神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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【断章】命の輝き

【断章2】 あなたを助けたい

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 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(リラ視点/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ルシフが初めてリラに接触してきたのは、師匠であるアラブシ・カ・ミランテが死んだときだった。

『パドお兄ちゃんを殺してくれたら、お師匠様を生返らせてあげるよ』

 そううそぶく闇の少年の提案を、リラは一瞥して拒否した。
 パドを殺すつもりなど毛頭無かったし、なにより師匠はそんなことを望んでいないとわかっていたから。

 その後、旅の途中で何度かルシフは接触してきた。
 テルグスの街では、祖父を殺せば、お母さんを生返らせようかともいってきた。
 祖父と母を天秤にかけるような言葉に、リラは怒りを覚えて断った。

 リリィが『闇』と化した時も、彼女を救う方法があるかのごとく言ってきた。
 もちろん、代わりにパドを殺せなどといわれてうなずけるわけがない。

 ルシフの接触を、リラはパドに相談しようか何度も迷った。
 だが、パドにこれ以上負担をかけたくないという思いから、自分の胸の内に仕舞っていた。アルやレイクにも相談していない。
 何も難しいことじゃない。相手の誘いを断り続ければいいだけだ。

 だが。

 今回は違った。
 助ける相手はパド自身。
 パドを助けられるならば、自分の命を差し出したい。

 そう一瞬思ってしまったのも事実だ。

 だが、ルシフの目的をパドが看破し、ルシフの世界からリラとパドは強制的に戻された。

 ---------------

「リラさん」

 教皇がリラに呼びかける。
 
「大丈夫ですか?」

 大丈夫なわけがない。

(私は、パドを救う唯一の方法を絶った)

 後悔はしていない。
 ルシフの言葉に踊らされて契約なんてできない。

 だけど、もう、これでパドを助ける方法はない。

 だから、リラはポロポロと涙を流した。

 その時。
 アルとキラーリアがレイクの結界から飛び出した。

 キラーリアがパドを抱え、アルが『彼女』を殴り飛ばす。

(なにを……?)

 疑問に思う間もなく、キラーリアはパドを抱きかかえて教皇の結界目前までやってくる。

「教皇猊下、彼をお救いください」

 その言葉に、教皇はハッとした顔になり、結界をいったん解いて2人を受け入れる。
 リラたちの前に連れてこられたパドは、もはや虫の息だった。

 リラは教皇にすがる。

「助け……られるの?」
「それは……」

 教皇が目をそらす。

「……私の魔法ではもはや助けられる見込みはないでしょう……それに、結界と回復魔法を同時に使うのは無理です」

 やっぱりそうなのか。
 パドは助からないのか。

 リラはパドにすがりつく。
 失われた左手と右腕。
 それでも、まだパドは生きているのに。

(助けてよ。誰か助けてよ。お師匠様……)

 リラはパドの右肩の傷口を手で触る。
 両手が血まみれになる。

 パドの出血は止まらない。

(おねがい、パド……)

 やはり自分は間違ったのだろうか。
 ルシフの言葉に賭けるべきだった?
 いや、違う、それだけは絶対にダメだ。

 だが。

 このままじゃ、パドが。
 自分の一番大切な人が。

「パド、パド、パドぉ……」

 リラは泣きながらパドにすがりついた。

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(教皇スラルス・ミルキアス視点/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 パド少年にすがりついて泣く少女リラ。

(ああ、私はなんと無力なのだろう)

 教皇は思う。
 自分に彼を助ける能力はない。
 少女の嘆きに応える力はない。

(彼女たちの師匠――アラブシ・カ・ミランテならば、彼を助けられたのだろうか)

 そう考え、意味なきことと思う。
 彼女はもういない。いない人間に、人は救えない。
 彼女は弟子達を助けるために、命を魔力として燃やした。

(命を魔力として――)

 その時、彼は思いついた。
 思いついてしまった。
 パド少年を助けられるかもしれない唯一の方法を。

 自分の魔力だけでは彼を助けられない。
 だが、もしも自分の命を魔力に変えたら?
 あの時、アラブシ・カ・ミランテがそれを攻撃魔法にしたように。

 彼は攻撃魔法は使えない。
 だが、回復魔法ならばこの世界でもっとも優れた能力者だと自負している。それこそ、アラブシ・カ・ミランテにも負けないと。

 だが。
 だが、それは。

 教皇である自分が、アラブシ・カ・ミランテと同じように――

 そんなことが許されるのか。

 別に自分の命が惜しいわけではない。
 いや、自分の命は大切だが、それと引き換えに幼い子どもを助けられるというならば、助けたいとは思う。

 しかし。

 自分は教皇だ。
 神に仕えるからと自分の命は尊いなどとは思わない。
 だが、教会内部の政治闘争も、そして、王家や諸侯連立との関係構築も、まだまだ道半ばだ。
 ここで自分が死ぬのは、あまりにも無責任だと感じる。
 異端審問官のような存在を残したまま、ラミサルにすべてを押しつけるなどできない。

 だが。
 だが。

 パド少年からは命の灯火が消えようとしている。
 この少年がここで死んでいいわけがない。

(ラミサル、申し訳ありません)

 教皇は一度黙想し、そしてキラーリアに言った。

「これから結界を解きます。そして、パドくんを救いましょう。その間、『闇』の攻撃から私達を守りきれますか?」

 キラーリアの攻撃は『闇』に通じない。それを知っていながらも、教皇は女騎士に尋ねた。

「なんとかしてみせよう」

 彼女は即座にそう答えてくれた。ならば、信じよう。

「パドを、助けられるの?」

 不安げに問うリラ。
 教皇は優しく彼女に頷いた。

 キラーリアがリラに言う。

「リラ、私だけでは『闇』を牽制できない。君の浄化の力が必要だ。共に戦ってほしい」

 リラは力強く頷いた。
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七草裕也の小説
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