神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第四部 少年少女と王侯貴族達 第三章 王位継承戦

9.ルシフのシナリオ

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 倒れたままの僕の横に立ち、ルシフはニヤニヤ顔で言う。

『さあ、お兄ちゃん、今度こそ契約しようよ。もう、お兄ちゃんを助けられるのは、ボクだけだよ』

 契約。そう、契約ね。

 ……

 …………

 ………………

 ……するわけないだろ、バーカ。

 僕はそう答えてわらってやる。

 だってそうだろう?
 僕が契約して何になる?
 ルシフとの契約は『闇』になるってことだ。
 確かに死なないで済むかもしれないけど、リラたちは余計ピンチになるだけだ。
 ちょっと考えれば分かる単純な理屈である。

『そうだろうね。お兄ちゃんならそう答えるだろうって思ったよ。
 ……だから、さ。もう一人呼ぶことにするよ』

 ルシフがそう言うと、僕らの目の前に一人の少女――リラが現れた。

『パドっ!! ここって……ルシフ!?』
『やあ、ひさしぶりだね、リラお姉ちゃん』

 ルシフはニヤニヤしたまま言う。

『どういうことよ?』
『いやぁ、このままだとパドお兄ちゃんが死んじゃいそうだからさ。助けてあげたいんだけど、パドお兄ちゃんは絶対契約なんてするもんかって言うんだよね。
 だからさ……』

 ルシフはそこで、これまでで一番凶悪な笑みを浮かべた。

『代わりにリラお姉ちゃんが僕と契約してよ。パドお兄ちゃんを助ける魔法をあげるからさ』

 その言葉に、僕の中の感情が逆立つ。
 コイツはっ!!

『私が頷くとでも思っているの?』
『頷くさ、パドお兄ちゃんはこのままなら死んじゃうよ。そして、王妃様えっと、テミアールだっけ? 彼女は君も、王様達も、王都の人間も、皆殺にしちゃう。
 でも、君が僕と契約して、パドお兄ちゃんを治してあげれば、パドお兄ちゃんがテミアール王妃を倒せるじゃないか』

 リラっ、よせ。

『分かってる。パド、私は頷いたりしない』

 そうだ。
 コイツと契約すれば、今度はリラが『闇』になってしまう。

『もちろんそうなるね。そして、契約にはリラお姉ちゃんが愛する者の死が必要』
『私にパドを殺せって言うの!?』
『ひゅうっ、愛する者っていわれて、あっさりパドお兄ちゃんのことって考えるんだねぇ。ヤケちゃうなぁボク』

 殴りてえ。とりあえず、コイツを殴りたいっ!!

『だからさ、簡単なことだよ。ボクと契約して、リラお姉ちゃんはパドお兄ちゃんのケガを治す。そのあと、あらためてリラお姉ちゃんにはパドお兄ちゃんを殺してもらう』

 意味が分からん。

『でも、パドお兄ちゃんにはボクが与えた刃の魔法があるからね。『闇』になった、リラお姉ちゃんを逆に殺せばいい。あ、もちろんテミアール王妃もね。
 ほら、これでパドお兄ちゃんも助かるし、王都の人たちも助かる。バンザーイっ!!』

 今度こそ、ボクの感情が沸騰した。

 ルシフっ!!
 お前はっ!!

 ボクは立ち上がろうとし、しかし力が入らない。
 そんな僕を横目に、ルシフはリラに近づき、耳元で囁く。

『どうだい、リラお姉ちゃん? リラお姉ちゃんの犠牲だけで、パドお兄ちゃんも、アル王女達も助かるんだ。お得な契約だろう?』

 リラ、よせ。
 ソイツの言うことなんて聞くな。

『私は……私は……』
『どのみち、このままだったら君もテミアール王妃に殺されるさ。それならパドお兄ちゃんを助けた方がいいんじゃないの?』

 リラの表情に迷いが浮かぶ。
 ダメだ。
 迷うな。
 リラっ!!

『私はっ!!』

 よく考えろ、リラっ!!
 お師匠様ならなんていうか。

『お師匠様……ブシカお師匠様なら……』
『決まっているじゃないか。彼女だって最後は自分を犠牲にして君たちを救ったんだ。リラお姉ちゃんも同じようにすればいい』

 違う!
 それは絶対に違う!!

 そうだ。
 そもそも、ルシフの目的は何だ?
 リラを『闇』にして、僕に殺させて、それで一体何が起きるって言うんだ。

 ルシフの目的は世界を滅ぼすこと。
 そして、その為に、僕を『闇』にすること。

 それなのに、リラと契約したところで意味が……

 ……あっ。

 そうか、そういうことなのか!?
 この世界では僕の思いつきがそのまま、ルシフやリラにも伝わる。

 リラがハッとなり、ルシフが苦々しげな表情を浮かべる。

 やっぱり、図星かよ。

 ルシフは、僕に愛する者を殺させたいのだ。
 たとえ『闇』と化したあとであっても、僕がリラを斬れば、僕は愛する者を殺したことになる。
 その時、僕もまた、『闇』に変えられる。
 そういうシナリオだったのだ。

 僕を大けがさせて、リラに契約を迫り、リラを『闇』に変え、そのリラを僕に殺させる。その結果として、僕もまた『闇』へと落ちる。

 なんとも回りくどいやり方だ。だが、僕が最大限にルシフに警戒している中では、確かに他に方法がなかったかもしれない。

『で、それが分かったからなんだって言うのさ。パドお兄ちゃんはこのままなら死ぬし、そうなったら『闇』は止められないよ』

 憎々しげに言うルシフ。

 だが、僕は笑う。

 心配いらないさ。
 アル様もキラーリアさんも、僕なんかよりずっと強いから。
 テミアール王妃のなれの果てなんて、アル様がやっつけてくれる。

『何を馬鹿なことを。ボクの与えた剣もなしに、アルに『闇』が倒せるはずがないだろう!?』

 それも問題ない。
 ピッケがいるからね。

『何?』

 龍の飛行能力なら、レイクさんのお屋敷から王宮までなんて一瞬さ。剣を届けるのもすぐだ。そもそも、ピッケなら『闇』をたおせるかもしれないし。

『連絡できなければ意味がないだろっ!!』

 はははっ。気づいてないのかよ。

『なんのことだ!?』

 レイクさんはね。最初からピッケを王宮に呼ぶつもりだったんだよ。
 本当は国王陛下説得の切り札だったんだろうけどね。今となってはそんな意味はない。
 でも、ピッケかルアレさんか、あるいはセバンティスさんに通信用の魔石は渡しているはずだよ。

 出かけに、レイクさんがピッケに何か頼んでいた。
 あれは、そういうことなのだろう。

 だからさ。
 僕が死んだって問題ない。
 リラも助かるし、アル殿下も、レイクさんも、キラーリアさんも助かる。
 そういうことだ。

 リラが震える声で叫ぶ。

『でも、でも、それじゃあ、パド、あなたは……』

 死ぬだろうね。
 でも、リラや僕が『闇』に変わるよりはマシだ。

 さあ、ルシフ。僕らを元の世界に戻せ。
 僕らは絶対に契約なんてしないから。

『……好きにしろ』

 ルシフが冷たい声でそう言い放ち、僕らは漆黒の世界から追い出されたのだった。
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