神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ 第三章 龍と獅子と少年少女達

11.いざ、王都へ

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 さて、一路王都に向かうことになった僕らだけど。
 その前に顔合わせをしなくちゃいけない相手がいる。
 そう、王都まで乗せて飛んでくれるという龍族の長の息子だ。

 そのために、僕ら――僕、アル様、リラ、レイクさん、キラーリアさん、バラヌ、それとルアレさんは、龍族の長に促されてエルフの里の中央広場にやってきていた。

「そろそろ、やってくるはずだ」

 龍族の長の言葉通り、しばしすると上空にドラゴン形態の龍族が現れた。他のドラゴン形態よりも一回り小さいが、それでも7~8メートルはあるだろうか。
 金色のドラゴンはゆっくりと下りてきて、人型形態になった。

 ――って、え?

「よー、オイラがピッケル・テリケーヌ。通称ピッケだよー。よろっ!」

 長とはあまりにも違う、威厳なんて欠片も感じられない口調で言った彼は、僕らに駆け寄ってくる。

「えっとぉ、人族の長の娘ってどの人? あんた? あんた? それともあんた?」

 彼は、リラ、キラーリアさん、アル様を次々に指さし尋ねる。
 僕ら――厳密には、僕とリラとアル様とレイクさんの顔が引きつる。

 代表してレイクさんとアル様が言う。

「これは……」
「長の子ども、とは聞いていたんだが」
「こういう意味で子どもだとはおもいませんでした」

 そう。僕らの前でひたすらはしゃいでみせる長の息子――ピッケの人型形態は、どうみてもジラと同じくらいの歳に見える少年だった。

「あー、なんだよー、失礼だなぁ。オイラ、こう見えてもアンタよりも長生きしているんだぞー」

 そこまで言ったピッケの頭を、龍族の長がゴツンと叩く。

「イタタ、なにすんだよ、父ちゃん」
「失礼なのはお前の方であろう。少しは長の息子らしい言動をといつも言っているはずだ」
「ふーんだ。父ちゃんが大仰すぎるんだよ。いまどきそんなん流行らないよーだ」

 まあ、龍族にしろエルフにしろ、長の話し方が大仰すぎるのは事実だけどね。

 アル様がその様子を見て、次に、僕、リラ、バラヌ、キラーリアさんに視線を送り――そして、頭痛がするとばかりに頭を抑えながら言った。

「なあ、レイクよ、私は女王になりに行くのか? それとも子育て職員になりに行くのか?」
「……あえて、ノーコメントです」

 確かに、パーティメンバーの子ども率高すぎですよね……

「っていうか、私も子ども扱いなのですか!?」

 キラーリアさんのツッコミには誰も答えなかった。

 ---------------

 その後、おのおの準備もあるだろうからと、旅立ちは半日後として、それぞれの部屋に戻った。
 といっても、僕には準備なんて何もない。

 だから、僕は紙と筆を借りることにした。
 ラクルス村の村長やお父さんに手紙を書こうと思ったのだ。
 王都ははるか大陸の北だ。この世界の郵便制度だと、大陸の南のラクルス村まで王都から手紙が届くかどうか分からない。この地の近くから出せば、まだ届く可能性が高い。
 レイクさんに、手紙を書くなら今ですよと言われたのだ。

 実際、伝えなくちゃいけないことは山ほどある。
 お師匠様の死と僕らの旅立ちについては、アボカドさんに軽く伝えてもらったけど、その後色々なことがあった。

 とはいえ、どこまで書いたものか。
 僕は文章を書くのが苦手だ。苦手というか、ほとんど経験が無い。
 この世界の文字もやっと覚えたばかりだ。

「うーん」

 頭を悩ませつつも、3通の手紙を完成させる。
 それぞれお父さん宛、村長宛、キドやジラら友達宛だ。

 書きながら、今さら思う。
 この世界の文字って、確かに地球のアルファベットに似ている。
 数字なんて、日本語の算用数字が少し変形した形だ。
 そう考えると、間違いなく、人族の祖先は地球の人間だったんだろう。
 もちろん、500年の間にだいぶ文字の形は変わっているようだが、原型はあるのだ。

 何故今まで気がつかなかったのかというと話し言葉が英語じゃないからだ。
 500年前、この地にやってきた人族は、きっと英語ではなくフランス語かドイツ語かスペイン語かオランダ語か、分からないけど僕の知らない言語を話す人々だったのだろう。

 そういえば、この世界でパンを意味する言葉はブロートと発音する。よく覚えていないけど、スペインかオランダかどこかの国ではそうだったような気もする。いや、本当にうろ覚えだけど。

 ともあれ、手紙を書き終えた僕はリーリアンさんの元へと向かうのだった。

 ---------------

 リーリアンさんは忙しそうだった。

 ――そりゃあそうか。

 これからしばらくエルフは長が不在となるのだ。
 しかも、政局が劇的に動いている。
 壊れた建物はエルフの魔力で元通りになっていたが、死んだエルフも多い。
 この状況で長がこの地を去るとなれば、様々な引き継ぎも必要なのだろう。

 邪魔しちゃ悪いかなと思ったが、遠慮している場合でもない。
 僕はリーリアンさんに声をかけ、手紙を渡した。

「ふむ、引き受けよう。もっとも人族の商人に渡す以上のことはできないので確実に届くかどうかは我にはわからないが」

 この世界において、手紙は行商人が運ぶものだ。
 この地からラクルス村に手紙を書くと、おそらく何人もの行商人の手を渡って、最終的にアボカドさんが届けることになる。
 途中で郵便事故が起きる可能性は日本の何十倍も高い。
 それでも、僕は彼に頼むしかない。

「よろしくお願いします」

 僕が頭を下げると、リーリアンさんは頷き、さらに言った。

「人族の子――いや、パドよ。我からもそなたに頼みがある」
「なんでしょうか?」
「バラヌのことだ」

 バラヌ――エルフの里で『いらない子』とされた少年。
 僕の異母兄弟。

「あの子はかわいそうな子だ。この地の者達は、あの子を不当に扱ってきた」

 いや、そんな他人事みたいに。
 この地の長はあなたでしょうと言いたい。

「そなたの言いたいことは分かる。我は長として、皆をまとめる立場だ。そして、魔無子の存在はエルフ族にとって負担にしかならないのも事実であった。
 だが、一個人として、あの子の立場には同情しているし、もっとできることがあったのではないかとも思っている」

 その言葉に言いたいことはたくさんあった。
 身勝手な大人の理屈と叫びたかった。

 だけど。 
 ラクルス村の村長のことを思い出す。
 僕とお母さんを追放した村長の決定。
 村の長として、それ以上僕らをかばえないという村長の事情。

 もしかすると、リーリアンさんにも同じような葛藤があったのかもしれない。

「勝手な理屈だとは思うが、あの子にこの里以外の世界、エルフ以外の価値観を見せてやってほしい。この通りだ」

 リーリアンさんはそう言って、僕に頭を下げた。

 なんだろうね。
 やっぱり勝手な理屈だと思う。
 だけど、エルフの魔力絶対主義は筋金入りだとも感じる。それは単なる差別意識ではなく、生活全体に根付いた意識だ。
 エルフにとって魔無子とは、人族でいえば手足がない障碍児のようなものなのかもしれない。

 日本なら、障碍者は保護される。少なくとも法律上は差別は良くないとされていた。だから桜勇太も11年間生かしてもらえた。
 だけど、この世界にはそこまでの人権意識はない。
 むしろ、5年間バラヌが、少なくとも里を追われなかったのはリーリアンさんの配慮があったからなのかもしれない。

 そのことも分かるから。
 僕は彼を責めることができない。

 だから代わりにこう言った。

「そのつもりです。僕はバラヌの兄で、彼は半分人族ですから。エルフの価値観以外のものを教えます」

 その言葉に、リーリアンさんは頷いてくれた。

 ---------------

 そして旅立ちの時。

 エルフの里の広場で、ピッケはドラゴン形態に変形する。
 そして、その大きな口を開いた。

「じゃあ、みんなー、僕の口の中に入ってよー」

 ――はい?

 僕ら――王都に行く、僕、アル様、リラ、レイクさん、キラーリアさん、バラヌ、さらにはルアレさんも含め――戸惑うしかない。

 代表してアル様が一言ツッコんだ。

うきか!?」

 いや、アル様、さすがにそれは。
 でも、口の中に入れと言われるとなぁ。

「ははは、まさかぁ。僕らに肉食の習慣はないよー。でも、他に乗るところないでしょ」

 そう言われればそうだ。
 てっきり背中に乗るのかなと思っていたが冷静に考えてみれば掴まるところもなければ、もちろんシートベルトもない。馬の100倍は乗りにくそうだ。
 ハッキリ言って、そんなことをしたら王都に着く前に確実に誰か落っこちる。

「ささ、早く早く。あーでも、喉の奥の方には行かないでね。一度ゴックンしちゃうと吐き出せなくなっちゃうから」

 ――おい。ゴックンって……

 さすがに皆の顔が引きつり、アル様が言う。

「本当に大丈夫なんだろうな……」
「さー、僕も他の種族を乗せて飛んだことなんてないしわかんないよー」

 なんとも、頼もしいお言葉である。

 躊躇し続ける僕やアル様に対し、キラーリアさんがピッケの口へと向かう。

「おい、キラーリア」
「ですが、ここで躊躇していても話が先に進みません」

 まあ、そりゃあ確かにそうだよね。

 僕らは顔を見合わせると、ピッケの口に乗り込んだ。
 ピッケの口は、僕ら全員が入り込むとちょっとキツい。
 あと、涎や息がまとわりつく。どう考えても乗り心地は最悪だ。

「じゃ、いくよー。ころがらないように歯にしっかりつかまってねー」

 分かったけど、僕らを口に入れたまま話さないで。それだけで転がりそうになるからっ!

 ---------------

 こうして、僕らはピッケに乗って王都へと向かうことになった。
 ……王都に着く前に、彼の餌にならなければいいなぁと皆で祈りながら。
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七草裕也の小説
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『異世界で双子の勇者の保護者になりました』

【完結】SFロボットジュブナイル小説
『僕らはロボットで宇宙《そら》を駆ける』

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