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第四部 少年少女と王侯貴族達 第一章 王都への行程

5.強かったんですね、ルアレさん

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 壁を破って僕らが飛び込んだ部屋は、無人の物置だった。

「それで、これからどうします?」

 ルアレさん、そればっかりだなぁ。
 ある意味で、人族同士の争いを楽しんでいるかのよう。

 一方、リラの腕の中で不安そうな声を上げたのはバラヌ。

「お兄ちゃん……」

 そりゃあそうだよね。いきなり兵士に剣を向けられるとか、5歳児には刺激が強すぎる。
 リラも一見気丈に振る舞っているが、顔が少し青ざめている。

「大丈夫。バラヌもリラも僕が護るから」
「とにかく逃げましょう。バラヌ、僕に掴まって」

 今はこれ以上会話をしている余裕はない。
 リラからバラヌを預かって抱っこすると、僕は部屋の反対側の壁へと向かう。
 僕は拳を叩き付けてさらに壁を破壊。

「どこに向かうんですか?」

 ルアレさん、少しは大人として考えてよっ!!

「できればアル様達と合流したいんですけど、晩餐会の場所ってわからないですよね?」

 言いながら、今度は廊下に飛び出す僕。ピッケを抱きかかえたルアレさんとリラも追いかけてくる。

「そもそもこの状況を考えると本当に晩餐会が開かれたかどうかという話だと思いますけど」

 確かに。

 などと言っていると、当然のことながら兵士達が剣を構えて駆け寄ってくる。
 その数7人。2人増えてる。たぶん、これからもっと増えるだろう。

 これは単純には逃げられないかな。

 ルアレさんも同感らしく、僕に尋ねる。

「あくまで逃げるんですか?」
「僕が戦うと殺しちゃいますし」
「では、殺さなければ問題ないと」
「まあ、そうですけど、ピッケやリラの力はあまり使いたくないです」
「そうですか。リラさん、ピッケ様をお任せしてもいいですか?」

 そう言って、ピッケをリラに渡すルアレさん。

「どうするんですか?」

 ルアレさんは僕のその問いには答えない。
 だが、異変はすぐに起きた。

 僕らを追いかけていた兵士達が騒ぎ始める。

「な、なんだ。これは!?」
「ばかな、こんなところにストーンゴーレムだと!?」
「サンドゴーレムにビッグスコーピオンまで!!」

 ――……?
 ――何がどうなっているんだろう?

 もちろん、ゴーレムなんてどこにもいない。

 ――いや。

 そうか、砂漠での幻覚。
 あれはルアレさんが僕らに見せていたのだった。
 今、ルアレさんは兵士に同じ事をしたのだ。

 さらに。

 ルアレさんはポケットから何かを取り出す。

 ――ベニーラの花?
 ――さっきの部屋の花瓶の中にあったヤツか?
 ――いつのまに持ってきたんだろう。

 だいたい、そんな物を取り出してどうするつもりなのか。
 などと思っていると、ルアレさんの手の中で、ベニーラの花の茎がスルスルと伸びる。

 幻覚だけでなく、こんな力もあるのか。
 いや、むしろエルフの能力としてはこっちの方が一般的なのかも。

 ルアレさんは幻覚で混乱する兵士達の顔に、ベニーラの鞭(仮名)を叩き付ける。
 トゲトゲの鞭での不意打ち。これは痛い。

「ぐぁっ」
「な、なんだ、どこから攻撃が!?」

 どうやら幻覚のせいで、僕らや鞭は見えていないらしい。
 ほとんど一方的に7人の兵士達の顔面を、ベニーラの鞭でしばき倒すルアレさん。
 いや、確かに兵士達は鎧を身につけているから顔面くらいしか鞭攻撃は効きそうもないけどさ。
 兵士達は顔面血だらけになって倒れる。

 その様子を見ていたリラがひと言。

「うわぁ……」

 うん、確かに『うわぁ』としか言いようがない光景だ。
 というか、これ、子どもは見ちゃダメなヤツじゃないかしら。
 いまからでもバラヌの視界を塞いだ方がいいかな。

 どうやら7人の兵士達は完全に気を失ったみたいだ。

「強かったんですね、ルアレさん」
「弱いといった覚えはありませんよ。人族の世界になぜ私が送り込まれていると思っているんですか?」

 自分の身は自分で守れるってことね。
 兵士が現れたときの余裕も、ピッケの力があるからというよりは、自分で対処可能な範囲だったからってことか。

 とはいえ、これだけの騒ぎが起きたのだ。
 他の兵士が集まってくるのも時間の問題だろう。

 というか、すでに向こうの階段から兵士が上ってきている。

「で、どうするんですか?」

 だから、ルアレさんも少しは考えてっ!!

 そう叫びたくなるが、現状1番役に立っているのも彼だ。

「とにかく、アル様と合流しないとですけど……」

 この広い屋敷のどこにいるのやら分からないんだよなぁ。
 ここはいったん脱出して後で合流するのがベターかも。
 アル様とキラーリアさんなら、心配するまでもなさそうだし。
 でも、どこで合流したものやら……

「うーんと、つまりアル達の居場所が分かればいい?」

 リラの腕の中のピッケが僕に尋ねる。

「そうだけど、それが分からないから困っているわけで……」
「分かるよ」

 ピッケはそう言うと、リラの腕の中からスルリと飛び出して走り出す。

「こっちだよー」

 ――え、マジ?

 慌ててリラが叫ぶ。

「ちょ、ピッケ、どうしてわかるのよ!?」
「だって、あの3人の匂いするじゃん」

 …………

『匂い!?』

 僕とリラは同時に叫んだ。

「ひょっとして、龍族って嗅覚が発達しているの?」
「うーん、オイラよくわかんなーい」

 信じていいのか、これ。
 しかし、他に手がかりもないことだしなぁ。

 僕らはピッケの後を追って走り出したのだった。

 ---------------

 途中、館の使用人達や兵士となんども戦った。
 いや、使用人達の多くは悲鳴を上げて逃げ出したというのが正しいけど。

 で、兵士達はルアレさんの幻覚と鞭でほとんどやっつけられた。
 正直、僕が手を出すまでもない。

 やがてたどり着いた場所は、1階のとある部屋の前。
 やたら立派で大きな扉だ。

「この中だよー」

 ピッケが言う。

「よし、行きましょう」

 僕は言って扉を押した。

「あ、ちょっと待ってっ!!」

 ピッケが言うが、僕はその前に扉を開けてしまった。

 その直後にあたりに悲鳴が響きわたる

 僕はすぐさま、安易に扉を開けたことを後悔したのだった。
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