神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう

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第三部 エルフと龍族の里へ  第二章 エルフの里で

7.闇を断つ少年

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 結界を叩き攻撃し続ける3体の『闇』達。
 そのたびに、僕の魔力が削られていくのが分かる。
 もう、躊躇していられない。

「これから結界を解く。そうしたら、まずリラは浄化の炎でやつらを牽制して」
「分かったわ」
「後は僕が相手をする。2人は他のエルフ達を助けに向かってくれ」

 その言葉に、リラが驚く。

「でも、パド1人じゃ……」
「ごめん、むしろ2人はこの場じゃ邪魔だ」

 リラの浄化の炎は確かに『闇』や『闇の獣』に効果はある。
 だが、『闇の獣』ならともかく『闇』を一発で消せるわけじゃない。
 そして、リラも、おそらくバラヌも、相手の攻撃を躱し続けるほどの肉体的な戦闘力はないだろう。

「バラヌは1人でもたくさんのエルフを助けられるように、リラを案内して」

 僕が言うと、バラヌは戸惑った表情。

「でも、僕は……」
「リラも僕も、この里の土地勘がないんだ。道案内は君にしてもらわないと」

 本当のところは、バラヌが素直にこの場から立ち去るようにするための方便だった。
 ここには彼のお母さんの遺体があって、そのかたきがいる。
 すぐに立ち去る決断をしてくれるか分からなかったから。

「僕は、で、役立たずのいらない子で……」
「魔力なんて関係ないよ。僕の友達には魔法なんて使えないけど、一生懸命村の復興を頑張っているヤツもいるんだから」

 僕の言葉に、バラヌは目を見開く。
 魔力絶対主義のエルフの里では驚くべき考え方なのかもしれない。

「今、リラを案内できるのはバラヌだけだ。だから、十分役に立つ」

 僕の言葉に、バラヌは戸惑いを捨て頷いてくれた。

「分かった」

 義母弟おとうとの様子を見て、僕は戦いの決心を固める。

「じゃあ、結界を解くよ」

 そして再び、戦いが始まる。

 ---------------

 リラの浄化の炎がきらめく。
『闇』達は怯み、僕らから距離を取る。

「行って! リラ、バラヌ!!」

 僕の言葉に、リラとバラヌが駆け出す。
 バラヌはリラの手を引いている。ちゃんと案内しようとしているのだ。

 その2人の背に向けて、指を伸ばす1体の『闇』。
 僕は漆黒の刃でヤツの指を切り落とす。

「お前達の相手は、僕だ」

 叫んで一体目の闇に飛びかかる。

 3対1。数の上では不利。
 いや、数だけでなく実力だって不利だろう。

 だからこそ、1体目には高速跳躍で接近し、一気に斬り捨てた。
 脳天から切断され、あっという間に消える『闇』。

「次っ!!」

 リリィのなれの果ては後回し。
 まずは2体の方が先決だ。

『闇』の指が僕に襲いかかる。
 高速で跳び回り、交わしていく。

 大丈夫、コイツはそこまで強くない。
 少なくとも、キラーリアさんのように、僕の動きについてこれてはいない。

「うぉぉぉぉ!!」

 多少、攻撃されても構わない。
 僕は叫んで2体目の『闇』に斬り掛かる。

 リリィのなれの果ては、はなっから他の2体を庇うつもりはないらしく、僕と『闇』の間に邪魔者はいない。
 勝負は一瞬でついた。
 僕の攻撃を防ごうとした『闇』の指ごと、僕の漆黒の刃はヤツの存在をかき消した。

 ――さあ、残るは。

 僕はリリィのなれの果てへ――闇に染まったリリィへ、漆黒の刃を向けた。
『彼女』もまた、僕に向かって黒い剣を構えた。

 ---------------

 世の中、上手くいかないことがたくさんある。

『彼女』の剣と、漆黒の刃を交えながら僕は思う。

 病気を持って生まれた桜勇太は、家族と暮らすことも、学校に通うこともできなかった。
 チートをもって生まれたパドは、家族に心を開くことも、友達と勇者ごっこをすることもできなかった。
 獣人達からリラを護ろうとしても、最後は結局ブシカお師匠様の力を借りなければ助けられなかった。
 ラクルス村を『闇』から救おうとしても、僕の力でむしろ村を半崩壊に導いてしまった。
 僕のお母さんは未だに心を失ったままで、村の復興はジラに押しつけてしまった。
 お師匠様も死なせてしまったし、バラヌのお母さんも助けられなかった。
 そして、リリィ。彼女の気持ちを慮ることもできず、『闇』に染めてしまった。

 これまで、ずっと『できないこと』がいっぱいあったように思う。

 だけど。
『できたことも』たくさんあるんだ。

 僕が生まれることで、前世の両親も、今の両親も喜んでくれたと思う。
 アベックニクスからキドやテルやジラを助けることもできた。
 リラを、少なくとも獣人に手渡すことはなかった。
『闇』にラクルス村の皆やリラやアル様達を殺されることもなかった。
 バラヌをはじめ、何人かのエルフを救うことだってできる。

 きっとこれからも、『できないこと』も『できること』もたくさんたくさんあるんだろう。
 龍族の力を借りるとか、アル様を王位につかせるとか、そんなのは僕1人では難しい。
 リリィを助ける方法も分からない。

 でも、今、リラやバラヌを助けることならできる。
 お母さんの心は絶対に元に戻してみせる。

 だから、僕は戦う。
 リリィ、キミを倒してでも、先に進む!!

「……パド……シネ……」
「リリィっ!!」

 最後の斬り合い。

『彼女』の黒い剣と、僕の漆黒の刃がぶつかる。

 これ以上は魔法が持たない。
 ここで決める!!

 僕はチートを全て左手に込め、振り下ろす。
『彼女』の剣が割れる。

「……あ、ああ……」

 漆黒の刃は『彼女』の右肩から、体を切り裂いていく。

 ――リリィっ!!

『彼女』は手を伸ばす。

「……アル、おねえ……さま……」

 その手を伸ばした方向には、レイクさんを従え、こちらに駆け来るアル様の姿があった。

 ---------------

『彼女』が消えた時、ちょうどアル様とレイクさんが僕の元にやってきた。
『闇』の弱点を教えると、エルフのおさは龍族と連絡を取ったらしい。

 エルフには浄化の力は無いが、龍族ならば浄化の炎を吐ける。
 が、彼らがくるまで今しばし時間がかかる。

 いずれにせよ、僕とリラをさがして、アル様はここに来たらしい。

「『闇』は倒したのか?」
「はい」
「リラはどうした?」
「他の『闇の獣』を少しでも倒しに」
「そうか、ならば助勢にいかねばな」
「はい」

 暗い顔のまま頷く僕に、アル様は尋ねる。

「どうした? 何かあったのか?」

 僕は一瞬躊躇し、しかし正直に答える。

「『闇』は……リリィでした」

 その言葉に、2人は息をのむ。

「ごめんなさい。『彼女』を助ける方法は分からなくて、僕は……」

 リリィはアル様のお気に入りで、レイクさんの姪っ子だ。
『彼女』を斬り倒した僕は、この場でアル様に殺されても文句は言えない。

 だが。

「そうか」

 アル様は短くそう答えただけだった。

「あの、アル様……」
「その話の続きは後で聞かせてもらおう。今はリラを助けるときだ」

 アル様はそれだけいうと、その話題について、その場ではそれ以上触れなかった。

「はい」

 僕は今度こそしっかり頷いて、バラヌとリラの後を追うのだった。
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七草裕也の小説
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