神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

文字の大きさ
上 下
133 / 201
【番外編】王子と王女と王妃

【番外編29】第二王子テキルース・ミルキアス・レオノル

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

(第二王子テキルース・ミルキアス・レオノル視点/三人称)

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 時はパド達がベゼロニア領を旅出つ数日前に遡る。
 聖テオデウス王国、第三王子テキルース・ミルキアス・レオノル、御年33歳。
 彼は憤っていた。
 誰に対してか。もちろん彼の妹である第二王女フロール・ミルキアス・レオノルに対してだ。

 憤りのままに、王宮内の妹の私室へとやってきて、ノックもせず扉を開けて叫んだ。

「フロールっ!!」

 テキルースの怒号に、フロールは「まぁ」と目を見開く。

「いくら兄上とはいえ、淑女の部屋にノックもなく入ってくるのはマナー違反ですわよ」

 それはその通りだ。その通りだが、それどころではない。

「フロール、キサマはまた勝手なことをしたなっ!!」
「なんのことでしょう?」
「ベゼロニアの件だ。領主にアルを暗殺させようとしたのはお前だろう」

 その怒鳴り声に、フロールはわずかに眉をひそめる。

「まあ、暗殺だなんて恐ろしいお言葉。次期国王陛下が口にすべきではありませんわ」

 あくまでも、優雅な態度を崩さず微笑む妹。

「ふざけるな。時期国王が口にすらすべきでないことを、次期国王の妹が平然とおこなったというのか!?」
「兄上、お声が大きいですわ。わたくし、耳が痛くなりそう」

 微笑みの中に冷たい瞳をのぞかせて、妹は兄を制する。
 それでテキルースも少しだけ落ち着きを取り戻す。
 確かに暗殺だのなんだの、大声で叫ぶようなことではなかった。

 テキルースは意識的に大きく深呼吸する。両手をいったん強く握り、そして力を抜く。
 いらつきを抑えるために、昔からやっている自己流の儀式のようなものだ。
 意識して自分を落ち着かせ、今度は部屋の外に漏れない大きさの声で尋ねる。

「それで、どういうつもりなのだ?」
「ですから、何がですの?」
「何故、今、アルを暗殺させようとしたのかと聞いているのだ」

 この王位継承戦。テキルースはもはや勝負あったと思っている。
 王都の主要な貴族や諸侯の大半からは、すでにテキルース支持を取り付けてある。
 もともと、メイドの産み落とした庶子であるアルと、正式な妃の息子であるテキルースとでは勝負は見えていたが、特にこの1年、アルが王都から出奔していたのが大きかった。
 どこで何をやっていたのか知らないが、アル死亡説を流しつつ、主要な貴族を自陣営に取り込むのは難しくなかったといえる。

 今となっては、はっきりアル支持の立場の貴族は、レイク・ブルテとキラーリア・ミ・スタンレードくらいだろう。
 アルが今になって王都に戻ろうとしている理由は分からないが、とっくに時遅しである。
 暗殺などという手は、リスクこそ多くメリットはほとんど何もない。 

わたくしが命じたという証拠でもあるのですか?」
「とぼけるな。大体お前は、11年前も勝手なことをしたではないか」
「11年前? あらあら、なんのことでしょうか?」

 空惚けるにもほどがある。

 11年前、現国王には4人の王子と2人の王女がいた。
 今生き残っているのは、テキルース王子、フロール王女、そしてホーレリオ王子という第三妃の子ども3人と、その後判明したメイドの子アルのみ。

 残りの2人の王子と1人の王女はすでにこの世にいない。11年前、相次いで病死したことになっている。

 だが、事実は違う。彼ら3人は毒殺された。他ならぬテキルースが彼らに贈呈したワインに毒が混入されていたのだ。
 ワインを用意したのはフロールだ。テキルースはいくらフロールでも異母兄弟を毒殺などとは考えまいと油断してしまった。

 その結果が、11年前の王宮最大の悲劇にてスキャンダルである。

「キダルにい達を殺して、今度はアルも殺すつもりだったか」

 確かに第一王子キダルをはじめ、他の異母兄弟は王位継承権を争う相手だった。当時、テキルースが劣勢に立たされていたことも事実だ。
 だが、だからといって、自分の手で異母兄弟を殺させられたなど許せることではない。

「キダル殿下達は病死ですわ。国王陛下から正式にそう沙汰があったでしょう」

 いけいけしゃあしゃあ言ってのけるフロール。

「当時の事情を知っていれば、誰も信じていない沙汰だがな」

 テキルースはたまにこのフロールが心底恐ろしくなる。
 王宮という場所は決してきれい事だけでまわってはない。だまし合い、欺きあいは日常だし、笑って会談をしながら相手を失脚させたりする政治的パワーゲームが常だ。

 だが。
 だとしても、である。

 王女が異母兄弟を毒殺するなど王宮の常識からもかけ離れすぎている。
 一体、この妹は何を考えているのか。

 テキルースの追求に、フロールは『やれやれ』とばかりにため息をついた。

「だって、見苦しいんですもの」
「見苦しい?」
「ええ、苦労知らずのキダル殿下達も、低俗な世界で育ったアルも、見苦しくてたまりませんわ。見苦しいモノは消したいでしょう? 部屋の中に蠅が飛べば叩き潰しますし、国にとっての蟲も、やっぱり滅ぼしませんと」

 にこにこ微笑んだままフロールは言う。

(こいつはっ)

 テキルースは思う。自分の妹はナチュラルに狂っていると。
 おそらく、『兄弟を殺すなど神をも恐れぬ行為だ』などと叱っても、理解できないのであろう。
 常識も、良識も、倫理も、この妹は常人とずれているのだ。

「だが、アルは生き残ったぞ。代わりにわれらは自分たちの陣営の領地を失った」

 アルの暗殺は失敗し、ベゼロニア領主はとらわれの身だ。
 どうやらアル達はベゼロニア領の管理を教会総本山に委託するつもりらしい。
 枢機卿ラミサルがベゼロニア領に入ったという情報もある。

「まあ、それは何よりですわ」
「……どういう意味だ?」
「あの男、目がイヤらしいんですの」

 一瞬、テキルースは意味が分からない。あの男というのがベゼロニア領主ブッターヤ・ベゼロニアのことだと気がつくのに少しの間を要した。

「あんな男、この国から消えていただかないと。本当はアルと差し違えてくださればよかったのですけど、それは望みすぎでしたかしら」

 小首をかしげてみせるフロール。
 その顔には、一切の反省や後悔はない。

「だが、我らの勢力圏を教会に持って行かれたんだぞ」
「別にかまいませんわ。無能な味方は敵よりも迷惑ですもの」

 追及をかわすための方便ではなく、心底そう思っているらしい。

「それに、おかげで分かったこともたくさんありますわ」
「わかったこと?」

 オウム返しに尋ねてしまうテキルース。この辺りが彼の器の限界でもある。

「そうですね。たとえばアルが教会勢力となんらかの密約を結んだこととか」
「なんだ、それは、何故そうなる?」

 テキルースの反応に、フロールは再びやれやれという表情になる。

「教会総本山はアルにとっても味方というわけでもないはずです。それなのにあっさりベゼロニアの管理を委託したのですよ。何らかの取引があったと考える方が自然ではありませんか」

 その程度も分からないのかといわんばかりのフロール。

「だが、レイク・ブルテとラミサルはかつての学友だぞ.その繋がりではないのか」

 テキルースの推測に、フロールは声を出して嘲笑する。

「何を馬鹿なことを。その2人が子どもの頃の学友関係だというだけで一つの領地を移管するなどありえませんでしょう。なにかありますのよ、教会総本山とアルとをつなぐ線が」

 そういうと、フロールは少しの間考え込んだ。だが、すぐに結論を出したらしい。

「アルと教会総本山をつなぐ線――やはり、彼女でしょうね」
「彼女?」
「ええ、テミアール・テオデウス・レオノル。あの女しかいませんわ」

 少し憎々しげにそう言うと、フロールは立ち上がったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。

なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。 しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。 探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。 だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。 ――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。 Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。 Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。 それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。 失意の内に意識を失った一馬の脳裏に ――チュートリアルが完了しました。 と、いうシステムメッセージが流れる。 それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...