神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第四部 少年少女と王侯貴族達 第三章 王位継承戦

6.御前の戦い その5 『闇』に染まる

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「これは壮大なる茶番劇。教会とアルとが手を結び兄上と私を貶め、11年前の国王陛下のお沙汰すらないがしろにしているだけにございます」

 フロール王女の言葉に、アル殿下は不敵に笑った。

「茶番というならば、私とテミアール王妃が、そこのガキを使って世界を滅ぼそうとしているなどと言い出す方が、茶番だな」

 そう。ここでおこなわれていることは所詮茶番劇なのだ。
 フロール王女のいう、アル殿下が世界を滅ぼそうとしているという話も、アル殿下や教皇がいう11年前の神託とやらも、どちらも茶番だ。

 いくらアル殿下でも世界を滅ぼそうなどと考えるわけがない。
 そして、11年前にそこまで重要な神託があったにもかかわらず、教皇が今日まで何一つ動かなかったわけもない。

 どちらも茶番。
 フロール王女の演じた茶番劇に、アル王女と教皇が茶番劇で返しただけだ。

 たぶん、それはこの場にいる者の多くが気づいているのだろう。
 何しろ、僕だって気がつくくらいなのだから。

 そう、誰もが気づいている。
 そしてそのことを誰よりも理解している人間はおそらく――

「もうよい」

 国王陛下は厳かにそう言った。

「教皇猊下、余には神託とやらの真偽など分からん。だが、11年前、安易に子ども達の死を病魔によるものだと発表したことを、今は後悔している」
「それはいかなる意味でしょうか?」
「余は知っていたからな。あの事件の真相を。知った上でそれを握りつぶした」

 その言葉に、テキルース王子の顔が今度こそ真っ青になる。

「父上、それはいかなる意味でしょうか?」

 堂々としたまま、フロール王女が尋ねる。

「フロール。11年前、余はそなたが何をしたか、知っているのだよ」

 そして、国王陛下は語る。

 11年前の連続王子変死事件。ガラジアル・デ・スタンレード公爵と共に調査し、国王は早々に結論を導いていた。

 すなわち、犯人はフロール王女であり、テキルース王子が他の王子達に譲渡したワインに毒物を仕込んでいたのだろうと。
 それは推測ではなく、ほぼ確定した事実であった。

「何しろ、残されたワインをドワーフの専門家達に鑑定させたのだからな」

 ドワーフの技術は人族を超える。毒物の有無を鑑定することもできるのだ。
 その上で、ワインをネズミに与え、毒物が確かに混入されていると確認できた。

 かつてレイクさんはブシカ師匠がいなくなったから、毒の有無を調べられなくなってしまったと言っていた。だけど、それは少年時代のレイクさんの技術やコネではということだ。国王陛下には国王陛下の、スタンレード公爵には公爵のコネがある。
 その中には、亜人種との繋がりもあったのだ。

 だが、国王陛下はその調査結果を公にしなかった。
 諸侯連立との対立を避けるためや、王家の醜聞を防ぐなどの政治的配慮ももちろんあったが、なによりも、もしもおおやけにすればテキルース王子とフロール王女を処刑することになりかねなかった。一人の親としてもうこれ以上子どもを失いたくはなかったのだ。

「だが、その決定は誤りだったのだろうな」

 国王陛下は疲れたように言った。

「今になって、またも子ども達同士の争いを見せつけられるとは。これも全て11年前に曖昧な対応をした余の責任か」

 それは違うと僕は思う。
 確かに11年前の対応も良くないけど、それ以前に国王陛下は子育てを失敗したのだろう。

 フロール王女やテキルース王子だけじゃない。
 アル殿下を放逐したのだって、いかなる理由があろうと親としては失格だと思う。
 それをいったら、そもそもメイドに手を出したことがまずいのだが。

 もちろん、僕の立場でそんなことは言えない。
 だが、言える人間がいた。彼女は高らかに笑い出す。

「ほほほほっ、なんでしょうこれは。なんだというのでしょう」

 おかしげに、あるいは狂ったように笑いだしたのはテミアール王妃。

「馬鹿馬鹿しい、全く馬鹿馬鹿しいですわ。陛下も父上も、今更何を殊勝な顔をして、ああ、おかしい」

 笑い続けるテミアール王妃。その表情は鬼気迫っている。気が狂う寸前といったかんじだ。
 やがて彼女は鬼のような表情になり叫ぶ。

「今更何をいっているのですか、あなた達は。あの子は、ブラルドは私の全てだった。王位などどうでもいい。あの子がいれば、私はそれでよかった。それなのに……」

 テミアール王妃はふらふらと歩き出す。

「あの子を殺したのは誰? フロール王女? テキルース王子? 国王陛下? 父上? 私? いいえ、この世界そのものよ」

 テミアール王妃はまるで歌うかのように、狂って叫ぶ。
 彼女は僕に近づく。

「神託の子、私は貴方を待っていた」

 ――はい?

「貴方が世界を滅ぼしてくれるのを、ずっと待っていたの。さあ、私と共に世界を滅ぼしましょう。彼が導いてくれるわ」

 ――なんだ。
 ――この人は突然何を言っている。

「契約。そう、契約よ。私は彼と契約する。家族を殺し、世界を滅ぼす。全てを闇に返す」

 ――ちょっと待て、これって。

「さあ、私に力を与えなさい。神託の少年と共に、世界を滅ぼす力を――
 ――ルシフっ!!」

 ――おい。まさかっ。

 思う間もなく、テミアール王妃の体が黒く染まっていく。

「まさかっ!」

 キラーリアさんが叫ぶ。
 かつて彼女は見たはずだ。
 リリィが『闇』に染まるところを。

 テミアール王妃はまさに、今、『闇』と化そうとしていた。

 僕は叫ぶ。

「ルシフっ!!」

 お前はどこまで、人を苦しめれば気が済むんだ!?
 だが、僕の叫びも意味なく。

 テミアール王妃は今、『闇』へと姿を変えたのだった。
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七草裕也の小説
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