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第四部 少年少女と王侯貴族達 第二章 王都到着

2.闇夜の襲撃

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 キラーリアさんの言葉に従って、僕は皆を起こす。
 敵が襲ってくる気配というが、僕にはサッパリ分からない。
 やはり、キラーリアさんの感覚は動物的だ。

「襲撃ですか、一体何者?」

「ブッターヤの手の者かもしれないし、王都の兄上が直接よこした可能性もある」

 僕は全く別の推論を口にする。

「異端審問官の可能性もありますよね」

 教皇と話がついている以上可能性は低いが、やはりあの神託は教会関係者にとって重大なはずだ。

「獣人……ってことはないわよね?」

 リラがおずおずと言う。
 それはさすがにないんじゃないかな。今さら禁忌うんぬんでリラを殺しに現れはしないだろう。

「『闇』の可能性はないのですね?」

 念のためと、レイクさんがキラーリアさんに尋ねる。

「気配は人のものだ」
「そうですか」

 ピッケが補足する。

「そもそも、臭いからして人族だよぉ」

 レイクさんはほっとした表情。
 相手が『闇』でないなら、キラーリアさんやアル様なら勝てるとふんでいるのだろう。
 逆に僕は緊張。
 今度の相手は『闇』じゃない。人を相手に殺し合いをしなくちゃいけなくなるのか?

「もっとも、1番可能性が高いのはそれらのいずれでもないがな」

 アル様がいいながら剣を抜く。
 ルシフからもらった大剣ではない。人を斬れば『闇』になると示唆された以上、『闇』相手以外では使えないと判断したらしい。ベゼロニア領の武器屋で買ってきた一品だ。
 それでも、大きい剣だけど。

「というと、一番高い可能性はなんなんでしょう?」
「単なる盗賊、だ」

 なるほど。
 単純な可能性だが、なぜか見落としていた。
 街からも村からも離れたこんな場所で襲ってくる相手というなら、まず最初に考えるべき可能性だった。
 それだけ僕らに襲われる理由が多すぎるってことだけど。

 ――と。

 風切り音。

 ――何?

 思う間もなく、アル様に突き飛ばされる。

「何を……!?」

 地面に転がりながら抗議しようとして、それどころじゃないと気がつく。
 四方八方から矢が飛んできたのだ。
 先ほどまで僕がいた場所にのほほんと立っていたら、間違いなく貫かれていた。アル様は僕を救ってくれたのだ。

 アル様が舌打ち。

「ちっ。囲まれているか」

 キラーリアさんが駆け回り、飛んでくる矢をたたき落としていく。
 この暗闇の中、相変わらず人間をやめた動きだ。

「みなさん、私の周りにっ!!」

 レイクさんが叫ぶ。
 キラーリアさんを含め全員がレイクさんの周辺に集まる。
 レイクさんの結界魔法が展開された。

『闇』の攻撃すら弾く結界魔法。
 矢ごときで貫けるものではない。
 ルシフからもらった僕の結界魔法は消費が激しすぎるので使いたくないが、レイクさんのものは問題ない。

「なんとかなったか」

 だが。

「ヒヒーン」

 結界の外にいた馬が嘶いた。
 見ると、荷車を引く2頭の馬のうち、1頭のお尻に矢がかすめたらしい。

「しまった。レイク、馬を抑えろ」

 アル様が言うが。

「無理ですよっ」

 レイクさんが叫ぶ。
 確かにこの状況で結界の外の馬を御するのは不可能だろう。
 このままだと、マズいかも。

 敵も矢による攻撃は無駄だと悟ったのか、それ以上飛んでこなくなる。
 だが、2頭の馬はさらに暴れ狂う。

「しかたありません。レイク殿、結界を解いてください」

 ルアレさんが言う。

「え、しかし……」
「早く!」
「わかりました」

 レイクさんが言って結界を解く。
 ルアレさんは暴れる馬に近づき、両手を馬の鼻に乗せた。

 次の瞬間、馬たちはおとなしくなり、その場に倒れた。

 アル様が尋ねる。

「何をしたんだ?」
「麻酔効果のある花粉を嗅がせました」

 おお、さすがエルフ。

「なるほど、助かったぞ、ルアレ。だが、これで逃げにくくもなったな」

 確かに。
 この状態で逃げるということは、馬と荷車を捨てるということだ。最後の手段としてはともかく、できるだけ避けたい。

「それに、もう一つ分かりました」

 レイクさんが小声で言う。

「連中の中に魔法の知識がある者はいません」

 言うレイクさんに、僕も小声で尋ねる。

「どういうことですか?」
「結界魔法を解いても矢を放ってこないのは、なぜ矢が我々に当たらなかったか理解していないからです」

 なるほど。

「でも、結界魔法って見えるじゃないですか」
「見えませんよ」

 は?
 僕には自分が張った結界魔法も、レイクさんやお師匠様が張った結界魔法もちゃんと見えるんだけど。

「厳密には、魔力のない者には見えません」

 え、そうだったの!?
 今さら知ったよっ!!

 あ、でも、そういえば、エルフの里でバラヌが僕の結界に突っ込んでいったような。
 頭に血が上っているのだと思ったけど、魔力の無いバラヌにはそもそも結界が見えていなかったのか。

「つまり、異端審問官ではないと」
「ええ。同時に王都からの刺客でもないでしょう。さすがに魔法使いの1人も含まない襲撃は考えられませんから」

 となると、つまり。

「盗賊ってことですか」
「その可能性が1番高いかと」

 レイクさんがそう結論づける。

「そうか。ならば話は早いな」

 アル様がいう。

「キラーリア、敵の人数は?」
「20名ほどですね」
「うむ、私とお前とでやれるな」
「はい」

 なかなかに自信満々だ。確かにこの2人に任せておけば盗賊なんてどうにでもなるのかもしれない。
 だけど。

 僕らはアル様の――王女様のために動いているんだ。
 部下になった覚えはないけど、いつもいつもアル様の後ろに隠れていてどうするんだ。
 僕は決心したじゃないか。アル様を王位につけるためになんでもするって。

 だから、僕は言った。

「アル様、僕も戦います」
「大丈夫なのか? 相手は人間だぞ」

 その問いかけに、僕は頷く。

「ここから先、人間と戦いたくないなんて言っていられませんから」

 その僕の言葉に、アル様はニヤリと笑った。

「いいだろう。あてにしているぞ、パド」
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