神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ 第三章 龍と獅子と少年少女達

3.人族

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 人族が嫌い、か。
 なかなかに手厳しい。
 それでは最初から交渉の余地などないのかもしれない。

 そう考えて、しかしすぐに違うと気づく。
 僕は反射的に口を挟んだ。

「何故あなた達は人族を嫌うのですか? それに、あなた達は人族を滅ぼそうとはしていないじゃないですか」 

 龍族の力はさっき見せてもらった。
 あれほどの力があるならば、人族を滅ぼすことも可能に思える。
 本当に人族が嫌いだというならば、何故こんな場所に引きこもっているのか。

 問いかけた僕に、龍族のおさは冷たい瞳を向けた。

「異界より来たという人族の子よ。1つ目の疑問の答えは、そなたの2つ目の疑問にこそある」

 意味が分からずきょとんとする僕。

「分からぬか? 確かに我らがその気になれば人族を滅ぼすことも可能だ。だが、相手が嫌いで滅ぼす力を持っているからといって、滅ぼして良いというものではない」

 ――あ。
 言われてみれば当たり前のことだ。

「我れらが人族を嫌うのは、人族がそういう残酷な発想を容易に行うからだよ。まさに今、なんじが口にしたようにな」

 ――しまった。完全に失言だった。

「……ごめんなさい」

 小さくなる僕。

「そして、人族の本質がそうである以上、先ほどアルが口にしたことも世迷い言にすぎんよ」

 まずい。
 僕が反射的に口にしてしまったことで、アル様の、あるいはリラの願いがついえかねない。

 ――だけど、どうしたらいい?
 ――どうしたらこの失点を取り返せる?

 僕がどぎまぎしているのを横目に、アル様が語る。

「ふっ、龍族の長ともあろうものが子どもの言葉1つでずいぶん飛躍した発想だな。確かにパドの今の言葉は私も感心はしないが、それはそれ。その馬鹿力のガキの言葉だけで人族をひとくくりにすることもあるまい」

 だが、龍族の長はすっと黙念してから言う。

「やはり、そなたらは知らぬのだな。500年前この大陸で起きた本当のことを」
「500年前?」

 ――500年前。
 勇者キダンの時代の話か。

「なんじら人族は歴史を作り替えた。我は500年前ほんのりゆうであったが覚えているぞ。血塗られた人族の歴史を、な」
「血塗られた歴史?」
「そなたらが勇者と呼ぶ男の、真実の話だよ」

 ---------------

 勇者キダン。
 女剣士ミリス、僧侶グリカード、賢者ブランドの3人と共にこの大陸を救った存在。
 魔物から人々を救い、聖テオデウス王国の初代王となった。

 ラクルス村でジラ達が勇者ごっこで遊ぶくらいには大陸中の人々に知られた存在だ。
 少なくとも、現国王よりは有名だろう。
 そもそも、歴代国王が王たる資格を持つのはキダンとミリスの子孫だからだ。

 ……というのが、一般に知られている勇者キダンの伝説だ。実際のところ、何本もの絵巻になったり、何章からもなる詩吟になったりしているらしいが。

 ---------------

 アル様が首をひねって言う。

「あのうさんくさい勇者伝説のことか?」

 ――うさんくさいって。

「アル様、なんということを……」

 レイクさんが何やら言っているが、アル様は冷たい視線を向けて言う。

「勇者と剣士と僧侶と賢者が世界を救った? どこのおとぎ話だ。
 そもそも、魔物とはなんだ? この地にそんなものいないではないか」

 ――魔物とは何か。
 僕はスライムとかも魔物の一種かと思っていたけど。
 いや、違うか。スライムやアベックニクスは単なる動物――害獣でしかない。
 スライムが畑を荒らしていたのはあくまでも食べ物を欲する本能だし、アベックニクスが僕らを襲ったのはルシフが何かしたかららしい。

 勇者伝説の魔物はもっと明確に人間に対して悪意を持っている。
 それこそ、人間を滅ぼさんとする強力な意識を。

 魔物を打ち倒すと言うが、そもそもこの世界に魔物なんていない。
 500年前にルシフが『闇』を送り込んでいたということでもないだろう。もし戦った相手が『闇』だというなら、魔法が使えなかったという剣士ミリスが『闇』に太刀打ちできたとは思えないし。

 レイクさんがアル様に反論する。

「それは勇者キダンが魔物を全て退治したから……」

 だが、アル様は鼻で笑った。

「この広い大陸全てからか? たった4人で? 仮に勇者とやらがパド並の、あるいはその数倍以上の力と魔力を持っていたとしても不可能だな」

 そりゃあそうだ。
 確かに勇者キダンの物語はできすぎだ。
 ぶっちゃけ、どこのRPGだとツッコミたくなる話である。

 そんなアル様達の様子を見て、龍族の長が笑い出した。

「クククッ。面白い。なかなかに面白いぞ、アルよ」

 龍族の長はおかしくてたまらないらしい。

「何がそんなにおかしい?」
「いや、すまぬな。よもや、人族の王の子がそのような思考をする時代が来ると思いもしなかったのでな」
「ふん、この程度のことが考えられない方がどうかしている」
「ならば語ろう。500年前の真実をな」
「拝聴しようか」

 そして、龍族の長は語り始めた。
 僕らの知らない、この大陸の真の歴史を。

「そもそも、この大陸には4つの種族が住んでいた。すなわち、龍族、エルフ、ドワーフ、そして獣人だ」
「ふむ。ならば人族はどこから現れた?」
「我らにも正確なところは分からぬ。だが、人族はある日突然現れたというのが正しい。大陸の北の果て――今王都と呼ばれている場所だ」

 人族は500年前に突然に現れた?
 どういうことだ?
 この大陸には元々人族はいなかったのだとしたら……

「海の向こうの別大陸からやってきた、とか?」

 頭に浮かんだそんな可能性を口にする僕。

「違う。この世界に大陸は1つしか存在しない」

 それは初耳……いや、ルシフもそんなことを言っていたか。

「じゃあ、一体どこから……まさか、星の彼方かなたとか」

 人族は宇宙人――いや、異星人だった……?
 ちなみに、星の彼方というやたら詩的な言い方を僕がしたのは、単純にこの世界における『宇宙』を意味する単語を知らなかったからである。

 だが、龍族の長はそれも否定する。

「それも違うな。人族は、おそらく別の世界からやってきた。転生――いや、この場合は転移と呼ぶべきか――そうやってやってきた集団だ」

 ――異世界転移!?
 ――まさか、そんな。
 いや、確かに僕は異世界転生をしたけれども。

「でも、ルシフは人が世界を渡るなんて不可能だって……」

 言いかけた僕に、アル様がツッコミをいれる。

「パド、お前は未だにあのクソガキの言葉にとらわれているのか?」

 ――う、確かに。

「我も彼らの正体については詳しくは分からぬ。伝え聞くところによれば、彼らは世界が球体であることを証明し、あらたな航海路を開拓するために船旅に出たらしい。その多くが失敗に終わり、彼らもまた嵐に飲まれたと」

 ――ちょっと待って、それって。

 僕の中で、ある考えが思い浮かぶ。
 いや、まさかそんなことは。

「彼らが本来目指していたのは……なんと言ったかな、インヂア……いや、インディアだったか」

 僕は背中に脂汗が浮かぶのを意識していた。

 僕は前世の世界史にそんなに詳しいわけじゃない。
 だけど、15世紀か、それより少し前の時代に、ヨーロッパの人々が西回りでインドへと向かおうとしたということくらいは知っている。
 たしか、コロンブスとか、そういう時代の話だ。
 500年前という時代も、いわゆる地球の大航海時代にある程度一致するんじゃないか?

 冷静に考えてみれば。
 この世界の人族はあまりにも前世の人間と姿形がそっくりだ。
 偶然とはとても思えないほどに。

 エルフや獣人もそうだから、深くは考えなかったけど。
 でも、獣人は思春期を超えたら獣の姿が色濃く出てくるし、エルフの生活ぶりは前世の人間とはずいぶん違う。

 だけど、人族は?
 あまりにも前世の人間と同じだ。
 魔法という概念を除けば、まさに中世ヨーロッパの文化そのままじゃないか?
 いや、中世ヨーロッパの実際の姿なんて知らないし、実態はずいぶん違うかもしれないけど。でも、それでも。

 まさか、そんなことが。
 僕は自分の身体からだが震えるのを抑えられなくなっていた。

 だが、龍族の長が語る歴史の本題は、まだこれからだった。
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七草裕也の小説
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