テキルースも、フロールも、ホーレリオも、アルも、自分はまともに育てられなかった。
 そのあげく、王家の中で内紛を起こした。

 教皇の行動も予想外だった。
 これまで何故考えもしなかったのだろう。
 教皇からしてみれば、テキルース達は自分の孫を殺した大悪人なのだと。

 フロールとアルの茶番としか思えない言い争いに付き合わされた貴族達は、たとえどちらが勝利したとしても、今後王家を軽んじるだろう。
 こんな争い、他人に見せるものではない。しかも、教会総本山まで巻き込むとは。

 とにかく、この場を収めたい。
 それを優先してしまったがために、さらに状況は混迷としてしまった。

 11年前に神託があったなどという主張は嘘くさい。
 が、11年前の自分の沙汰がそもそも誰の目にも疑わしいものだったのだろう。
 結局のところ、こうなったのは自分の罪だ。

 そこまで、テノールが自覚したとき、さらなる異変が起きる。

 テミアールの暴走。そして『闇』への変化。

(何が……なにがおきている?)

 もはや、事態はテノールが理解できる状況を遙かに超えていた。

 実のところ、テノールは『闇』の存在を認識していなかったのだ。
 客観的に見ればそれがそもそも国王としての力のなさを現わしている。

 そもそも、パド少年に関する神託を知ったのもついさっきであった。
 教会への内偵がなっていない証拠だ。
『闇』についても、本来ならばアルと教皇が接触した事実をつかんで、さらにラクルス村の住人に話を聞くなどしていれば、その存在くらいは知れたはずだ。
 その場合、ついでにふもふもしているギャル女神の存在も判明したはずだが、それは余談である。

 だが、テノールはそれらの行動を取らず、ただただ、日々雑多な仕事とフロールやテキルースの行動に頭を悩ませるのみだった。

 結局のところ、テノールは凡庸である。
 決して悪人ではない。だが、国王の器ではなかったというだけだ。
 そして、キダル達を守れなかった時点で、親としても失格だったというだけのことなのだ。

 ---------------
 
  アルやキラーリア、リラと、テミアールのなれの果てである『闇』との戦いは続いていた。
 惨劇の現場と化した謁見の間。
 死にかけているパド少年。何故か光り始めた教皇の姿。
 もはや、テノールは事態についていけない。

 魔法結界の中で、テノールはレイクにたずねた。

「レイク、アル達は勝てるのか」

 その問いに、レイクは難しい顔を浮かべる。

「おそれながら、私は戦闘については分かりかねます」
「そもそも、テミアールに一体何が起きたのだ?」
「ご説明したいのはやまやまなれど、いまはその余裕がございません」

 確かにそうだろう。
 テキルースはうずくまって震えるばかり。フロールは成り行きについて行けないのか、青ざめている。

 レイクが続ける。

「ですが、ご無礼を承知の上で申し上げるならば、一つだけ言えるのは、神や『闇』にとって、王位継承問題など些末ごとだということでしょう」

 なかなかに過激な発言をするレイク。無礼なと言い返すのは簡単だったが、テノールはなぜかその言葉に納得してしまった。

「そうかもしれんな」

 呟くように言う。

 ――と、その時だった。

 突然轟音が鳴り響く。
 同時に地響きが起き、天井が崩れだした。

「なんだ!?」

 慌てるテノールに、レイクは何故かほっとしたような声で言った。

「ようやく、いらっしゃいましたか」

 今度は何だというのだ?

 ---------------

 天井を破って現れたのは、巨大なドラゴンだった。
 ドラゴンが『彼女』やアル達のそばに着陸すると、その口から一人の青年が下りてきた。

「なかなかに想定外の状況になっているようですね」

 ドラゴンの口から出てきた青年は巨大な剣を抱えている。

 一方、ドラゴンは光り輝く。
 その姿はやがて人の形へと変化する。
 テノールは理解する。

「龍族、か」

 エインゼルの森林から出ることはまずありえないといわれる、の種族がなぜここにいるのか。アルやレイクの様子を見ると、龍族がここに来るのは想定内だったらしい。
 いや、むしろレイクかアルが呼んだようにすら思える。

 ――まさか、アル達が1年間、王都から姿を消していたのは……

 アルは青年から大剣を受け取ると、『彼女』に向けて構えた。

「ふん、これで少しはやれるな」

 そう、アルが言ったとき、こんどは教皇の体から光が消えた。

 そして、瀕死であったはずのパド少年が立ち上がり、左手首に漆黒の刃を呼び出したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

攫われた転生王子は下町でスローライフを満喫中!?

伽羅
ファンタジー
 転生したのに、どうやら捨てられたらしい。しかも気がついたら籠に入れられ川に流されている。  このままじゃ死んじゃう!っと思ったら運良く拾われて下町でスローライフを満喫中。  自分が王子と知らないまま、色々ともの作りをしながら新しい人生を楽しく生きている…。 そんな主人公や王宮を取り巻く不穏な空気とは…。 このまま下町でスローライフを送れるのか?

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

処理中です...