神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第四部 少年少女と王侯貴族達 第二章 王都到着

1.ある夜の騎士と少年

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 バラヌやラミサルさんに見送られ、僕らはベゼロニア領から一路王都へと馬車で向かっていた。
 馬車の中にいるのは、僕、アル様、リラ、ピッケ、ルアレさん。
 キラーリアさんは馬車の周囲を護衛中。レイクさんは御者役。

 馬車って思いの外揺れる。
 お尻がね、痛がゆいの。

 ベセロニア領都は、まだ石畳とかで舗装されていたからそこまでじゃなかったけど、今現在進んでいる道はそうじゃない。
 はっきりいって、乗り心地最悪である。せめて藁でも敷いてあれば別なのかもしれないけど。

「やっぱり、僕も外を歩いてもいいですか?」
「私もできればそうしたいわ」

 言う、僕とリラに、アル様は黙ってクイっと首を動かした。
 好きにしろって意味だろう。

 僕とリラはいったん馬車を止めてもらって、外に出る。
 外に出てきた僕らに、キラーリアさんが言う。

「どうした、小便か?」
「いいえ、僕らも歩こうと思って」
「護衛なら、私1人で十分だぞ」

 そりゃあそうでしょうよ。
 リラがウンザリした顔で言う。

「そうじゃなくて、お尻が割れそうなの」
「ケツは最初から割れているだろう。それとも獣人は違うのか?」

 これがボケでもなんでもなく、真顔で言うからなぁ。

「馬車が揺れすぎてお尻が痒くなるって意味ですよ」

 僕らがそんなことを言っているうちに、レイクさんは再び馬車を動かし始めた。

 ---------------

 それからしばらくは何事もなく、順調だった。
 ベセロニア領を出て5日目の夜。
 このままなら、3日後には王都にあるレイクさんのお屋敷につくだろうとのこと。

 近隣に村も町もないので、たき火をして野宿。

 アル様とリラは馬車の中、レイクさんとルアレさんとピッケは馬車の横ですやすや寝ている。
 一応、ここら辺は男女でわけているのだ。

 僕とキラーリアさんは見張りと火の番。
 あと、ちょっとしたら、レイクさんとルアレさんに交代する予定だ。

「パド、私が口出しすることでもないとこれまで言わなかったんだがな、あれでよかったのか?」
「何のことですか?」
「バラヌのことだ」

 ラミサルさんに――教会に預けたバラヌ。
 僕だって、後ろ髪を引かれないわけじゃない。

「ベストな選択肢だったかは分かりません。でも、あのままバラヌを連れて行きたくはありませんでした」

 血まみれの晩餐会会場。震えて泣いて気を失ったバラヌ。
 あんなのはダメだ。ここから先は、5歳児を連れていける世界じゃない。

「そうか……」

 キラーリアさんはそこで一度押し黙る。
 しばしして。

「……お前やリラやバラヌは、私が怖いか?」

 尋ねられ、僕はなんと応じたらいいのか分からなかった。
 沈黙したままの僕に、キラーリアさんは言う。

「私は、自分が恐ろしい」
「どうしてですか?」
「あの時、アル様が毒殺されたと思い込んで、私は剣を振るった。そこに一片の躊躇もなかった。あるじを殺された騎士というのはそういうものだ」

 騎士道なのかな?
 僕にはよく分からないけど。

「だが、アル様は死んでいなかった。最初から織り込み済だったのだ」
「そうみたいですね」
「私はそのことに気がつかなかった」

 いや、それは言わなかったレイクさんの方が悪いんじゃないかな。

「あの後、私はレイクに尋ねたよ。『なぜ私に教えておいてくれなかったのか』と。
 私はアル様の騎士だ。護衛として、知っておかねばならないことだと」

 キラーリアさんの立場ならそう思うだろう。
 でも、なんで今こんな話を僕にしているの?

「それに対して、レイクは言った。護衛だというならば、アル様が毒を盛られるかもしれないとなぜ考えつかないのか。そこをもっと考えれば、伝えるまでもなくアル様とレイクが何らかの対策をしていると考察できるはずだと」

 それはちょっと難しいんじゃないかなぁ。
 言っちゃあ悪いけど、キラーリアさんは、ほら、頭の出来は色々と不幸だし。どこぞのコギャル神様の言い方なら、ステータスを剣術に全振りしているかんじだし。

「私は何も反論できなかったよ。レイクの言葉に納得してしまった」
「煙に巻かれてごまかされたようにも聞こえますけど」
「そうかもしれんな。いずれにしても、アル様が殺されていなかったのだったら、兵士を皆殺しにする必要は無かった」
「そうなんですか? 僕にはあの時の状況はよく分かりませんけど、兵士に襲いかかられていたんですよね?」

 アル様が服毒死していなかったとしても、兵隊に掴まるわけにはいかなかったはずだ。

「確かにそうだが、あの程度の雑兵ならば、殺さずに無効化できた」

 うわ、すごい自信。20対1くらいだったハズなのに。

「実際、君やルアレ殿は兵士を殺さずにやり過ごした」

 いや、それは状況が全然違うし。

「それなのに私は……兵にだって、家族はいる。彼らの妻や子どもは私やアル様を許さないだろう。私の思考の浅さが、彼らを殺してしまった」

 ――えっと、ひょっとしてキラーリアさんはすごく悩んでいるのかな?

 あの血まみれの部屋に佇むキラーリアさんを見てから、正直なところ僕は彼女やアル様、それにレイクさんを恐れていた。
 人を殺して、それが当然という顔をしている3人は、やっぱり僕とは違うのではないかと。
 その一方で、自分もこれからはそういう覚悟が必要なんじゃないかと悩んでもいたのだ。

「人を殺すというのは重い決断だ。その重い決断を、私は誤った判断でおこなってしまった」

 苦しげに独白するキラーリアさん。
 僕はどう反応したらいいのだろう。

「私は力を持っている。君やアル様のように特別な力を誰かから与えられたわけではないが、剣術はこの世界でトップクラスだと思う」

 なに? 今度は自画自賛?
 結局、キラーリアさんは何が言いたいの?

「力ある者は、その行使を慎重に行なわなければならない。私の師は私に常にそう言っていた。今ならその意味がよく分かる」

 そういえば、ブシカお師匠様も似たようなことを言っていたな。

「パド、君は私よりもさらにすごい力を持っている。だから、私のように愚かなことはしないでほしい」

 ドキ。

「もしも、君が私のようにならなければならないと思って、弟を引き離したというなら、その考えは変えてほしいんだ。人を殺さずに解決しようとした君の対応は間違っていないと思うから」

 胸がチクリと痛む。
 確かに僕は、自分が誰かを殺すことになるかもしれないと思っていた。
 そんなところをバラヌに見られたくないとも思った。

「騎士としては失格の考え方かもしれないが、人を殺すのは、やはりあまり良いことではないのだろうと、私は思う」

 人を殺したキラーリアさんの言葉だからこそ、それはとても重い発言だった。
 そりゃあ、人殺しはよくない。そんなこと、僕だってしたくない。

「でも、もしもリラが殺されそうになって、僕が相手を殺せば助けられるというなら、僕は……」

 僕のつぶやきに、キラーリアさんは頷いた。

「誰かを助けるために剣を振るう。それが騎士だと私は思う。だから、君が誰かを助けるためにその力を振るうことを止めはしない。だが、君の力はあまりにも大きい。だから、言っておきたかった。
 すまんな。やはり私は馬鹿だ。言葉が上手くまとまらん」

 僕は、お師匠様の言葉を思い出す。

『パド、厳しい言葉だとは承知した上で言う。
 大きな力を持つ者は、他の者よりも遙かに自分の行動に対して責任を持たなくてはならない。200倍の力と魔力を持つ者として、あんたはこれからどう生きる?』

 崩壊しかけたらラクルス村でお師匠様に問われたこと。その後も何度も何度も言われた言葉。キラーリアさんが言いたいのは、たぶんそういうことだ。

「ありがとうございます。考えてみます」

 僕はそう言った、が。
 いつの間にやらキラーリアさんの顔がとても険しくなっていた。

「だが、考えている時間は無いかもしれん。パド、レイクやアル様達を起こすぞ」
「え?」
「敵だ。囲まれている」

 端的に言って、キラーリアさんは剣を握って立ち上がったのだった。
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