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第三部 エルフと龍族の里へ 第三章 龍と獅子と少年少女達
9.ルート選択
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目覚めの気分は最悪だった。
何しろ、どこぞの王女様に怒鳴られて目が覚めたのだから。
「いいかげん目を覚ませ、パド」
寝ている僕を怒鳴った王女様――つまり、アル様はそう言った。
「起きてますよぉ……」
「だったら、とっとと立て」
僕は上半身を起こして周囲を見回す。
ウザったそうに僕らを見下ろすアル様。
心配そうに何やらコップを持っているリラと横に立つバラヌ。
その後ろにはレイクさんとエルフの長リーリアンさん。
――えっと、これどういう状況だ?
――あー、そっか。
バラヌを訪ねて、抱擁しているうちに、僕も眠ってしまったらしい。
あれ、でもここって、僕とレイクさんの部屋だよね?
「まったく。部屋に戻ったらいないから探し回ってみれば兄弟仲良く眠っているんですから……」
レイクさんが言う。うん、確かに書き置きもせずに部屋に戻らなかったのは僕が悪いね。
「ごめんなさい」
ここは素直に謝っておこう。
「まったく。私は男――それも兄弟同士で抱き合って眠るのを見る趣味はないぞ」
いや、アル様、その言い方は色々誤解を招くんですけど。
それにしても、バラヌの方が先に起きていたというのはちょっと恥ずかしい。
「はい、パド、これを飲んで」
リラに渡されたのはコップに入った緑色の液体。
うっ。
これには見覚えがある。お師匠様特製の魔力を使いすぎた時に飲まされるお薬だ。
「ひょっとして、僕、また魔力を使いすぎたの?」
「戦いの後、平気そうだったから私もウッカリしていたんだけどね。声をかけてもずっと起きないし、2日間眠りっぱなしだったし」
マジか。
お師匠様の小屋で『闇』と戦ったときは大丈夫だったんだけどな。
確かに限界近くまで漆黒の刃を使った感触はあったけど。
いや、違うか。
どっちかというと結界魔法の方かもしれない。
獣人に追われたとき、ラクルス村での戦い、今回の戦いと、結界魔法を使うと僕の体はオーバーヒートを起こすみたいだ。
それでも、今回すぐに気絶しなかったのは、少しは体が慣れてきたってことなのかな。
しかし、相変わらず飲みたくない臭いと色の薬だ。
「これ、飲まなくちゃダメ? っていうか、リラこの薬持っていたんだ」
「当然でしょ……といいたいところだけど、エルフの能力なんだと思っているの?」
あ、そうか。
エルフの力は植物を操る魔法。
どうやら、エルフの人達がお師匠様の薬を再現する手伝いをしてくれたらしい。
「ありがとうございます」
僕はリーリアンさんに頭を下げた。
「気に病む必要はない。我らにとってはたやすいこと」
リーリアンさんは相変わらずの口調でそういった。
「さ、そんなわけで、ググっと飲んじゃいなさい」
うう、わかったよ、リラ。
余談。薬は相変わらず気絶しそうにマズかった。どうせならエルフの人達も蜜とかも入れてくれればいいのに。
僕が薬を飲み干したのを確認すると、アル様が語り出す。
「さて、パド。これからの我々の行動を話す」
どうやら、僕が気絶している間に、話はどんどん進んでいたらしい。
ここから先は聞かせてもらったこの2日間のことの要約だ。
---------------
結論から言うと、アル様はエルフや龍族と手を結ぶことになった。
諸侯連立が再現しようとしている武器・兵器の話は、龍族やエルフ族にそう決心させるに十分だったのだ。
500年前は人族の勢力自体が小さかった。
ゆえに、獣人の犠牲は多少あったにせよ、人族に火薬武器を放棄させることができた。
さすがに、船一艘でやってきた人族――ヨーロッパの開拓民達も他の4種族全てを敵に回すことはできなかったのだ。
特に龍族が本気を出せばさすがに勝てない。
なにより、当時の人族の中に鍛冶士はいなかった。武器を持っていたし、修繕くらいはできたが、新たに作り出す技術はなかったのだ。
だが、とレイクさんは語る。
「ですが、今回は違います。もしもドワーフが一部でも諸侯連立に協力すれば、彼らは恐ろしい武器を量産しはじめるかもしれない。それを防がなければならないという点において、我々は一致しました」
もともと、レイクさんが龍族やエルフを説得するための材料として用意していたのはその事実だった。
『闇』が現れたり、7年前自分たちの前に姿を見せたルシフが、再び動き出したというのは、想定外の事項にすぎない。
その為には、諸侯連立に天下を取らせるわけにはいかない。アル様を女王として即位させ、場合によっては諸侯連立を潰す。
その上で、アル様が言うような5つの種族による合同会議を取り計らう。
龍族やエルフもそれで納得したらしい。
アル様が言う。
「もちろん、問題はたくさんある。ドワーフにはまだ何らアプローチをしていないし、獣人に至ってはそもそも全体のとりまとめがなく里ごとに勝手に暮らしているような状態だ。
私が女王となったからといって全てが解決するなどとは思っていない。それでも、諸侯連立が王位を取ることは避けねばならん。諸侯連立と王家が一体化すれば、人族と亜人種の凄惨な戦いになりかねない。教会勢力も抵抗しきれまい」
大体の状況は分かった。
「レイクさんはそれで納得したんですか?」
昨日――いや、一昨日か。あの時の様子だとレイクさんはアル様の提案にかなり難色を示していたように思うけど。
「突飛ではありますが、確かに理想でもありますからね。こうなったら、とことんやりますよ、私は」
そう言って笑うレイクさん。
なんか、毒を食らわば皿まで、破れかぶれとかいう日本語が頭に浮かぶような笑いに感じるけど。
よって、これからは二手に分かれて動くらしい。
片方はアル様とレイクさんを中心に王都に向かい王位継承権を手に入れる。
もう一方は火薬武器の開発をしているというドワーフの現状を探りに行く。
アル様がそれぞれの内訳を言う。
「私とレイク、龍族の長の子、それにルアレが王都に向かう」
「ルアレさん?」
僕が尋ねると、リーリアンさんが頷く。
「人族の文化に1番詳しいエルフであるからな」
なるほど。
さらにリーリアンさんが続ける。
「我は他数人のエルフと共に件のドワーフを訪ねようと考えている」
ドワーフの方はエルフが見ると。
「さて、それをふまえて、パドくんはどうしますか?」
会話の最後は、レイクさんがそう結んだ。
---------------
え、いや、どうするって言われても……どうしたらいいんだろう。
「えっと、確か僕、この里に残るとかいう話をしたような気が……」
すでに状況はだいぶ変わっているけど、バラヌを置いて旅立つのも抵抗があるし。
「ふむ、そのことについては我もうかつだったのだがな」
リーリアンさんが僕の前に右手を広げる。その手の中にあるのは……何かの植物の種?
「えーっと?」
僕が戸惑っていると、種がリーリアンさんの中で一気に発芽する。そのまま茎と根がのび、花が咲く。
――これがエルフの植物を操る魔法。
「人族の少年、汝にこれはできるか?」
「できるわけないじゃないですか」
200倍の魔力を持っていても、僕はあくまでも人族。エルフのように植物を操れるわけじゃない。
「そうであろうな。汝の莫大な魔力に目がくらみ見落としたが、人族には植物を操る能力がない。そうであるならば、この地で汝にできることはそうあるまい」
いや、それ見落としすぎだから。盲点なんてもんじゃないから。
あ、でも、僕も今まで考えもしなかった。
魔力があればそれだけで役に立てるものだとばかり。考えてみれば当たり前だけど。
でも、バラヌは――
僕はバラヌの方をちらっと見る。
この子をこの里に置き去りにしてもいいんだろうか。
でも、だからといって、徒歩10日もかかる砂漠を越え、さらに旅をするには彼は幼すぎる気もする。
そもそも、生まれ育った里を捨てさせるのも抵抗があるし、僕がここに残れるならそれも1つの手だと思ったんだけど……
――あれ、そういえば聞いていなかったけどリラはどうするんだろう?
「リラはどうするの?」
「あなたが選ぶ道について行くわ。パドを1人にしておくのも心配だし」
リラの決意は僕と共に行くということらしい。
そして、彼女は僕がここで旅をやめるなんて欠片も思っていないらしい。
――どうしよう。
――うーん。
レイクさんやアル様は僕に選ばせようとしてくれている。
僕が迷っていることを知った上で、僕の意思を尊重しようと。
これはルート選択だ。
僕だけじゃない。
龍族もエルフも、アル様も、レイクさんも、リラも、みんな選択したのだ。
なら、僕も選ばないと……
――あれ? みんな?
そこでふと気がつく。
なにか忘れているような――いや、何かと言うよりも、誰かというか……
その時だった。
「アル様っ!!」
ルアレさんに案内されて、僕らがすっかり忘れていた存在――キラーリアさんが部屋に入ってきたのだった。
何しろ、どこぞの王女様に怒鳴られて目が覚めたのだから。
「いいかげん目を覚ませ、パド」
寝ている僕を怒鳴った王女様――つまり、アル様はそう言った。
「起きてますよぉ……」
「だったら、とっとと立て」
僕は上半身を起こして周囲を見回す。
ウザったそうに僕らを見下ろすアル様。
心配そうに何やらコップを持っているリラと横に立つバラヌ。
その後ろにはレイクさんとエルフの長リーリアンさん。
――えっと、これどういう状況だ?
――あー、そっか。
バラヌを訪ねて、抱擁しているうちに、僕も眠ってしまったらしい。
あれ、でもここって、僕とレイクさんの部屋だよね?
「まったく。部屋に戻ったらいないから探し回ってみれば兄弟仲良く眠っているんですから……」
レイクさんが言う。うん、確かに書き置きもせずに部屋に戻らなかったのは僕が悪いね。
「ごめんなさい」
ここは素直に謝っておこう。
「まったく。私は男――それも兄弟同士で抱き合って眠るのを見る趣味はないぞ」
いや、アル様、その言い方は色々誤解を招くんですけど。
それにしても、バラヌの方が先に起きていたというのはちょっと恥ずかしい。
「はい、パド、これを飲んで」
リラに渡されたのはコップに入った緑色の液体。
うっ。
これには見覚えがある。お師匠様特製の魔力を使いすぎた時に飲まされるお薬だ。
「ひょっとして、僕、また魔力を使いすぎたの?」
「戦いの後、平気そうだったから私もウッカリしていたんだけどね。声をかけてもずっと起きないし、2日間眠りっぱなしだったし」
マジか。
お師匠様の小屋で『闇』と戦ったときは大丈夫だったんだけどな。
確かに限界近くまで漆黒の刃を使った感触はあったけど。
いや、違うか。
どっちかというと結界魔法の方かもしれない。
獣人に追われたとき、ラクルス村での戦い、今回の戦いと、結界魔法を使うと僕の体はオーバーヒートを起こすみたいだ。
それでも、今回すぐに気絶しなかったのは、少しは体が慣れてきたってことなのかな。
しかし、相変わらず飲みたくない臭いと色の薬だ。
「これ、飲まなくちゃダメ? っていうか、リラこの薬持っていたんだ」
「当然でしょ……といいたいところだけど、エルフの能力なんだと思っているの?」
あ、そうか。
エルフの力は植物を操る魔法。
どうやら、エルフの人達がお師匠様の薬を再現する手伝いをしてくれたらしい。
「ありがとうございます」
僕はリーリアンさんに頭を下げた。
「気に病む必要はない。我らにとってはたやすいこと」
リーリアンさんは相変わらずの口調でそういった。
「さ、そんなわけで、ググっと飲んじゃいなさい」
うう、わかったよ、リラ。
余談。薬は相変わらず気絶しそうにマズかった。どうせならエルフの人達も蜜とかも入れてくれればいいのに。
僕が薬を飲み干したのを確認すると、アル様が語り出す。
「さて、パド。これからの我々の行動を話す」
どうやら、僕が気絶している間に、話はどんどん進んでいたらしい。
ここから先は聞かせてもらったこの2日間のことの要約だ。
---------------
結論から言うと、アル様はエルフや龍族と手を結ぶことになった。
諸侯連立が再現しようとしている武器・兵器の話は、龍族やエルフ族にそう決心させるに十分だったのだ。
500年前は人族の勢力自体が小さかった。
ゆえに、獣人の犠牲は多少あったにせよ、人族に火薬武器を放棄させることができた。
さすがに、船一艘でやってきた人族――ヨーロッパの開拓民達も他の4種族全てを敵に回すことはできなかったのだ。
特に龍族が本気を出せばさすがに勝てない。
なにより、当時の人族の中に鍛冶士はいなかった。武器を持っていたし、修繕くらいはできたが、新たに作り出す技術はなかったのだ。
だが、とレイクさんは語る。
「ですが、今回は違います。もしもドワーフが一部でも諸侯連立に協力すれば、彼らは恐ろしい武器を量産しはじめるかもしれない。それを防がなければならないという点において、我々は一致しました」
もともと、レイクさんが龍族やエルフを説得するための材料として用意していたのはその事実だった。
『闇』が現れたり、7年前自分たちの前に姿を見せたルシフが、再び動き出したというのは、想定外の事項にすぎない。
その為には、諸侯連立に天下を取らせるわけにはいかない。アル様を女王として即位させ、場合によっては諸侯連立を潰す。
その上で、アル様が言うような5つの種族による合同会議を取り計らう。
龍族やエルフもそれで納得したらしい。
アル様が言う。
「もちろん、問題はたくさんある。ドワーフにはまだ何らアプローチをしていないし、獣人に至ってはそもそも全体のとりまとめがなく里ごとに勝手に暮らしているような状態だ。
私が女王となったからといって全てが解決するなどとは思っていない。それでも、諸侯連立が王位を取ることは避けねばならん。諸侯連立と王家が一体化すれば、人族と亜人種の凄惨な戦いになりかねない。教会勢力も抵抗しきれまい」
大体の状況は分かった。
「レイクさんはそれで納得したんですか?」
昨日――いや、一昨日か。あの時の様子だとレイクさんはアル様の提案にかなり難色を示していたように思うけど。
「突飛ではありますが、確かに理想でもありますからね。こうなったら、とことんやりますよ、私は」
そう言って笑うレイクさん。
なんか、毒を食らわば皿まで、破れかぶれとかいう日本語が頭に浮かぶような笑いに感じるけど。
よって、これからは二手に分かれて動くらしい。
片方はアル様とレイクさんを中心に王都に向かい王位継承権を手に入れる。
もう一方は火薬武器の開発をしているというドワーフの現状を探りに行く。
アル様がそれぞれの内訳を言う。
「私とレイク、龍族の長の子、それにルアレが王都に向かう」
「ルアレさん?」
僕が尋ねると、リーリアンさんが頷く。
「人族の文化に1番詳しいエルフであるからな」
なるほど。
さらにリーリアンさんが続ける。
「我は他数人のエルフと共に件のドワーフを訪ねようと考えている」
ドワーフの方はエルフが見ると。
「さて、それをふまえて、パドくんはどうしますか?」
会話の最後は、レイクさんがそう結んだ。
---------------
え、いや、どうするって言われても……どうしたらいいんだろう。
「えっと、確か僕、この里に残るとかいう話をしたような気が……」
すでに状況はだいぶ変わっているけど、バラヌを置いて旅立つのも抵抗があるし。
「ふむ、そのことについては我もうかつだったのだがな」
リーリアンさんが僕の前に右手を広げる。その手の中にあるのは……何かの植物の種?
「えーっと?」
僕が戸惑っていると、種がリーリアンさんの中で一気に発芽する。そのまま茎と根がのび、花が咲く。
――これがエルフの植物を操る魔法。
「人族の少年、汝にこれはできるか?」
「できるわけないじゃないですか」
200倍の魔力を持っていても、僕はあくまでも人族。エルフのように植物を操れるわけじゃない。
「そうであろうな。汝の莫大な魔力に目がくらみ見落としたが、人族には植物を操る能力がない。そうであるならば、この地で汝にできることはそうあるまい」
いや、それ見落としすぎだから。盲点なんてもんじゃないから。
あ、でも、僕も今まで考えもしなかった。
魔力があればそれだけで役に立てるものだとばかり。考えてみれば当たり前だけど。
でも、バラヌは――
僕はバラヌの方をちらっと見る。
この子をこの里に置き去りにしてもいいんだろうか。
でも、だからといって、徒歩10日もかかる砂漠を越え、さらに旅をするには彼は幼すぎる気もする。
そもそも、生まれ育った里を捨てさせるのも抵抗があるし、僕がここに残れるならそれも1つの手だと思ったんだけど……
――あれ、そういえば聞いていなかったけどリラはどうするんだろう?
「リラはどうするの?」
「あなたが選ぶ道について行くわ。パドを1人にしておくのも心配だし」
リラの決意は僕と共に行くということらしい。
そして、彼女は僕がここで旅をやめるなんて欠片も思っていないらしい。
――どうしよう。
――うーん。
レイクさんやアル様は僕に選ばせようとしてくれている。
僕が迷っていることを知った上で、僕の意思を尊重しようと。
これはルート選択だ。
僕だけじゃない。
龍族もエルフも、アル様も、レイクさんも、リラも、みんな選択したのだ。
なら、僕も選ばないと……
――あれ? みんな?
そこでふと気がつく。
なにか忘れているような――いや、何かと言うよりも、誰かというか……
その時だった。
「アル様っ!!」
ルアレさんに案内されて、僕らがすっかり忘れていた存在――キラーリアさんが部屋に入ってきたのだった。
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