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第四部 少年少女と王侯貴族達 第一章 王都への行程
1.ドラゴンは乗り物じゃない!!
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唐突ですが、現在僕らは死にかけています。
いきなり何が起きているのか思うかもしれないけど、いや、本当に生きているのが奇跡だと思う。
それくらい、ピッケの口の中に入って空を旅するのは命がけだった。
いや、だってさぁ。冷静に考えれば当たり前だけれど、ピッケだって息をするわけね。
それもあの巨体を支えるほどの空気を吸い込んで吐いてを繰り返す。
口の中にいる僕ら――僕、リラ、バラヌ、アル様、レイクさん、キラーリアさん、ルアレさん――からすれば、台風か竜巻かというレベルの空気が渦巻くわけだ。
ピッケが息を吸い込むたびに、冗談ではなくゴックンされそうになる。逆に息を吐く時は皆で口から転がり落ちそうになる。
喉の奥まで飲み込んでしまったら吐き出せないらしいし、口から飛び出して上空100メートル以上の高さから転がり落ちたら転落死一直線だ。
僕も最初は200倍の力でピッケを傷つけてしまうかもなどと思って遠慮していたが、すぐに歯にしがみつくことになった。
どうやら龍族の歯は想像以上に固いらしく、僕の力で抱きしめても割れも砕けもしない。
アル様とルアレさんも歯にしがみついていないとキツいようで、特にルアレさんは青ざめていた。
唯一なんにも掴まらずに平然としているのがキラーリアさん。彼女のバランス感覚はもはや天才という域を超えている気がする。
リラとバラヌとレイクさんの3人はあっちに転がり、こっちに転がり、危なっかしいったらない。
転がる彼女らを、キラーリアさんが何度も助けていた。
僕も手伝いたいけど、僕の左手はあれだし、なにより自分のことで精一杯だ。
「おい、これはさすがに誰か死ぬぞっ!!」
アル様が珍しく弱音っぽいことを叫ぶ。
その言葉に反応したのはピッケだけだ。
「うん? どーしたの?」
いや、ピッケ、お前はしゃべるな。口を開けるな、余計僕らが危ない。
「いいから、地上に下りてくれ、ピッケ」
「えー、でも、王都までまだあるよー」
「いいから下りろぉ!! あと、下りるまで喋るなっ!!」
うん、アル様の悲鳴と泣き顔っぽいレアな表情、いただきました。
---------------
地上に下りて、ピッケの口から出て。
リラが僕ら全員の気持ちを代弁した。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思ったわ」
レイクさんも頷く。
「いくらなんでも、無茶でしたね」
うん、本当に。
ドラゴンに乗って空を飛ぶって、前世のファンタジー漫画とかではよく見かける光景だったけど、実際にやったら命がけどころじゃない。
アル様も半ば涙目。
「さすがに、王都に戻る前に転落死というのは間抜けにもほどがある」
ルアレさんもキツそうで。
「龍の方にご意見を申し上げるのも気が引けるのですが、私もこの方法は無謀であったと思います」
そんな僕らに、人間形態に戻ったピッケはひと言。
「うーん、そっかぁ。良い方法だと思ったんだけどなぁ」
そんな僕らを不思議そうに見ているキラーリアさん。彼女はバラヌを背負っている。どうやらバラヌの方は途中から気絶していたらしい。無理もないけど。
「いや、そこまで悪い手だったとは思わないぞ。実際、少し練習すれば皆も大丈夫になるだろう」
そのキラーリアさんの言葉に、ピッケ以外の全員が声をそろえてツッコミをいれた。
『なるかっ!!』
うん、キラーリアさんは間違いなく天才だけど、同時にこれ以上なく天然なのがよく分かったわ。
---------------
さて。
現状一番の問題は。
「ここは結局どこなんだ?」
アル様が代表して疑問を口にする。
周辺には木々しかない。人工物は一切見えない。
今はまだ明るいが、夜になったら真っ暗だろう。できればその前に現在位置を確認しておきたいところだ。
「うーんとねぇ、王都まであと4/5くらいまでは来ていたよぉー」
ピッケが答える。
「とすると、タルキア領かベゼロニア領のいずれかでしょうか。タルキアならともかく、ベゼロニアだと色々厄介ですね」
レイクさんが言う。
「厄介ってどういうことですか?」
「タルキアの領主は王家に近いですが、ベゼロニアの領主は諸侯連立盟主の親戚筋ですから。これまでの旅でも諸侯連立よりの領はできるだけ避けてきましたし」
なるほど。
「ふむ、ピッケ、どうなんだ?」
アル様が尋ねたのだが。
「えー、オイラそんなの分からないよぉー、王都までの距離と方角だけは父ちゃんに聞いたけど」
なんとも頼もしいことで。
「なんにせよ、ここでこうしていても仕方がないのでは? まずは街道か人里を探してはどうでしょう」
ルアレさんのその提案が、最も前向きなものだった。
「うーんとね、村ならここから北にあったよぉー。南にもあったけど北の村の方がここから近いと思うし、王都も北だから、行くならそっちかなぁー」
上空から下界を確認できていたのはピッケだけのようだ。彼の案内に従ってその村に歩く僕ら。
「しかし、確かに龍族の飛ぶスピードは凄まじいな。半日も経たずに王都まで4/5の行程とは」
アル様の感心するような声はもっともだ。
なにしろ、エインゼルの森林から王都まで、徒歩なら50日はかかるらしいからね。
それだけに、上空で僕らにかかった加速度ってやつも凄まじくて体が潰れそうだったけど。冗談抜きにちょっとした宇宙飛行士の気分が味わえたよ。
――ともあれ、僕らは夜になる前にその場所にたどり着いたのだった。
いきなり何が起きているのか思うかもしれないけど、いや、本当に生きているのが奇跡だと思う。
それくらい、ピッケの口の中に入って空を旅するのは命がけだった。
いや、だってさぁ。冷静に考えれば当たり前だけれど、ピッケだって息をするわけね。
それもあの巨体を支えるほどの空気を吸い込んで吐いてを繰り返す。
口の中にいる僕ら――僕、リラ、バラヌ、アル様、レイクさん、キラーリアさん、ルアレさん――からすれば、台風か竜巻かというレベルの空気が渦巻くわけだ。
ピッケが息を吸い込むたびに、冗談ではなくゴックンされそうになる。逆に息を吐く時は皆で口から転がり落ちそうになる。
喉の奥まで飲み込んでしまったら吐き出せないらしいし、口から飛び出して上空100メートル以上の高さから転がり落ちたら転落死一直線だ。
僕も最初は200倍の力でピッケを傷つけてしまうかもなどと思って遠慮していたが、すぐに歯にしがみつくことになった。
どうやら龍族の歯は想像以上に固いらしく、僕の力で抱きしめても割れも砕けもしない。
アル様とルアレさんも歯にしがみついていないとキツいようで、特にルアレさんは青ざめていた。
唯一なんにも掴まらずに平然としているのがキラーリアさん。彼女のバランス感覚はもはや天才という域を超えている気がする。
リラとバラヌとレイクさんの3人はあっちに転がり、こっちに転がり、危なっかしいったらない。
転がる彼女らを、キラーリアさんが何度も助けていた。
僕も手伝いたいけど、僕の左手はあれだし、なにより自分のことで精一杯だ。
「おい、これはさすがに誰か死ぬぞっ!!」
アル様が珍しく弱音っぽいことを叫ぶ。
その言葉に反応したのはピッケだけだ。
「うん? どーしたの?」
いや、ピッケ、お前はしゃべるな。口を開けるな、余計僕らが危ない。
「いいから、地上に下りてくれ、ピッケ」
「えー、でも、王都までまだあるよー」
「いいから下りろぉ!! あと、下りるまで喋るなっ!!」
うん、アル様の悲鳴と泣き顔っぽいレアな表情、いただきました。
---------------
地上に下りて、ピッケの口から出て。
リラが僕ら全員の気持ちを代弁した。
「はぁ、はぁ、死ぬかと思ったわ」
レイクさんも頷く。
「いくらなんでも、無茶でしたね」
うん、本当に。
ドラゴンに乗って空を飛ぶって、前世のファンタジー漫画とかではよく見かける光景だったけど、実際にやったら命がけどころじゃない。
アル様も半ば涙目。
「さすがに、王都に戻る前に転落死というのは間抜けにもほどがある」
ルアレさんもキツそうで。
「龍の方にご意見を申し上げるのも気が引けるのですが、私もこの方法は無謀であったと思います」
そんな僕らに、人間形態に戻ったピッケはひと言。
「うーん、そっかぁ。良い方法だと思ったんだけどなぁ」
そんな僕らを不思議そうに見ているキラーリアさん。彼女はバラヌを背負っている。どうやらバラヌの方は途中から気絶していたらしい。無理もないけど。
「いや、そこまで悪い手だったとは思わないぞ。実際、少し練習すれば皆も大丈夫になるだろう」
そのキラーリアさんの言葉に、ピッケ以外の全員が声をそろえてツッコミをいれた。
『なるかっ!!』
うん、キラーリアさんは間違いなく天才だけど、同時にこれ以上なく天然なのがよく分かったわ。
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さて。
現状一番の問題は。
「ここは結局どこなんだ?」
アル様が代表して疑問を口にする。
周辺には木々しかない。人工物は一切見えない。
今はまだ明るいが、夜になったら真っ暗だろう。できればその前に現在位置を確認しておきたいところだ。
「うーんとねぇ、王都まであと4/5くらいまでは来ていたよぉー」
ピッケが答える。
「とすると、タルキア領かベゼロニア領のいずれかでしょうか。タルキアならともかく、ベゼロニアだと色々厄介ですね」
レイクさんが言う。
「厄介ってどういうことですか?」
「タルキアの領主は王家に近いですが、ベゼロニアの領主は諸侯連立盟主の親戚筋ですから。これまでの旅でも諸侯連立よりの領はできるだけ避けてきましたし」
なるほど。
「ふむ、ピッケ、どうなんだ?」
アル様が尋ねたのだが。
「えー、オイラそんなの分からないよぉー、王都までの距離と方角だけは父ちゃんに聞いたけど」
なんとも頼もしいことで。
「なんにせよ、ここでこうしていても仕方がないのでは? まずは街道か人里を探してはどうでしょう」
ルアレさんのその提案が、最も前向きなものだった。
「うーんとね、村ならここから北にあったよぉー。南にもあったけど北の村の方がここから近いと思うし、王都も北だから、行くならそっちかなぁー」
上空から下界を確認できていたのはピッケだけのようだ。彼の案内に従ってその村に歩く僕ら。
「しかし、確かに龍族の飛ぶスピードは凄まじいな。半日も経たずに王都まで4/5の行程とは」
アル様の感心するような声はもっともだ。
なにしろ、エインゼルの森林から王都まで、徒歩なら50日はかかるらしいからね。
それだけに、上空で僕らにかかった加速度ってやつも凄まじくて体が潰れそうだったけど。冗談抜きにちょっとした宇宙飛行士の気分が味わえたよ。
――ともあれ、僕らは夜になる前にその場所にたどり着いたのだった。
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