神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ 第三章 龍と獅子と少年少女達

1.龍族

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 エルフの里に襲いかかった『闇の獣』達との戦いはれつを極めていた。
『彼女』を含む3体で、人型の『闇』こそ打ち止めのようだが、『闇の獣』は際限なく現れる。

 一体一体を倒すのは、少なくともリラや僕やアル様にとってそこまで難しくはない。
 僕の漆黒の刃やアル様の大剣で斬ればヤツらは消滅するし、リラの浄化の炎で数匹まとめて消すこともできる。

 だが、だとしても数が多すぎる。
 しかも、戦いが広範囲に広がっていて、とてもじゃないけど僕らだけでは全てのエルフを守りきれない。

 僕の魔力やアル様の体力にも限界があるし、リラの浄化の炎だってだんだんと威力が弱まっている。
 怪我をしたエルフが大勢いて、レイクさんやエルフの治癒師が回復魔法をかけているけど、そんな間もなく死んでしまった者も多い。
 バラヌや元気なエルフ達はレイクさんの手伝いをしているようだ。

 何より問題なのが、終わりが見えないということだ。
 例えば、100匹倒せばそれで終わるというなら、僕らだって頑張れる。それが1000匹だろうと、10000匹だろうと、やれるだけやってやるって気持ちになる。
 そのくらいの覚悟は、もう僕だって持っている。

 ――だけど。

 何匹倒しても際限なく現れる敵。
 これは気力が萎える。
 冗談抜きに、ルシフは『闇の獣』を無限に生み出せる可能性だってあるのだ。
 42.195km先にゴールがあるマラソンなら頑張れても、ゴールが永遠にやってこない持久走をいつまでも走り続けるのは無理だ。

「アル様、このままじゃっ」
「分かっている。だがっ」

 アル様の顔にも疲労感が強い。

 ――その時。

 リラに1匹の『闇の獣』が襲いかかる。
 彼女は口を開き浄化の炎を吐こうとする。

 ――が。

 !?
 リラの口から光が出ない!?

「くっ」

 どうやら、本当に浄化の力が限界らしい。

「リラっ」

 僕は叫んでリラのそばに跳び寄り、『闇の獣』を殴り飛ばす。

「ありがとう、パド」

 言うリラの顔にも疲労が強く出ていた。

「リラ、もういいからレイクさんのところに戻って」
「でもっ」
「炎が吐けるようになるまでは足手まといだ」

 あえてハッキリ『足手まとい』と言い放つ。

「っく。わかったわ」

 リラは一瞬悔しそうな顔をするが、すぐに頷いてくれた。

「アル様っ」
「わかっている。もう少しだけ耐えろ」

 もう少しだけって……
 いや、確かに逃亡もできる状況ではなさそうだけど。

 襲いかかる『闇の獣』を蹴り飛ばしながら、僕は叫ぶ。

「そんなこと言ったって、このままじゃジリ貧ですよ」
「先ほどエルフの長に話した」
「でも、エルフには浄化の力はないって」
「ああ、だからヤツは龍族に援護を求めに走っている」

 そうか。
 龍族なら浄化の炎を使える。
 おそらく、リラ以上の浄化の力で、この状況を打開できる。

 だが、龍族が本当に助けてくれるのか、僕には分からない。
 もし、助けが来なかったら……

 そう思ったときだった。

「おおっ」
「龍の方々だ」
「ここまでやってきていただけるとは」

 エルフ達が天を仰ぎ見て言い出す。
 僕もつられて空を見あげると、そこには金色のドラゴン達の姿があった。

 ---------------

 ドラゴン達は全部で20匹くらい。全長はは短いもので10メートル、長いものだと30メートルはありそうだ。

「すっごいな」

 そこが戦場だと言うことも忘れて、僕はドラゴン達を呆然と見上げてしまっていた。
『闇の獣』達もドラゴンの前に戦慄していたからよかったようなものの、そうでなかったら僕はヤツラの爪でひどい目に遭っていただろう。

 地上を確認すると、ドラゴン達が牙の生えた大きな口を開く。
 息を吸い込み、そして光の――浄化の炎を吐き出した。


 ドラゴン達の浄化の炎は、一瞬にして僕らを飲み込んだ。
 あるいはエインゼルの森林全てを包み込んだのかもしれない。
 むろん、浄化の炎に物理的な熱量はほとんどなく、『闇の獣』達だけが消滅していく。

 それはすさまじい力だった。
 リラの浄化の炎など比べものにもならない。

 ――やがて。

 浄化の炎が消えた後には、『闇の獣』の姿はなくなっていたのだった。

 ドラゴン達はそれを確認すると、今度は自身の体を光らせた。
 僕がまぶしさに目を閉じ、再び開けたときには、ドラゴンと同じつのを持つ男女達が20名ほど空に浮かんでいた。

「おお」
「龍の方々が我らをお救いくださった」
「ありがたや、ありがたや~」

 エルフ達は現人神が現れたとばかりに手をこすり合わせて祈る。

 ――彼らが龍族。
 ――人の姿とドラゴンの姿を自在に操る、大陸最強の種族。

 龍族達は僕らの前に降り立ち、そして1番年上のように見える女性が口を開いた。

「エルフとの盟約に従い、この地より『闇』は討ち果たした」

 その龍族に、いつの間にやらやってきていたエルフのおさリーリアンが駆け寄る。

「ありがとうございます。これで里は救われます」

 他のエルフ達も、土下座せんばかりの勢いで龍族に頭を下げている。
 どうやら、エルフにとって龍族は神にも等しい存在らしい。

 そんな、この地では神にも等しい存在に、不躾に声をかける者がいた。

「ふん、お前が龍族のおさか」

 誰あろう、アル様だ。
 もう少し穏便というか、穏やかに話しかけられないものかな。

「ふむ、そなたは……人族か」
「その通り。人族の王の娘だ」
「ほう」

 龍族の長が値踏みをするようにアル様をジロっと見る。

「人族の王の娘が、一体この地に何の用事だ?」
「私の父――人族の王がもうじきくたばりそうでな。私はその前に女王になりたい。そこで龍族に私の後ろ盾になってほしい」

 大仰に言い放つアル様に、龍族の長は表情も変えない。

「ふむ。要件は分かった。だが、我らがそなたの後ろ盾にならねばならぬ理由を教えてほしい」

 それはそうだ。

「そうだな」

 アル王女は同意して頷く。

「龍族よ、それについては私から説明を……」

 レイクさんが説明を始めようとする。おそらくリーリアンさんにしたのと同じ理屈を話すつもりだろうけど、それで彼らが動くか?

 だがそんなレイクさんをアル様が押しとどめる。

「黙れ、レイク」
「え、いえ、しかし」
「私は私なりのやり方でヤツラを説得する」

 しばし沈黙が流れ。
 レイクさんはため息交じりに頷いた。

「わかりました、アル様の御随意のままに」

 その様子を見守った後、龍族の長が言う。

「よかろう。そなた達がこの地を護るために尽力したことに敬意を払い、話は聞くとしよう」

 こうして、アル様と龍族との交渉が始まった。
 そのなかで、僕はアル様の壮大な計画を知ることになるのだった。
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七草裕也の小説
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